藤田ヘッドコーチ率いる富士通フロンティアーズが所属するXリーグは、3地区18チームで構成されている。そのうち15チームはクラブチームで、選手やコーチがその会社の従業員である実業団チームは、富士通を含め3チームしかない。試合当日、観戦に同行したBCNの広告営業担当者が、「あれ? あの人見たことある」と呟く。その視線の先にあったのは、WRの中村輝晃クラーク選手。スター選手ではないか。聞けば、商談の場にしばしば同席されていたとのこと。これも実業団チームならではの距離の近さであり、親しみが生まれる要素の一つなのだろう。(本紙主幹・奥田喜久男)

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2018.2.7 /川崎市中原区の富士通川崎工場本館にて

very bestは
“ベスト”ではない

奥田 富士通では、2014年シーズンに社会人ナンバーワンを決める「JAPAN X BOWL」で初優勝し、ライスボウルも制して日本一になりました。16年、17年シーズンも連覇されました。ここに至るまで、どのようにチームづくりをされてきたのでしょうか。

藤田 ずっと先をみて、チームづくりをすることはあまりありません。単年ごとに、そのときのベストのチームをつくるようにすることと、将来に向けては、新しい有望な選手をリクルーティングしてくるということです。基本的には、一年一年の積み重ねですね。

奥田 その過程で、どんな選手を入れようというイメージはあるのですか。

藤田 こういう選手がいるといいだろうなとは思いますが、きてくれるかどうかはわかりませんし、そういう人がいるかどうかもわからないので、まずは現実にいるメンバーをうまく組み合わせて編成するということになります。

奥田 メンバーを組むとき、どんなことに気を配られますか。

藤田 アメリカンフットボールは11人でプレーするのですが、11人全員が“ベスト”の選手ならうまく機能するかというとそうではなく、そのなかにいろいろなタイプの選手がいないとうまくいきません。全員が運動能力に長けていれば強いかというと、そうとも限らないのです。とはいえ、キーとなるポジションにはすぐれた選手がいないと勝てないという現実はあります。基本的には、全体のバランスやコンビネーションが重要です。

奥田 全員がすぐれていても勝てない。

藤田 チームになると違うと思います。必ずしもvery bestが“ベスト”ではないということですね。

奥田 適材適所というか、その考え方はアメフトのチームに限らず、あらゆる組織にあてはまりそうですね。ところで、シーズンを通じてモチベーションの維持はどのようにしていくのですか。

藤田 昨シーズンは「もう1回勝って2連覇だ」という大きな目標をもっていましたが、それをいってもあまり現実には近づいていきません。そこで、「今日の練習1回」とか「今日の1プレー」を大事にやりましょうという意識づけをしました。

奥田 いきなりゴールをみるのではなく、目の前にあるものを一つひとつ片づける。「五輪書」の極意ですね。

藤田 先のことをいっても、今日やらなかったらそこには行けませんよね。目の前のことを大事にするようになってから、あまり選手たちが浮つかなくなった気はします。

奥田 それは、いつ頃から選手に言われたんですか。

藤田 なかなか勝てなかった時期、米国人のコーチや選手が入ってくるようになった頃ですね。彼らの目からみて、チームに欠けていると感じたことを私に話してくれたんです。「一つひとつのプレーを一生懸命やっていないじゃないか。そんな姿勢で勝とうというのはおかしい」と。

 いわれてみればその指摘どおりだなと思い、1回の練習、1回のプレーを大事にするということを打ち出しました。

奥田 すごく基本的なことですね。

藤田 そう、あたりまえのことなんですよ。それから徐々に変わっていきました。それまでは「勝つぞ、優勝するぞ」と大きなお題目を掲げてやっていたのですが、それでは具体性に欠けていたんですね。

奥田 それをどう表現したらいいでしょうか。私も今日から会社で言おうと思って……(笑)。

藤田 私たちは「今に集中」といっています。今やるべきこと、やれることに集中する。

奥田 そういうことですか。

藤田 日頃からミーティングなどの場で説明しています。例えば、「ディフェンスの選手は、攻撃が進んでいないとイライラしてもオフェンスの選手の代わりに出ていくことはできないのだから、自分たちができることに集中しなさい。そうやってイライラしても、マイナスになることが多いでしょう」と。

奥田 わかりやすいですね。

藤田 というように、事前に説明しておくんです。そうすると、試合当日は短い言葉ですみます。緊張しているなかで、あまり人の話を聞きたくないじゃないですか。

共感してもらえる
チームであることが大事

奥田 フロンティアーズのような企業スポーツの現場では、プレーする人も見る人もすごく一体感をもって燃え上がるんですね。エネルギーの集積を感じます。

藤田 やはりたくさんのお客さんが来てくださるとモチベーションも上がりますし、それはとても有難いことですね。

奥田 コーチや選手の方々は、どういう思いでこうした企業スポーツに取り組まれているのでしょう。

藤田 とてもよい環境でやらせていただいているので、まずは勝って、みなさんに喜んでいただくのが一番のお返しだと考えています。でも、勝てないときも当然ありますから、それでも応援に行こうと思ってもらえるチーム、共感してもらえるチームであることが大事です。そうあるためには、自分たちを精一杯磨き、精一杯プレーすることしかないと思います。

奥田 通常は、どのような時間の使い方をされているのですか。

藤田 シーズン中は週3回、水曜と土日に練習があります。それ以外の日は、コーチは練習のビデオを見直したり、次の試合のプランを立てたりしています。オフになると、翌年、翌々年のリクルーティングにも取り組みます。

奥田 この先10年を見据えて、どんな夢や目標をお持ちですか。

藤田 正直なところ、プレッシャーも半端ではないので、いつまで続けられるんだろうという感じはありますね。

奥田 厳しい勝負の世界なんですね。

藤田 将来的には、子どもたちがいろいろなスポーツを経験できる場ができるといいなと思っています。小さい頃から一つの道を突き詰めて、あるとき壁に突き当たると、そこでスポーツそのものをやめてしまうアスリートが数多くいます。そうした人も、子どもの頃に複数の競技を経験していれば、別の競技で花を咲かせることができるのではないかと。

奥田 藤田さんは、人を育てていくタイプなんですね。

藤田 もともとは大学チームのコーチで、未経験者ばかりを相手にしてきましたから。

奥田 そうしたスキルをベースにもちながら、トッププレーヤーたちを勝利に導く。今シーズンもすばらしい戦いを期待しています。
 

こぼれ話

 あの日、東京ドームの空気は「ビリビリ」震えた。観客席が赤一色に揺れた。富士通フロンティアーズが、社会人日本一決定戦の「JAPAN X BOWL」で勝利した瞬間のことだ。相手はIBM BigBlue。これほどの好カードはない。ラグビーの大学対抗では早慶戦。プロ野球では阪神巨人戦に匹敵する。週刊BCNの読者には、富士通対IBMの戦いの因縁は説明不要のはずだ。

 どんなスポーツにおいても、対戦を重ねるごとにドラマが生まれ、さらにドラマが積み重なって名勝負といわれるほどの好カードが誕生する。富士通とIBMはコンピュータ開発の歴史と事業活動が重なる。「この相手だけには負けられない」戦いとなる。「JAPAN X BOWL」史上、富士通対IBMの日本一決定戦は2014年に次いで2回目だ。その試合開始直前での出来事である。
 
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 ロッカールームは緊張の昂まりがピークに達した。唇が乾き切るテンションのなかで、フロンティアーズの顧問(当時)の濱場正明さん※は檄を飛ばした。「絶対、勝て、この試合だけは、負けるな」。短く強く鋭く心に刺さる言葉を叫ぶ、のがコツという。あたかも雷管を強打し弾丸を発射するが如しである。この“撃鉄”言葉が「濱場さんは実に上手い」と微笑む藤田さんの瞳はロッカールームの光景を浮遊していた。(※濱場正明さんについては『千人回峰』第198回を参照してください)
 
心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第206回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。