プロスポーツクラブの名古屋OJA(王者)は、2016年に「日本eスポーツリーグ」へ参入した。e(エレクトロニック)スポーツは、コンピューターゲームを使った対戦をスポーツ・競技として捉える際の名称。世界中で盛り上がっているが、残念ながら日本は“後進国”と呼ばれるほど出遅れている。名古屋OJAのオーナー、片桐正大さんは、そんな状況を変えようと奮闘中だ。長年、スポーツ産業に関わってきた片桐さんに、日本のeスポーツ産業の現状と将来性についてうかがった。(本紙主幹・奥田喜久男)

2018.5.10/東京都港区赤坂のJETRO応接室にて

チーム名に込めた世界への夢

奥田 最近聞くようになりましたが、片桐さんが関わっておられる「eスポーツ」というのは、一体どのようなものなのでしょうか。

片桐 対戦型のコンピューターゲームをスポーツビジネスの枠組みで捉えることです。世界における市場規模は2018年に1000億円に達するとされており、20年にはオンラインとオフラインをあわせた観戦者は5億人を突破するとみられています。

奥田 どのような人が参加しているのですか。

片桐 プロゲーマー、eスポーツプレイヤー、選手と呼ばれるような、ゲームのスキルが高い人たちです。ゲームで生計を立てている人もいます。プレイするだけでなく、高レベルな試合をファンが視聴する文化も世界では根付いています。

奥田 どうやって?

片桐 現在のところ、主な収益源はスポンサーです。eスポーツは若者を中心に人気を得ていますので、若者に商品やサービスを訴求するためのツールとして活用されています。プロの選手、あるいはチームはスポンサーを背負って、eスポーツの大会やリーグで戦うことになります。上位に入れば注目が集まるし、多額の賞金を獲得することもできます。

奥田 ところで、片桐さんのチームは名古屋OJA。響きがすばらしいですね。この名前の由来を教えてください。

片桐 “名古屋人”の誇りは戦国時代の武将、織田信長公、豊臣秀吉公、徳川家康公です。彼ら王者への敬意を込めて「OJA(王者)」と名づけました。

奥田 おぉ~。岐阜県生まれの私は、同じ中部地方出身として喜んでしまいます。OJAにはどのような思いを込めましたか。

片桐 尾張三河、日本、アジアの頭文字をいただくことで、名古屋を中心に、世界中へ広げていくという意気込みを込めました。

奥田 このネーミングにたどり着いた経緯は?

片桐 世界的に、プロスポーツチームは三文字のアルファベットで表すのが通例になっています。それに何を当てはめるか、日本語でどのような意味をもたせるかを考えました。

奥田 ご自身の名前から、三文字を取ろうとは思わなかったのですか。

片桐 思わなかったですね。自信のなさが現れているのかも…。“王者”というのも大それた名前といえなくもないし。

eスポーツ参入は直感で決定 破壊的イノベーションを感じた

奥田 eスポーツを事業として手がけようと考えたきっかけは?

片桐 この新しいスポーツは破壊的イノベーションだと思ったからです。

奥田 そんなにパワーがあるのですか。

片桐 今はよちよち歩きで頼りなく見えますが、その裏にある潜在能力は相当に大きいと、アジアで初めて触れたとき、直感しました。

奥田 具体的にはどのような?

片桐 視聴者、つまり観客の数が驚異的な勢いで伸びています。これを価値に変えて、エコシステムをつくることができれば、eスポーツを一生懸命にやりたい人たちの人生を豊かなものにできるはずだと、ビジネスマンとして思いました。

奥田 アジアで、というと、初めて触れたのは日本ではなかったわけですね。なぜ日本でチームを立ち上げたのですか。

片桐 私は、日本人ですから、多くの日本人の先輩方にこれまで良い思いをさせていただいてきました。宗教も自由ですし、どこに住むのも自由、大学も好きに行かせていただきました。そんな自由を与えられている日本の経済力の高さ。これはもう先輩方からいただいたものにほかなりません。体育会系のよき伝統として、先輩に受けた恩を後輩にいかに返していくかを考え、若い人たちが集うeスポーツ産業の立ち上げを自分の使命としているのです。

奥田 日本では、まだ産業になっていない。

片桐 これからです。eスポーツは、スマホゲームだったり、コンソールゲームだったりとさまざまな形態がありますが、つまりはコンピュータゲームです。コンピュータゲームはかつて日本のお家芸と言われた時代があります。世界的に大ヒットしたファミコンやプレステなど、ここ数十年は日本が主役でした。今は違うのですが、まだ余力はあるだろうな、と思います。

奥田 世界ではどうなのでしょう。

片桐 中国がいち早くビジネスとしてエコシステムを構築し始めています。世界一のゲーム会社はテンセントです。ほかにも、アリババは決済システムですけれど、ゲームに投資を始めている。その投資額は莫大で、日本は勝てていません。ゲームの売上高そのものは上がったり下がったりを繰り返していますが、eスポーツだけでみれば、米国や中国といった世界の国々と比べると、すごく見劣りがします。

奥田 どれくらい見劣りするのですか?

片桐 日本のスポーツビジネスと同じです。私がプロ野球の職員だった10年間で、日本のスポーツビジネスは“失われた20年”のうち、10年で4%成長しました。米国は同じ10年で4.5倍に経済規模が伸びていました。私の先輩たちも頑張ってきたし、眠る時間を削って仕事をしていたにもかかわらず、まったく成長できていなかったのです。

奥田 そんなに違いがあるんだ。ショックですねぇ。

片桐 そうなんですよ。例えば、限られた選手生命で得るものを最大化したい野球選手たちは、短い時間で稼がなければならないし、なによりも光り輝く場所、米国で野球をやりたいと言うんですね。そういうところに選手を出してしまった。ビジネスの世界でいえば、負けです。ほかのスポーツでも、ルールセッティングで日本は負け続けています。eスポーツでも同じことに陥らないように、自分のできることをやりたいと思っています。

奥田 ルールセッティングというのはどのようなことですか。

片桐 お金が国を越えて入ってくる仕組みです。日本は実現できていません。五輪大会やW杯などは、昔は選手登録料が収入源だったし、代理戦争のような煽り方でお金を取っていました。今は放映権料という枠組みをつくって、そこに無形の価値をつくって実際にお金が動いていく。こういう枠組みを編み出していきたいと考えています。

奥田 無形の価値はなぜ強いと思います?

片桐 原価が不必要だからでしょうか。

奥田 叩いても壊れないからです。人間の心の中に価値があるから。100人の心があるとしたら、その100人がいなくならなければ価値はゼロにはならないじゃないですか。だから強いんですよ。

片桐 なるほど。

奥田 それがさらに連鎖していくわけですから。無形の価値はすばらしいと思います。

片桐 そんな無形の価値を仲良くできる人々、国々と一緒につくっていけたらなぁと思います。ルールセッティングビジネスの仕組みや構築法をぜひ知りたくて、先輩方に意見をうかがっているところです。

奥田 片桐さんは、どれくらい伸ばせる力をもっておられますか。もし、私がスポンサーになるとしたら…。

片桐 成長の見極め方は難しいところです。製造業であれば、前年比の何%なのかわかるんですが、インターネットデジタルの世界だと、なかなか流通が見えません。「はじけたら、もっとはじけるな」と思います。そのチャンスを逃さないために、経験のあるプロチームの立ち上げからはじめました。
(つづく)
 

「名古屋OJA ベビースター」のロゴとユニフォーム

 eスポーツは、室内で頭脳とコミュニケーション能力を競うので、ユニフォームは長袖。「同じ東海地方から世界へ打って出ている、おやつカンパニーさまとヤマモリさまの名前を頂戴していることも誇りです」と片桐さんは語る。(写真は、あるじ選手)
 
心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第218回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。