浮川社長と親しくつき合うようになったのは、1985年BCNが主催したCOMDEXツアーでともにラスベガスを訪れたことがきっかけだ。滞在中のホテルで深夜まで話し込んだ。「親指が使えない人のことを考慮して親指シフトはやらない」という言葉に浮川さんの哲学をみた。先般、BCNが東京、大阪で開催したカンファレンスで、浮川さんに講演いただいた。参加された方々に大きな感動を与えたという。感動のもとは何か。六本木にあるMetaMoJiに浮川さんを訪ねた。(本紙主幹・奥田喜久男)

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2017.11.2/MetaMoJi 会議室にて

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第201回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

キーボードからの解放
交ぜ書きテクノロジー

奥田 カンファレンスではスポンサードを含め、いろいろお世話になったそうでありがとうございます。参加された皆さんが感動されていたようですね。

浮川 あ、そうですか!

奥田 東京はとくにそうだったみたいです。「浮さん、またホラ吹いてるわぁって」(笑)

浮川夫妻 (大笑い)。

奥田 つい軽口をたたきましたが、感動されたのは本当です。アンケートにも刺激になったとかすばらしかった、製品への思いに溢れていたといった書き込みがありました。いったい何を話されたんですか。

浮川 わが社の製品を使った現場のデジタライゼーションの取り組みを通した「タブレットが開く新しいITビジネス」についてです。

奥田 難しそうですねえ。久しぶりにお会いしたことでもありますし、ゆっくりうかがいます。まずは、MetaMoJiを設立されて何年になりますか。

浮川 2009年ですから、9年ですね。

奥田 その間、何を開発されていたんですか。

浮川 タブレット端末関連アプリです。現在の主流は手書き文字入力アプリ「mazec」、現場業務向け「GEMBA Note」、それを建設現場向けに特化した「eYACHO」、そして次世代型ペーパーレス会議アプリ「Meta MoJi Share」です。

奥田 手書き、現場、ペーパーレスがキーワードのようですね。

浮川 まずmazec。これはタブレット端末に直接手書きで文字入力ができるアプリです。ペンでも指でも書けるのでキーボードが苦手という方にもすぐ使っていただけます。いろいろ機能があるんですが、とくにすごいのが交ぜ書き機能です。

奥田 “交ぜ書き”ってなんですか。

浮川 漢字とかなを交ぜて書くこと。例えば「変換」を「変かん」と書いても……。

奥田 (浮川社長のデモを見て)あ、「かん」もちゃんと漢字になりましたね。

浮川 これはすごい技術の結晶なんです。交ぜ書きテクノロジー。何が書かれたかをちゃんと認識したうえで、「かん」は漢字になっていないから変換しないとダメだと認識するわけです。

奥田 日本語は漢字やひらがな、カタカナもあるから認識するのが大変ですよね。因みに自動変換の識字率は何パーセントくらいですか。

初子専務 文章にもよりますが、90%を超えれば実用にはほとんど支障はありません。当然それはクリアしています。

奥田 すごいですけど、どんどん人間の能力が落ちていきませんか(笑)。

浮川 僕は老若男女すべての人に使ってもらいたいんです。パソコン教室で何が苦労するかって、キーボードからの文字入力です。とにかく時間がかかって肝心のソフトを使うところまでなかなかいかない。でも、文字を書くだけなら誰でもできるでしょ。漢字が面倒ならひらがなでもいい。紙だと思ってくださいよと。そうするとインストラクションは30秒で終わります。

初子専務 お年寄りは漢字を書くの得意ですしね(笑)。

奥田 実際にはどんなところで使われているんでしょう。

浮川 金融機関にはほとんど入っています。入会手続きなどで入力の必要がある会員組織をもっている法人などを含め3000社くらいかな。あと、授業支援アプリとして教育現場でも使っていただいています。

待ったなしの現場で
リアルタイムで業務が完結

浮川 mazecをいろんな会社で使っていただくために、手書き入力が生かせる市場を調べていて、できたのがGEMBA Noteです。

奥田 GEMBAは「現場」ということですか。

浮川 例えば紳士服の会社や料理教室。今までは会員登録などの際、手書きで書いてもらった住所や氏名を事務所にあるパソコンで入力し直していた。それは本当に大変。二度手間だし働く時間も長くなります。

奥田 入力ミスも起きますしね。

浮川 お客様にキーボードで入力してもらった時期もあったようですが、慣れていない人はこれまた時間がかかって大変ということで、手書き入力はお客様にも好評と聞いています。

奥田 双方よしということですね。

浮川 GEMBA Noteをベースに大林組と組んでつくったのがeYACHO。建設や土木の現場で長年使われ続けている“野帳”をデジタル化したものです。野帳はもともと測量用のノートで、三角測量などの数字を書き込んでいたそうですが、次第になんでも書き込むメモ帳のようになったのだとか。

奥田 (ある建設会社の人が使っていた野帳を見て)いろんなことが書いてありますねえ。

浮川 その日建設現場に入った工務店さんの人数や協力会社への是正の指示書など、これまでは現場が終わってから、事務所に戻りパソコンで再作成したり日報を書いたりしていた。当然作業は深夜におよびます。でもeYACHOを使えば現場で作成ができるので、残業時間が大幅にカットできます。

奥田 働く人が助かりますね。

浮川 写真への書き込みもできるので、図面と現場が違う場合、すぐ写真を撮って該当箇所を丸囲みして担当者に送るなど、現場仕事がスムーズかつ確実になるんです。図面やカメラをバラバラにもたなくていいですし。

初子専務 それから、工事責任者のトップからすごくほめられたのは録音機能。タップするだけで録音ができるので必死になってメモを取る必要がなく、施主さんの話に集中できるんだそうです。

浮川 eYACHOは、メモも音声も写真も全部が一気通貫で一つのマシンのなかに入っているから、現場仕事に超便利なんです。大林組さんのほかにも、青木あすなろ建設さん、穴吹工務店さんなど100社以上の建設関連の会社に使っていただいています。

奥田 おもしろいですねえ。

初子専務 GEMBA Noteの話にちょっと戻ると、映画の世界の人が使ってくださっているんです。

浮川 例えば、『図書館戦争』や『アイアムヒーロー』を撮られた映画監督の佐藤信介さん。

奥田 MetaMoJiから売り込んだんですか。

浮川 ユーザーとして使っていただいていて問い合わせがあったんです。絵コンテの下絵描きから、ロケハンで撮った写真にカメラの画角や配置する人物などを描き込んで、画像ファイルにしてスタッフ全員に送信するなど、GEMBA Noteの機能をフルに使いこなされていました。

奥田 クリエイティブの「現場」にも適していたというわけですね。

浮川 もうお一人、『シン・ゴジラ』などのスクリプター田口良子さん。スクリプターは記録係として監督をサポートし、映画の全シーンの情報を記録・整理する役割なのですが、今やご自身でGEMBA Noteの使い方セミナーを開催していらっしゃいます。

奥田 それはすごい惚れ込みようですね。

初子専務 うれしいことです。(つづく)
 

ユニコードと浮川夫妻

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 日本語の国際標準化には多くの日本人が尽力したが、初子専務を始めジャストシステム(当時)も大きな役割を果たした。その経緯は直接担当し奮戦した小林龍生氏の著書『ユニコード戦記』にまとめられている。「Unicode Standard5.0」には浮川社長への謝辞もある。