お酒は大好きだが“ノミニュケーション”はやらず、何か事をなすときはいつも「正面突破」で人を説得するという佐々木さん。失礼ながら、東芝という大組織で枢要なポストに就いているにもかかわらず、政治的な匂いはまったくしない。答えにくいだろうと思われる当方の質問にも、可能な限り誠実に応じてくれた。おそらく、それが原理原則を尊ぶ技術者としての態度であり矜持なのだ。伝統ある企業に受け継がれてきた正の遺伝子をみた。
(本紙主幹・奥田喜久男)

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2017.10.4 /横浜市鶴見区東芝京浜事業所タービン工場にて

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第199回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

基幹電力を支える仕事への
誇りと責任

奥田 東芝のタービンは、世界何か国で動いているのですか。

佐々木 タービンだけでいうと43か国です。今まで出荷したタービンの累計容量は約200ギガワット。大型の100万キロワットのタービンであれば200基分にあたります。

奥田 その43か国での導入実績のなかで、印象に残っていることはありますか。

佐々木 私がとくに記憶に残っているのは、ケニアに地熱蒸気タービンを納めたときのことです。7万キロワットのタービンを4台、合計28万キロワットの発電所をつくるプロジェクトでした。実は私たちにとって、7万キロワットのタービンというのはかなり小さいほうなのです。

奥田 それほど大きな仕事だとは認識していなかったわけですね。

佐々木 ところが、現地で政府の高官とお話をすると、国全体の発電容量が100万キロワットくらいで、私たちがつくる発電施設だけでその3割ほどを占めることがわかりました。それを知ったとき、「これは大切だな。失敗したら大変なことになる仕事だ」と感じました。

奥田 インフラが整備されていない国だからこそ、その仕事の重要度が増すということですね。

佐々木 その高官のご自宅に招いていただいてご馳走になったのですが、その家も自家発電を併用しているんです。とても裕福なエリアにある家でも、電力供給が不十分なわけです。おっしゃる通り、すごく重要な仕事を任せてくれていると実感しましたね。

奥田 それは誇りをもてますね。その分、責任も大きいですが。

佐々木 誇りと責任と怖さですね。失敗したら大変な迷惑をかけてしまうという気持ちと、俺たちすごいだろうという気持ちの両方があったことをよく覚えています。ですからケニアでは、それまでにない、ちょっと質の違う感激をしました。私たちの誇りは、カッコいい言葉でいうと、そうした基幹電力を支える社会的使命といったイメージですが、それを体現できたように思います。

奥田 まさに、ものづくりの実感ですね。

佐々木 私は1984年に入社し、スタートはガスタービンの開発だったので、当初、直接ものづくりにはタッチしていませんでした。その後、試験用のガスタービンを二度つくり、二つめは自家発電用につくってみようということになったのですが、そのとき、初めて電気を流した日のことは忘れられません。やっと、自分がつくったものが実際に電気を起こしたという感慨ですね。ケニアでの経験は、それに通じるものがありました。

奥田 そうした経験や思いが、佐々木さんの技術者としてのキャリアを形づくってきたのですね。

ものづくりに欠かせない
貴重な財産を守る

奥田 こうした息の長い事業を行う一方で、半導体事業が売却されるなど、いま東芝は大きな試練にさらされています。経営的な立場から、この状況にどう対処されているのですか。

佐々木 まさにその渦中にあり、どうやったら信頼感を取り戻せるのかということを議論しているところです。一朝一夕に、こうすれば会社再生ができるという答えがないことは誰もが知っています。下から上にもののいえない会社だという報道もありましたが、思っていることをさらけ出してそれをシェアする、みんなの意見を聞きそれに対してきちんと答えるといった真摯な対応をコツコツと積み重ねていくしかないと思っています。

奥田 こういう工場に来ると、目に見えない守るべき資産があるように感じられます。デジタルのものづくりにはない部分があります。

佐々木 現場のいわゆる「匠の技」といったものですね。ただ、匠の技というと聞こえはいいのですが、そういう特殊技能がなければできないということになってしまいます。開発の立場からいうと、本来は特殊技能がなくてもできるくらいの簡単な設計を目指すべきなのです。でも、それだけではすぐれた製品は生み出せないというのも事実なんですね。

奥田 私はやはり、匠の部分をすごく大切にしたいと思っているんです。

佐々木 同感です。ここ京浜事業所でも、そういう匠といえるような技能を現場で認定するといった仕組みがいろいろつくられています。匠といわれる人を尊重し、そういう先輩を見習って後輩が育つようにと工夫しています。やはり、ものづくりに欠くことのできない貴重な財産ですからね。

奥田 うまくいえないのですが、企業は数字で表すことのできない資産をもっていますよね。とくにそれは、ものづくりの世界に多いように思います。技術の進歩があまり激しくないようなところで。そういう部分は、金銭換算できなくても手放さないほうがいいと直感的に感じるのですが。

佐々木 現場のものづくりに限らず、設計でも開発でも、そういうところは収益として認識されない部分です。測れないわけです。そうした部分に対してあまり近視眼的になると、収益の根幹となる創造力が蝕まれてしまいます。

奥田 すぐれたメーカーにとって、創造力も匠の技も欠くことができないものですからね。

佐々木 いまはとくに厳しい時期なので、例えば、ある技術が途切れないようにといったことに気をつけています。統括技師長というのはまさに技術全体のマネジメントを行うポストであるため、そこをしっかりとやっていくことは自分の職責だと考えています。

奥田 どんなときでも、守るべきものは守らなければならないということですね。

佐々木 経営状況が厳しいときは、目先のものか効果がわかりやすいもののどちらかを選びがちです。とはいえ、基盤技術という言葉がふさわしいかどうかわかりませんが、なくてはならない技術というものがあって、それを維持するには努力が必要なのです。そこが忘れられがちなので、きちんと意識すべきと思っています。

 IoTやデジタルトランスフォーメーションなど、新しい技術への応用と並行して基盤技術にも力を入れていかないと、どこかで足元が崩れてしまうということになりかねません。少し抽象的ないい方になりますが、新しいことにチャレンジしようとするとき、しっかりとした技術のベースが保たれていることが重要だと思います。

奥田 今日は、ものづくりの本質にかかわる貴重な話がうかがえました。ありがとうございます。そして、今後の復活を心より応援しています。
 

こぼれ話

 その時、少し急いでいた。扉が閉まってふと脇を見ると“TOSHIBA”のロゴが目に入った。このエレベータ、途中で止まらないだろうなと独白した。その瞬間、「これはいけない。マスコミに携わる私までが汚染されている」と我に返った。世の中の多くの人にブランドへの不信感が染み込んでいるのではないか。

 “TOSHIBA”への不信は本質なのか幻想なのか。あるいは何もかもすべてなのか、それとも局部なのか。癌を宣告された時は、真っ先に病巣の部位を探るではないか。会社に戻り呼吸を整えて、東芝の広報担当者に面談を申し入れた。「東芝が誇りをもって紹介できる技術屋の方と『千人回峰』で対談したいのです」と。これには伏線がある。

 2017年の新年号で日立製作所大みか事業所の上級監督者・工師の木村和弘さんを掲載した。木村さんの背筋がピアノ線の様に伸びた“ものづくり”への姿勢、その清々しさに心を打たれた。もちろん木村さんは整然とした組織のうえで立っている。製品を生み出す人そして生み出す人たち。技術力、指導力、洞察力、決断力。リーダーに求められる能力はいくつかある。ただし、その根幹は生き方を決める意志だと思っている。
 
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 取材する時期が時期だけに、場を同じくした人たちも脂汗が出たのではないか。対峙した佐々木さんに清々しさを感じた。覚悟も伝わってきた。

 東芝は潰してはならない。