テレワークの普及が進む一方、ランサムウェアの脅威が増している中で、データを個々のPCに残さない環境を求める企業が増えている。これまでのVDIやシンクライアントに加えて、低コストで優れた使い勝手を提供する新たな選択肢として大きな注目を集めているソリューションがスマートワークの新しい進化系「データレスクライアント」だ。今回、アップデータの小川敦代表取締役社長とNECの小方秀介・パートナーソリューション統括部長、ZenmuTechの阿部 泰久・取締役CMO(兼)営業推進部部長にデータレスクライアントが求められる背景、ビジネスの状況、パートナー施策などを聞いた。
 
(左から)アップデータの小川敦代表取締役社長、NECの小方秀介・パートナーソリューション統括部長、ZenmuTechの阿部 泰久・取締役CMO(兼)営業推進部部長


VDIやシンクライアントにはない利便性を提供

--まずは、皆さんがデータレスクライアントをどう定義されているのかをうかがいたいと思います。

小川(アップデータ) 読んで字のごとくになりますが、クライアントの中にデータがない状態です。元々、2008~10年ごろからの潮流として、情報漏えい防止のため大切なデータはファイルサーバーに置くという流れがありました。一方、外出した際、常にVPNにつながなければいけないとなると利便性が損なわれて生産性が落ちることが問題で、VDIやシンクライアントを検討したものの、コストが高く手が出せない企業も少なくない状況でした。当社は持ち出しPCのセキュリティ対策をビジネスとして手掛け、コロナ禍でテレワークや在宅勤務がキーワードになる中で、当社のソリューションに対するニーズがますます高まってきました。さらに今は、ランサムウェア対策としても有効な手段として注目されています。
 
アップデータ
小川 敦
代表取締役社長

 そこで、私が定義するデータレスクライアントは、仮想化に近く、あたかも手元にデータがあるように使えることです。VDIやリモートデスクトップが課題としていた使い勝手や利便性を損なうことなく、また、何か特別な操作をせず、意識せずに使えることできるソリューションであると考えています。

小方(NEC) データレスクライアントとは、OSなどデータと関係ない部分はクライアントに残すものの、ユーザーデータは堅牢なDC(データセンター)で安全に保管するソリューションです。データレスクライアントへのニーズは、この半年くらいで急激に高まっていると感じています。背景には、テレワークの普及によるPC持ち出し機会の増加で、データをクライアントに残すリスクが強く意識されているためです。ニュースにもなりましたが、狙われやすいのは大企業よりも中堅・中小企業などで、サプライチェーンでつながっているため、攻撃者はまず、弱いところを狙っています。
 
NEC
小方秀介
パートナーソリューション
統括部長

 こうした攻撃への対策として有効なのは、何重ものセキュリティ対策を実施するより、データ自体をクライアントに置かないことです。その点、データレスクライアントは確実かつ安価にデータを保護できます。シンクライアントやVDIはコストが高く、運用も大変です。アクセスが集中した際のレスポンスも課題です。データレスクライアントにはそうしたストレスがなく、作業終了時には自動でデータがクライアントから消去されるという使い勝手の良さが今、高く評価されていると思います。

阿部(ZenmuTech) 当社が特に重要としている点は、意味のあるデータをクライアントに置かないことです。過去、IT業界では集中と分散の流れが繰り返されてきました。メインフレームとダム端末、C/S、そしてクラウドへという流れがあり、シンクライアントが注目された。こうしたシステムの変遷は今後も続いていくでしょうが、最終的に何が大切かといえば、ユーザーの利便性です。その点、シンクライアントは利便性に課題が残ります。当社は、独自の「秘密分散技術」で、クライアントのディスクの一部を分割して分散片を外部で管理する仕組みです。PC内に残るデータは意味のないもので、漏えいの心配はありませんが、外部の分散片と接続すれば、ファットPCの使い勝手で、オフラインでも利用可能です。
 
ZenmuTech
阿部 泰久
取締役CMO(兼)
営業推進部部長

 特に、引き合いが多いのは、すでにVDI、DaaSを使用されているお客様です。VDI、DaaSはイニシャルコストが高いだけでなく、運用後も設備投資が掛かり、ライセンスコストも発生します。決して、それらのソリューションを否定するわけではありませんが、外まわりが多い部署など、利便性を含めた適材適所の選択として、今、データレスクライアントが強く求められていると思います。

中堅・中小企業でも導入可能 各社とも大幅な成長を達成

--お話を聞いていて、データレスクライアントの強みは中堅・中小企業でも導入できるコストメリットにあると感じましたが、実際、今年上期(1~6月)におけるビジネスの状況はいかがでしたか。

小川 データレスクライアントは、既存のネットワークの増強や専用端末を購入する必要がなく、ソフトのインストールだけで済むというすごくシンプルな構造ですから、明日からでも使用開始できます。ビジネスについては、新規獲得の顧客数で年率150%成長が続いています。お客様がVDI、シンクライアントといった選択肢と比較した上で、メリットに気が付かれたという手ごたえを感じています。ただ、乗り換え需要だけではなく、半分は新規導入です。中心は中堅・中小企業で、100~1500クライアント規模となっています。他にも、大手企業の部門導入で、数10クライアントからスタートして、300~500台くらいに拡大していくケースもあります。大手の場合、部署によりハイブリッドで使い分けているようです。

阿部 4月にプレスリリースしましたが、当社の秘密分散技術を活用したセキュリティ製品の利用者が対前年比で10倍増と大幅な伸びを記録しました。リモートワークの普及を背景として、市場からの期待値、要求が大いに高まっていることの表れだと思います。その中でも目立つのは、VDIから乗り換えられる大手のお客様です。特に、外への移動が多い部署ではネットワーク依存によるパフォーマンスの低下などストレスがあるため、情報漏えい対策と使い勝手を考慮してデータレスクライアントの導入を検討されるようです。

小方 データレスクライアントというカテゴリーでの数字はありませんが、NECはDXオファリングとして働き方改革のさまざまな商材を提供していますが、そのカテゴリーは年率140%と大きく伸びています。また、4月にはアップデータさんと協業し、データレスクライアントサービス「NEC Cloud File Sync」の提供を開始しました。各端末のデータをNECが運用管理するクラウドサービス「NEC Cloud IaaS」へ自動同期し、バックアップするサービスで、多くの引き合いをいただいています。過去に導入したシンクライアント環境からの揺り戻しで、データレスクライアントに注目が集まっているようです。

課題は知名度の不足 啓蒙活動が重要になる

--一方、ビジネス拡大に向けた課題はありますか。

阿部 当社が提供する秘密分散という技術が理解いただけず、暗号化との違いや、そこまで必要なのかと問われるケースもあります。また、日本の企業の多くは、セキュリティ対策はコストという意識があり、できるだけ最小化したいと考えています。一方、海外ではセキュリティ対策は経営としての投資であり、積極的に実施するものという認識の違いがあります。こうした日本の意識を皆さんと変えていきたいですね。

小川 情報漏えい対策として、まだ、データレスクライアントというソリューションが一番の選択肢にはなり得ていないことが大きな課題だと思っています。一方で、当社のトライアル版利用者の購入率は約37%と、ソフトウェア業界としてはかなり高い数字です。それだけに、数あるセキュリティ対策の中でデータレスクライアントの知名度を高め、分母を増やしていく必要があると感じています。

小方 経営層の意識が一番の課題だと思います。セキュリティ対策に投資をしても、直接、売り上げが上がるわけでも、コストが減るわけでもありません。しかし、だからこそ、経営者が意識して、意思決定しなければならない投資だと思います。そのため、データレスクライアントの良さを、システム導入を担う意思決定者にいかに伝え、理解してもらうかが鍵を握りますね。

--では、データレスクライアントを投資として考えてもらうため、どのように取り組んでいきますか。

小方 経営層の方にセキュリティの脅威と対策の重要性をお話をして、企業価値を高めるための投資だとお伝えするようにしています。一部のお客様には、どのくらいアタックされているかツールで調査し、実態を知ってもらう取り組みも実施しています。目の前に迫る脅威が見える化されると、重要性を認識いただける場合が多いです。

小川 地道な啓発活動がとても大切だと感じています。最近では、ランサムウェアの脅威がすごく、同業他社が被害に遭うケースを目の当たりにされると意識が確実に変わられると思います。しかも、シンクライアント、VDIとの比較ではコストが10分の1と圧倒的に有利ということもあるので、製品面で各種クラウドストレージサービスへの対応など、お客様の要望に合わせて組み合わせられるソリューションを増やしていくことにも取り組んでいきます。

阿部 お客様は他社事例への関心が強いので、ユーザー同士が直接、会話できる場をつくりたいと考えています。どのように働き方が変わったのか、生産性はどうか。数名のユーザーに集まってもらって自由に会話してもらいます。こうした生の声の影響は大きく、自分事として捉えてもらえるようにしていきたい。また、製品面では、補完関係になる他社のソフトとの組み合わせなどで、付加価値を持つソリューションを提案したいと考えています。 

パートナーとの理解深耕でジャンルを確立する

--ディストリビューターやSIerのデータレスクライアントに対する理解度は進んでいますか。

小川 あるパートナーでは仮想デスクトップ、別のパートナーではセキュリティ対策など、まだ、ジャンル化されていないのが実情です。そこでまずは、データレスクライアントというジャンルを確立することが重要と考えています。ただ、3~4年前と違って、獲得の見込みが薄いシンクライアントやVDIの1億円の案件より、獲得できる1000万円のデータレスクライアント案件を提案してくれるパートナーの方々が確実に増えてきていると、手ごたえを感じています。

小方 われわれはパートナー経由での販売ですが、まだ、十分にはパートナーの方々に伝えられていないと感じます。特に、ディストリビューターの方々は非常に多くの商材を取り扱っておられるので、営業やマーケティングの方に直感的にサービスを理解してもらうことが大切です。そのため、パートナーの方々に向けた動画を作成しています。また、最近は、デジタルマーケティングに注力しており、エンドユーザー向けウェビナーを開催しています。その分析を通じてセグメント別の傾向が分かるので、その情報をパートナーの方々と共有して、適切なアプローチができるようにしています。

阿部 ユーザーの多くは、システム導入を検討するにあたりパートナーに相談するため、パートナーの方々にしっかりデータレスクライアントについて理解してもらうことが重要です。そのための啓発が大切で、お客様から相談を受けた時に一言で説明できるよう、パートナーの方々に向けて3分で理解できる動画を作成し、提供しています。また、ディストリビューターの方々が提供しやすいようコンパクトにして、他の商材と組み合わせたセット販売などをしやすいものにするためのシナリオづくりにも取り組んでいます。 

--ユーザー企業に関して、変化は出ていますか。

小川 お客様を取り巻く環境は3~5年前、情報システム部門(情シス)が強く、一般社員(利用者)には何もさせないよう管理していました。しかし、コロナ禍でシンクライアント環境において利用者が同時アクセスして、起動できなくなるケースも発生しました。こうした使い勝手が損なわれたことで、情シスは利用者の声を聞かざるを得なくなっています。

阿部 コロナ禍で情シスは変わらざるを得なくなり、利用者の利便性を重視する企業が多くなりました。こうしたユーザーオリエンテッドの風潮が生まれてきたことも、データレスクライアントのニーズに結び付いていると思います。  

小方 今、経営者にとって人の採用が重要な経営課題ですが、思うように人が採れない状況です。今の若い人はホワイトかブラックかをすごく気にします。テレワークなどの自由度の高い働き方ができるかが会社選択の重要な要素の一つになっており、また、働く環境を良くすることが離職率の低下にもつながると意識するようになりました。

小川 先日、知人が憧れていた会社に採用が決まったものの、今時、テレワークがないことを理由に辞退しました。つまり、スマートワークができない企業には、優秀な人材が集まらず、見限られる世の中になろうとしています。

--シンクライアント、DaaSは競合でしょうか。また、今後の市場の展望をどう考えていますか。

小川 解決できる課題は似ていますが、シンクライアントはPC自体を仮想化するのに対し、データレスクライアントはデータの仮想化です。しかも、コストは10分の1なので、直接の競合にはならないといえます。市場については、出社に舵を戻す企業が増えてきた中で、アフターコロナを考えると、端末自体が動く機会が増えるでしょう。そのため多くのベンダーが参入し、市場の拡大につながることを期待しています。

小方 働き方の変化で直行直帰が増加していることも、データレスクライアントのニーズ増加につながっています。今まさに、データレスクライアントの市場が生まれつつある。パートナーとともに、市場を捉えてしっかりとお客様にアプローチしていきます。

阿部 2~3年前はパンデミックが起こるとは誰も思っていませんでした。ハイブリッドな働き方が主流になる中で、データレスクライアントのニーズは確実に増えていくと考えています。