旅-経営者の目線-

<旅-経営者の目線->19.上高地と飛騨の旅

2002/12/09 15:27

週刊BCN 2002年12月09日vol.969掲載

 今年9月の3連休に役員会で上高地と飛騨地方を旅行した。上高地を訪ねるのは3回目だが、何回来ても感動を新たにする。文字通り山紫水明の地で、穂高連峰の威容が目の前に聳え立ち、水量豊かに勢いよく流れる梓川は清く澄んでいて、川底の石と砂利がよく透けて見える。この梓川を見ていると心が洗われる想いがする。大自然の中に河童橋と数軒の民宿が点在し、一幅の絵のようで時の過ぎるのを忘れさせる。この辺りの眺めが一番だが、上流の明神池から左右に蛇行する梓川に沿って川岸を歩いて下るのも面白い。下流の大正池は大正4年の焼岳の噴火で梓川が堰き止められて出来たもので、池のあちこちに立枯れした木が何本も残っている。その水面に焼岳の影が鮮やかに映っていて、いかにも山の湖らしい。僅か半日余りの散策であったが、やはりここは2、3日かけてゆっくりと景観を楽しみたいところである。

 小京都山は、人形山車の山祭りと古い町並、それに朝市が有名だが、今回はそれ以上に得難いものを見た。高山陣屋の蔵で見せられた、大原騒動で死罪になった18歳の農民善九郎が新妻に送った、決別の遺言状の文面に強く心を打たれ、目頭が熱くなった。封建時代の武士の横暴と対照的に悲惨な農民の立場を想って、今昔の感を強くした。

 萩町合掌集落は世界遺産に登録された白川郷の代表的な集落で、観光の名所になっている。しかし、大きな合掌造りの大家族制度の話を聞く中で、意外な実体を知った。雪深い限られた資源のなかで集落として生きていく為に、人口増を避けて長男だけが妻帯を許されて一家の主人となり、次男三男は一生労働者として家のために働くという。ここにも封建時代の悲惨な農民の生活があった。生まれながらにして極端に差別された社会と、努力すれば何でも手に入る現代との違い。不況とは言え、食べたいものを食べ、行きたいところに行ける、現代に生きる幸せを感謝したい。
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