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救急医療で生体認証活用した意思確認システム 実証データなどを規制の見直しにつなげる――NECと北原病院グループ

2019/07/19 08:00

週刊BCN 2019年07月15日vol.1784掲載

 NECと東京・八王子市を拠点とする北原病院グループ(KNI、北原茂実理事長)などは、患者が望む医療や生活支援サービスに対する事前同意を取得・保管し、救急医療などに活用していくシステムとして「デジタルリビングウィル(DLW)」の実証事業を共同で始めた。DLWのデータを活用する際の本人確認にはNECの顔認証、指紋認証、指静脈認証の三つの生体認証技術を採用。患者が意識を失うなどのケースでも本人の意思に基づいた内容の医療を提供できるようにする。セキュリティに配慮した専用のクラウド環境もNECが用意する。同社は生体認証技術を幅広い分野に応用する突破口として期待を寄せる。

 NECとKNIは2017年10月に医療分野で「共創プロジェクト」に着手することを発表した。今回実証を始めるDLWの実用化や、DLWに登録された情報を基にした医療・介護サービスや買い物代行、遺言書作成など生活をトータルでサポートする会員制サービス「トータルライフサポートサービス」、IoTやAIの活用により業務オペレーションの自動化やより高度な診断・治療を実現する「デジタルホスピタル」の実現などを目指してきた。

 トータルライフサポートサービスは、北原病院グループのKitahara Medical Strategies International(KMSI)が既に「北原トータルライフサポート倶楽部」というサービス名で一般提供しており、会員は50人ほどだという。今回の実証では、この北原トータルライフサポート倶楽部の情報基盤であるDLWを、必要なときに八王子市内の北原病院グループ提携医療機関が利用できるようにする。緊急時の迅速・適切な治療に役立てられるかを検証する意向だ。

 また、今回のプロジェクトは、政府が省庁横断で推進する「規制のサンドボックス制度」の認定を受けている。先進テクノロジーを活用した新たなビジネスの創出で現行の規制が障害になっているようなケースは珍しくないが、規制のサンドボックス制度はビジネス創出のアイデアを持つ事業者が、規制官庁の審査・認定を受けた上で社会実装に向けた実証事業を行い、得られたデータを規制緩和につなげていく制度だ。NECとKNIは、センシティブな情報を第三者と共有する今回の仕組みが個人情報保護法などに抵触しないかを確認し、実用化への道を開きたいとしている。
 
KNI
北原茂実
理事長

 KNIの北原理事長は「患者が緊急搬送された場合は迅速に検査や治療を開始しなくてはならないが、高齢の単身者などはその前に家族を探して同意を得る必要があり、治療が遅れてしまうことが少なくない」と指摘する。KNIは脳卒中患者などを特に多く受け入れてきた経験から、治療の遅れが重篤な症状を招くケースを減らすことが健康寿命の底上げに不可欠だという問題意識を持っているという。DLWによりこうした課題の解決を目指す。両者は将来的に、DLWを全国の医療機関が幅広く活用する情報プラットフォームとして成長させていきたい意向。(本多和幸)
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外部リンク

NEC=https://jpn.nec.com/