前回登場した遊軍なる言葉。「遊」の字に寄せて解釈されがちだが、本来は味方を助ける部隊であり、状況に応じて困難な仕事をする者という意味である。時機を見抜く眼と圧倒的な力量がないと到底務まらない。さらには「頼む」と言われる人間性も重要だ。確かに、加藤さんの柔らかな口調はそう言いたくなる何かをもっている。そんなことを考えていたら何やらお願いしてみたくなってきた。加藤さん、今度相談にあがらせてください。(本紙主幹・奥田喜久男)

2018.3.14/BCN22世紀アカデミールームにて

大切にしている
六つの眼と反射率

奥田 全国の新聞からコラムを選んでまとめてメールで配信されていますね。あれはいつ頃始められたのですか。

加藤 3年前からです。この3月まで大学で映像メディアを教えていましたが、新聞離れしている学生たちに読ませようと思いまして。『I-Media』などの読者の皆さんにもお送りしています。

奥田 配信の頻度はどのくらいですか。

加藤 10日ごとです。旬刊というのかな。毎週だと慌ただしいので月に3回くらいがちょうどいいかなと。

奥田 僕も読ませていただきましたが、1回分がすごいボリュームです。全部で何紙を読まれているんですか。

加藤 中央紙は毎日と日経と東京新聞。朝日と読売はネットで公開していませんからスクラップしません。あとは47都道府県それぞれの代表紙から拾います。

奥田 ということは50紙を超えてますよね。それを10日に1回ご自分でピックアップされてタイトルをつけて!

加藤 僕、タイトルつけるの好きなんです(笑)。コラムを拾うのは毎晩寝る前に。1時間半くらいかかるかな。でも、それは自分自身のためですから。

奥田 全部素読みをされてらっしゃるんですか。

加藤 一字一句というわけにはいかないので、大雑把に拾い読みします。選ぶ基本は“気が利いているものの考え方”。新聞の記事はストレートに事実を伝えますが、コラムは記者経験のある編集委員たちが、意外な角度からとらえて自らの知見とウィットで執筆しています。こんな考え方もあるんだということを教えるための生きた教科書です。奥田さんは六眼(りくげん)という思想をご存じですか。

奥田 いや、初めてうかがいます。

加藤 密眼、漠眼、童眼、洞察眼、慈眼、自在眼で、仏教の教えです。「密眼」はものごとを細かく子細に見るでクローズアップ、「漠眼」はものから距離を置いて全体を見るで俯瞰ショット、「童眼」は読んで字の如く、子どものように無心に見る。カメラ的にはローアングルでもありますよね。「洞察眼」は見えない部分を心で見る。「慈眼」は慈悲の心をもって見る、そして「自在眼」はあらゆる角度から見る。若い頃、のちに天台座主になられた長野県上田市の常楽寺住職・半田孝淳さんに教えていただいて以来、大切にしている言葉です。

奥田 東芝や日本郵政で社長を務められた西室泰三さんが「鳥の目、虫の目、魚の目をもつことがビジネスには必要だ」とおっしゃっていましたが、六眼もいいですねえ。

加藤 映像メディアの根本というのはこの六眼にありとさえ思っているんです。カメラアングルだけでなく、慈眼という心のアングルまでを示唆していますから。

奥田 なるほど。ほかに加藤さんがこだわっておられる「ものの見方」とかありますか。

加藤 大事にしているのは“反射”です。

奥田 それはどういうものでしょう。

加藤 人と相対していて話が弾むのは、お互いが反射して照らし合っているからです。生番組を担当していましたが、反射率がよくないとどうしようもない。

奥田 確かに。会話だけではなくいろんなことに大事ですね。

加藤 乱反射でもいいから反射してよと思うこともあります。むしろ乱反射の方がおもしろいこともある。「ああ、そういう見方もあるのか」と気づかせてくれますし、話が広がります。だから、やっぱり生番組が好きなんです。

奥田 何が起こるかわからない緊張感だけど楽しいということですか。

加藤 そうです。ジャズの即興演奏にしても、時にすっとんきょうな音も出るけど、それにこたえる音が絶妙なのが面白いですよね。

企画の三段跳びから生まれた
ファンデーション

加藤 もう一つ、大事にしているものがあります。それは「雑談の効用」です。例えば「ゆく年くる年」の企画会議の時に全国からデスク達が集まるんですが、会議をとりしきるプロデューサーが「今年はこんな方針で」と冒頭にあいさつすると、会議中はその大枠の中からはみ出すことがありません。

奥田 会議でよくある光景ですね。

加藤 でも、「ここからは雑談にしましょう」となったとたんに、「実はこんなこと考えているんだけど」と一人が本音をもらすと、「じゃあ、こうしたら」と応えるのがいて、すかさず「それだったらこんなのもありかな」と話しが弾み出します。するとそれまで寡黙だった人が「いっそのこと、こんなことが出来たらいいんですがね」なんて言い出すんです。

奥田 おもしろいですねえ。

加藤 僕はそれを“企画の発想三段跳び”だと思っているんです。

奥田 「じゃあ」⇒「それだったら」⇒「いっそのこと」の三段跳び。ホップ・ステップ・ジャンプで化学反応が起きて、全然違うところに発想が行くということですね。

加藤 この三段跳びは、番組の企画だけではなくて、こんなこともありました。ハイビジョンがBSで試験放送された当時、女優さんたちが肌のくすみや毛穴まで映るからイヤだといって、衛星放送には出たくないと言い出したことがあったんです。

奥田 女心ですね。

加藤 出てもらわないと困るのでどうしようかと。照明を強くしてハイコントラストで肌の色を飛ばすことも考えましたが、それでは折角の高精細のハイビジョンが泣くよということになり、「それだったら、メイクを変えるしかない」という意見が出て、「いっそのこと、ハイビジョン用の化粧品を」となって、知り合いの化粧品メーカーに頼んで反射率の高い化粧品を開発してもらいました。「ハイビジョンファンデーション」という名称で今も発売されています(笑)。

奥田 すごい化学反応が起きますね。

加藤 ハイビジョンは、1994年から実用化試験放送が開始されましたが、当時「マスコミ懇話会」という一部上場企業の広報室長向けマスコミ勉強会の司会をやらされていたので、その会のメンバー社にお願いしたのですが、ありがたかったです。

奥田 人とのご縁が新たなプロダクトを生み出した。そういえば『I-Media』の会は今でも続いていらっしゃるんですよね。

加藤 おかげさまで今年の5月で通算373回を迎えることができました。

奥田 ずっと加藤さんが引っ張ってこられたんですか。

加藤 いえいえ、10年前に僕がNHKを卒業する時にいったん終幕したんですが、会員たちが事務局をつくってくれて、いまは三代目の事務局が引き継いでくれています。僕は司会をするだけで、運営はフリーライターや、広告代理店系の研究所やNHKカメラマンのOB、それに教え子たちがボランティアでやってくれています。僕を動かしてくれているので事務局と言わずにエンジンルームと呼んでいます。

奥田 月1回開催されている。あと何年くらい続くんですか。

加藤 いやあ、僕は知りません(笑)。NHK時代と違って定期的に会費をいただくこともありませんから、維持が大変。エンジンルームの皆さんには感謝あるのみです。

奥田 それにしてもすごい回数です。延べにするとすごい人数になりますよね。

加藤 ほんと。よくまあ集まってくださいます。そうしていろんな人にお会いできてそこからまたご縁がつながって。“集まれば、何かが始まる予感”ですよね。

奥田 まさにそうですね。本日は実に楽しいお話をありがとうございました。
 

こぼれ話

 ある会で加藤さんに出会った。会の運営がとてもお上手なので、さすがディレクター経験者の方だと感心していたら、突然私に自己紹介のお鉢が回ってきた。なるほど、この順番だから私の番なのだと、その計算づくめにも感心した。
 

 別れぎわに『千人回峰』の対談を依頼した。すると数日後には山のような資料をいただいた。これはとてもありがたい。本来、私の仕事だからだ。先回りをしていただいたわけだ。

 記事を書くには“ネタ”がいる。そのネタは取材のなかでつかむことになる。つかむには加藤さんのなかからネタを引き出すことになる。実はネタの豊富さは取材者の質問で決まる。質問は事前資料に触れたかどうかによる。加藤さんはまたしても私を乗せることに成功した。こうした配慮はNHK仕込みだけとは思えない。

 資料のなかに京都・祇園甲部組合発行の小冊子『ぎをん』平成27年1月10日号があった。29ページ目の「勝さん」に目が吸い込まれた。元映画記者の福井武郎さんの記事だ。勝新太郎さんをスタジオに取材に行った。オーラを放ちながらチームを盛り上げる。撮影が終わって京都の街に繰り出した。運転席には座頭市姿のままの勝新さん。信号で止まるたびに通行人はビックリ。宴は梯子段を重ねて祇園へ。座敷では三味線を胡座に端唄をうたう勝新さんに綺麗どころがウットリ、、、。加藤さんもこうした匂いのする人だ。
 
心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第209回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。