今回の対談はいささか趣を異にして、横浜・鶴見にある東芝のタービン工場でスタートした。取材クルーは全員ヘルメットを装着し、製作中の大きなタービンを前にして統括技師長の佐々木さんの説明に耳を傾ける。なかなか経験することができない贅沢な時間だ。専門知識がなくても、おおよその内容は五感で理解することができた(気がした)。やはり、ものづくりについて語り合うには、“現場の匂い”が強力なスパイスになる。
(本紙主幹・奥田喜久男)

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2017.10.4 /横浜市鶴見区東芝京浜事業所タービン工場にて

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第199回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

大切なのは
物理的に考えてつくること

奥田 佐々木さんは東芝に入社以来、ずっとタービンの開発に携わってこられましたが、技術に目覚めたのはいつ頃ですか。

佐々木 小さい頃から理科が好きで、とくに虫や魚を採るのが大好きでした。自分では覚えていないのですが、小学校2年のときに、先生に「科学者になりたい」といったらしいです。

奥田 その理科少年が、タービンを選んだきっかけは何だったのでしょうか。

佐々木 中学、高校とずっと理系科目が好きで、大学では航空工学科に進みました。学部でも大学院でも流体力学を専攻したので、それでタービンをつくっている東芝に入社したのです。

奥田 ちなみに、航空工学とはどんな学問ですか。

佐々木 基本的には機械工学と一緒です。単純にいうと、飛行機を素材にして機械工学を学ぶということですね。そのなかで、材料力学、流体力学、構造力学といった力学の勉強をするんです。

奥田 タービンといっても、一般の人にはあまり馴じみがないですね。

佐々木 一番身近なタービンは風車ですね。そして、その反対の原理をもつのが扇風機です。扇風機は圧縮機の一種ですが、私が会社に入って最初に携わったのが、ガスタービンの圧縮機の設計です。圧縮機というものは、自然に逆らって圧力を上げるから難しいんです。例えば、膨らんだ風船を手から放せば一気に空気が噴出しますが、その風船を膨らませるのは大変です。それと同じで、少しずつしか圧力を上げることができません。無理やり圧縮しようとするとどこかで剥離が起きたりして、効率の悪い機械になってしまう。そうしたところが、設計の難しいところですね。

奥田 タービンに限らず、ものづくりで重要なポイントがあるとすればどんなところですか。

佐々木 若い技術者たちには、「物理的に考えてつくれ」といっています。頭でっかちという意味ではないのですが、理屈のうえでできないものの設計はできないということです。つまり、原理原則に則って設計しないと、必ずおかしなことが起きるということ。あたりまえのことですが、こうしたことは往々にして忘れられがちなため、いつもしつこくいい続けています。

奥田 ものをつくるには、すべて理屈があるということでしょうか。

佐々木 理屈がどうしてもわからなくて、実験を重ねることはあります。ただ、まずは考えることが先です。闇雲にやってできることなんてないのですから。

奥田 「東芝流ものづくり」といったものはあるのですか。

佐々木 東芝の社員は、非常に真面目です。技術に正直というか、トラブルが起こったときなど、本当に最後の最後まで考えようとするんです。本来だったら怒られる話ですが、トラブルの後「そこまでやってくれてありがとう」と、お客様からほめられたりするほどです。

 トラブルに至る事情はいろいろですが、絶対に逃げません。契約上は、違約金を払えば「できません」といって逃げられます。でも、東芝ではそういうことはまずやらないですね。最後の最後まで、きちんと動くまでやる。いい意味でも悪い意味でも、とても真面目です。

奥田 それは、代々先輩から伝えられたスピリットなのでしょうか。

佐々木 DNAだと思います。

進化する技術のなかで
新しいビジネスの芽を見出す

奥田 タービンという製品は製作に手間がかかり、納入してからも、お客さんと長いつき合いになるのでしょうね。

佐々木 受注してから納入するまでに2年から3年かかるものが多いですね。製品寿命は30年といわれています。

奥田 納めてから30年ですか。

佐々木 技術者からみれば、30年はもたせないと、という感じです。あまりにも壊れないので「もうちょっと上手に設計してよ」と、営業から冗談を言われることはありますね(笑)。

奥田 壊れないと、その間にビジネスチャンスがないと……。

佐々木 定期検査がありますから、まったくないということはありません。例えば、2年とか5年に1回、全部分解してチェックを行いますが、その際に必要な消耗品の交換などをします。そして、私たち技術者にとってのビジネスチャンスという観点では、常に技術は進歩しているので、5年も経過すれば「ここをこう変えたら、効率が1.5%上がりますよ」といった提案ができるわけです。そうすると、30年後ではなく10年後に、外側は一緒だけど、中身をそっくり交換してくれといった注文をいただくこともあるんです。

奥田 こちらでつくられている蒸気タービンは、100年後も健在でしょうか。

佐々木 一概にはいえませんが、蒸気や空気というものは使いやすい媒体なので、そういった意味では残っている可能性は高いと思います。

奥田 ということは、同じようなビジネスモデルが持続する可能性もあると考えていいですか。

佐々木 IoTやデジタルトランスフォーメーションといった言葉を聞くことが多くなりましたが、そのあたりからどれだけのビジネスチャンスが生まれるかということが間違いなく重要になると考えています。ですから、これまで通りとはいえないでしょう。

奥田 デジタルの要素が、否応なく大きくなってくるわけですね。

佐々木 IoTといっても、まだなかなか実態がついてきていない感じがしますが、やはりデジタル化すると情報の扱いが簡単になりますから、それは大きなメリットとなるでしょう。コンピュータの能力の進化も大きな要素です。流体力学の計算一つとっても、昔、私が大学でやったときはスーパーコンピュータを使いましたが、いまはパソコンでできます。その間、たかだか30年です。そうした進化が今後も起こるはずですから、そんななかでビジネスの芽を会社に残していけるかということが、自分にとって大事な仕事になると思っています。

奥田 ところで、先ほど見せていただいたタービンのブレードは芸術家がつくったようにきれいだと思いました。

佐々木 そうですね。だいたいきれいにできたものは、いい性能を出すんです。デジタルの重要性は無視できませんが、むりやりコンピュータで最適化してつくってもダメなことが多いですね。
(つづく)
 

8年前に苗木を買った
ブルーベリー

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 ベランダの主役を占める位大きくなり、春の若葉、初夏の白い花、夏の収穫、晩秋の真紅の紅葉、と一年を通して楽しませてくれます。最近では、家内のピアノの生徒さんも、夏の収穫を楽しみにしています。