これまで多くの外資系企業を渡り歩いてこられた中西さんだが、あまりそういったタイプには見えない。周りの人々を巻き込むような話し方もしなければ、いわゆる押しの強さも感じさせないのである。感情を表に出して話さないことについてお尋ねすると、自分ではエモーショナルに話しているつもりだが、怒っていることにすら気づかれないこともあると、淡々と答えてくださった。失礼な言い方だが、この威圧感のなさがスタッフやパートナー企業からの信頼につながっているのではないかと考えた。(本紙主幹・奥田喜久男)

2018.6.5/東京都港区のソフォス本社にて

会社の看板に頼らず個人で勝負できる存在でありたい

奥田 中西さんは、20年近くマイクロソフトで活躍されましたが、主にどんな畑を歩いてこられたのですか。

中西 基本的には営業で、一番長かったのはパートナービジネスです。SIer、大手リセラー、ディストリビューターと、ひと通りお付き合いがありました。

奥田 まさに『週刊BCN』のど真ん中ですね。

中西 このパートナービジネスを10年くらいやった後、マイクロソフトがDynamicsを投入するタイミングで、そのセールスマネジャーを2年ほどやり、その後の4年ほどは、Dynamics事業の全体をみるかたちになりました。

奥田 当時はマイクロソフトだけでなく、市場全体が伸び盛りでしたね。その頃のIT業界に、どんな印象をもっておられましたか。

中西 正直なところ、1990年代から2000年代にかけて、テクノロジーやビジネスモデルの変化についていくのがやっとでした。本当に目まぐるしく変化し、インターネットの出現によってマイクロソフトも一気にそちらに舵を切って、ネット絡みのビジネスにマイクロソフトのテクノロジーも寄っていくといった一連の流れは、とても激しいものでした。

奥田 当時のマイクロソフトは、IT業界の中心ですよね。その中心におられたときはどんな気分でしたか。外からみていると、とても快適じゃないかと思っていたのですが…。

中西 確かに、最初はとても居心地がよかったですね。「マイクロソフトです」と言って訪問すると、だいたいの方が会ってくださいますし、とても丁寧に対応していただけるのです。でも、そうしているうちに気づいたのが、マイクロソフトの看板を背負っているから会ってもらえるのであって、マイクロソフトの看板を外したときに自分は何ができるのかということでした。入社して4、5年、2000年頃ですが、すごく悩む時期がありました。

奥田 なるほど、そうした気づきがあって、ご自身の価値について悩まれたわけですね。

中西 私は、ITに関してそれほど詳しいわけではありません。そこで一念発起し、01年に米国の会計士資格を取りました。コンピューターより経営やマネジメントに興味があるとお話しましたが、マネジメントの基本は会計だと思ったからです。

奥田 絶好調のマイクロソフトにいても、そう考えられたと。

中西 個人で勝負できるのかできないのかというところで、自分に対して非常に不満がありました。いずれ独立して、自分の責任と意思決定による会社経営をやりたかったわけです。自分がどこまでできるか、その限界を知りたいという気持ちはすごくありました。

奥田 いま、何合目ですか。

中西 六合目ぐらいですね。感覚的には。

奥田 まだ半分を過ぎたあたりですか。

ヒューマンスキルは経験から学ぶしかない

中西 私には、起業するための卓越した発想力やクリエイティビティーはないと思っています。ただ、ビジネスを自分で回していく仕事はやりたい。折衷案ではありませんが、そうしたタイプの人にフィットするのが外資系のカントリーマネジャーなんです。これはいいと思った製品を日本で広めるという仕事をリーダーとしてやっていくことが、自分のもっているスキルや経験からすると、一番しっくりくるポジションなのだと思います。

奥田 カントリーマネジャーに求められる能力として、中西さんの場合、外国の本社とコミュニケーションをとるための語学力や経営者として求められる会計の知識はすでに備えられていますが、その次に重要なものはなんでしょうか。

中西 ヒューマンスキルですね。いかにチームのメンバーに楽しく働いてもらい、全体のモチベーションを高め、パフォーマンスをフルに発揮してもらうかということが、非常に重要なことだと思っています。それを実現するスキルは、まだ自分には足りていないように思います。

奥田 ヒューマンスキルは、勉強することで身に付けることができるものなのでしょうか。

中西 勉強するというよりは、経験から学ぶ、人間関係のなかから学ぶものだと思います。

奥田 師匠のような人はおられるのですか。

中西 私がとても尊敬しているのは、マイクロソフトからパナソニックに移られた樋口泰行さんです。「T字型の人間になりなさい」とよく言われましたが、基本的なレベルで幅広くいろいろなことを理解したうえで、一部については非常に深いレベルの知識を身につけなさいということで、その話にすごく納得した記憶があります。

 樋口さんと私は上司と部下の関係にあり、会議などでしばしば雷を落とされました。でも、怒った後は必ず個別にフォローしてくれるんですね。そうした温かみがあることも、マネジャーにとって大事なことだと思います。

奥田 中西さんはマイクロソフトでパートナービジネスに長い期間携われてきましたが、ソフォスにおけるパートナーをどのようにとらえていますか。

中西 弊社は、とくに中堅あるいは中小企業に対してエンタープライズクラスのセキュリティーをお届けすることをミッションの一つとしています。

 ただ、中堅・中小のお客様にリーチしようとしても、私たちが直接全て訪問することはできませんし、クラウドによる直販も考えていません。そのため、やはりそこにリーチできる全国のパートナーさんとの協業が間違いなく重要だと思っています。

奥田 ソフォスファンという言葉があるとしたら、どんな要素をもっているパートナーでしょうか。

中西 私たちの考えているセキュリティーソリューションのあり方に共感していただき、協力して一緒に展開いただけるパートナーさんだと思います。

奥田 その特徴はどんなところにありますか。

中西 Synchronized Securityという全体の製品戦略のなかで、ファイアウォールなどのゲートウェイ側とエンドポイントなどの端末側に設置された弊社セキュリティ製品を相互に連携させることで、マルウェアの駆除や根本原因解析を全て自動化することができます。これにより、例えば端末がマルウェアに感染した場合、ネットワークからの遮断とマルウェアの駆除、そしてネットワークへの復旧が自動的にできるようになっています。これが生きてくる領域はどこかというと、セキュリティー専任の担当者がいない中堅・中小のお客様なのです。

奥田 そうした中堅・中小企業の状況を熟知する各地のパートナーと協業するということですね。

中西 はい。最終的には、そうしたパートナーさんが各都道府県に複数存在するというかたちが目標で、全国に広めていきたいと考えています。また、AIのテクノロジーを取り入れて、最先端のセキュリティーの提供を進めているところです。

奥田 興味深いお話をありがとうございました。ますますのご活躍を期待しています。

こぼれ話

 中西さんで『千人回峰』の掲載が220人目になる。2007年1月の千葉三樹さんに始まり、コツコツといろいろな方にお会いし、さまざまな話をお聞きして11年になる。今回もそうだが、初対面の方も多い。私の場合は名刺交換をして挨拶するところから対談を開始している。何気なく世間話でもするように入っていく。時には直ぐに対談の入り口に到達するケースがある。「あっ、入った」という感じだ。口には出さないが、“ヤッタ感”とともに話し込んでいく。

 中西さんの時がそうだった。一見するとなんでもない人のような素振りをしておられるから、受付ですれ違っても見過ごしてしまいそうな雰囲気なので、注意深く接しないと礼を失してしまうかもしれない。飄々というか、肩の力が抜けた感じがなんとも素敵だ。外資系を仕事の場にしておられるので、英語は話せるんだろうな。でも見た目はそんな雰囲気がしないな。そこで、間接的な質問で海外生活の経験を聞く。その内容の意外さに驚いた。

 「中西さんがですか?」と、思わず尋ねてしまった。高校卒業とともにベースギターのプロを目指して、ギターを片手に米国に渡ったという話だ。私も若い頃に日本を飛び出したいと思ったことはある。しかし実現しなかった。それは環境のせいではなく、自身の思いが軽かったせいなのだろう。18歳の時に己の意思に従って生き方を決めた人たちを見上げてしまう。「そんなことないですよ」と、例のそぶり。でも、こんなことも言っておられた。「海外に出たからといって、みんながみんな英語に堪能というわけではないですよ。意思を伝えることが上手いかどうかが重要ですね」と。

 
心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第220回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。