コンピュータ科学で世界の上位1%に位置するといわれる山東大学で、コンピュータ教育の黎明期から第一人者として活躍してこられたのが石冰先生だ。2003年には「山東省大学生ソフトウェア設計コンテスト」を始められた。15年目を迎える今年は、70校、6000人の学生が参加する大会に成長した。日中の学生の交流をはかり、お互いの人材育成をしたいといわれる。また、日本の学生が中国でインターンシップを経験できる場をつくりたいとも。山東省を中国の窓として、ぜひ、実現していきたい。(本紙主幹・奥田喜久男)

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2017.8.23/中国・山東省済南市の山東大学ソフトウェア学院にて

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第195回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

プログラミングコンテストを通じて
日中の学生交流を深めたい

奥田 「山東省大学生ソフトウェア設計コンテスト」を、今後どのように発展させていきたいとお考えですか。

 これまで15年続けてきましたが、15年後も同じように続けていたいと思います。例えば、日中の学生交流をしたらどうでしょう。両国の大学生がコンテストを通じて連携し、5年、10年、20年と年を重ねるごとに日中の国、個人、ビジネスの面で大きな成果が出せるのではないでしょうか。両国の人材育成のいい面をお互いに取り入れて、お互いが人材を育成していってはどうでしょう。

奥田 同感です。その第一歩として、山東省には済南市があり、山東大学があり、ソフトウェア学院があり、それをかたちづくってこられた石先生がいらっしゃる。こうしたことを日本の人々に伝えていきます。石先生のようなリーダーにはとても大きな影響力があります。その一人のリーダーの姿を日本のIT業界の人々に伝えていきます。

 もう一つ夢があります。日本の学生が中国でインターンシップを経験できるセンターをつくりたいのです。山東大学に日本の学生を招いて、中国の学生とともに3か月、6か月と同じ釜の飯を食べ、同じところに寝泊まりし、同じ学校で一緒にプロジェクトに取り組む環境をつくりたいのです。

奥田 すばらしいですね。ただ、日本人はビールで有名な青島は知っていても、済南を知らない人が多い。まずは済南、山東大学、石先生のことを伝えるところから始めます。

米国で開催される
ACM-ICPCの決勝大会にも出場

奥田 プログラミングの世界大会のようなものはあるんでしょうか。

 山東大学は、ACM-ICPC(国際大学対抗プログラミングコンテスト)の決勝大会に進出する目的で、中国の情報五輪コンテストに参加しています。各省で選抜して、中国の代表を決め、アジア大会を経て米国で決勝が行われます。

奥田 山東大学のこれまでの成績はどうでしたか。

 米国で開催される決勝に2回進みました。世界でおよそ150チームが参加するのですが、最初に決勝進出したのが08年で47位、次が11年で等外という成績でした。

奥田 中国のなかで、済南の子どもたちのプログラミング能力はどれくらいなんでしょうか。

 山東省の高校生のレベルを考えると、子どもたちの点数は全国でもトップレベルです。人数も大勢います。

奥田 優秀な子どもたちを育てるには、優秀な教育者が欠かせません。

 その通りですね。最も必要なのは、社会の需要です。例えば、中国の宇宙開発のスピードは非常に速い。そこでは人材教育プラットフォームの質がとても高く、そのなかから優秀な教育者も生まれてきます。どんなチームにするかも重要ですね。社会の要望に合わせてチームをつくって優秀な教育者を養成していくわけです。また、中国で博士号を取得して、研究のため日本に留学して、中国で優秀な教育者として活躍している人もいます。こうした環境も大事です。優秀な教育者を育成するには、適した環境に早く身を置くことで、早く成長していくことができるわけです。

奥田 「孟母三遷の教え」ということですね。

山東省、済南を中国の窓として
若者交流の環境をつくる

奥田 山東省には石先生というすばらしい先生がいらっしゃるということを実感しました。ソフトウェア教育に熱心で実績も上げておられる石先生が、人物を育てるという意味で重視されているのはどんな点ですか。

 山東大学では教育に重視している点が二つあります。一つは「忠誠心」。基礎教育を通じて、国や会社、友達に対する忠誠心を重んじるように教えます。もう一つは「やり遂げる」ということを重要視しています。そのおかげで、山東省の大学の卒業生は転職率が低いんです。山東省の人と日本の人はよく似ているように思います。どこか日本の社会にも似ていますよね。

奥田 済南と日本はとても似ているんですね。私にとっての中国は、まず、750万人の済南、9500万人の山東省です。私は中国人と中国の歴史が好きです。日本の若者たちも、一度中国に来れば中国が好きになるでしょう。まず山東省に日本の若者を連れてきたい。いま、その方法を考えています。広い中国のどこの都市に行くかによっても印象はまったく違います。まず、山東省、済南を、日本人にとっての中国の窓にしたいんです。

 一緒にできる環境を一番いい方法でつくることですね。山東省がわからなければ、中国を理解できないと思います。お互いに理解できる環境をつくることが大事です。

奥田 プログラミング言語という共通語を介して、日本と済南の若者が交流する環境をぜひ一緒につくりましょう。本日はありがとうございました。

■中本はこちら
山东人和日本人很像 期待济南能成为辽阔中国的窗口――第195回(下)
 

こぼれ話

 お酒にはお国柄がある。日本は日本酒。ドイツはビール。読者の皆さんも異論はないであろう。では中国は何か。日本人の多くは“紹興酒”と答えるのではないか。私も足しげく中国に出向くまではそう思っていた。青島ビールを生産している山東省では“白酒”なのだ。
 
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 山東省の済南に通い始めて友人ができると、必ず宴席に誘われる。どのお店に入っても丸いテーブルがある。そこで質問。上座に座る人は誰か? 日本は招待された人である。中国は招待した本人である。「えっ、本当」と驚いてしまう。

 こうした決まりはそれぞれの国にあろう。山東省の宴会の進行にも、飲み方にも決まりがあって、山東人の友人たちはその行儀作法を厳格に守っている節がある。宴の開始、自己紹介を兼ねたスピーチ、乾杯相手を指名して白酒を一気飲みして盛り上がる。前後不覚になって天使の気分で舞い上がり、その後は奈落の底に転げおちるという格闘技のような宴なのだ。

 宴は年齢を越えて一体感を醸し出す。60度の酒を煽り続けるのだから、訳もわからなくなる。宴は偶然に盛り上がるわけではない。リーダーの存在が宴の“質”を高めて行く。すぐれた人材はすぐれた教育者のもとで育つが如しである。布袋様に似た石冰先生が宴のリーダーとなると、まさに水を得た魚のように、宴は盛り上がり、たけなわとなり、白酒の空ボトルがずらりと並ぶ。この痺れるような体験をしたい方は済南にご一緒しましょう。

 プログラミングと宴の相関関係について次回は石先生と議論してみたい。