戸板祥子の筝曲の時間

<戸板祥子の筝曲の時間>3.お気に入りの音楽

2003/07/21 15:27

週刊BCN 2003年07月21日vol.999掲載

 吉松隆氏を知っている読者はどのくらいいるだろうか。

 彼は慶應義塾大学工学部を中退後、一時松村禎三に師事したほかは、独学で作曲を学んだ異色の作曲家である。

 1981年に「朱鷺によせる哀歌」でデビュー。以後いわゆる「現代音楽」の非音楽的な傾向に反発した「新(世紀末)抒情主義」を主唱し、5つの交響曲や「鳥のシリーズ」を始めとする室内楽作品、「プレイアデス舞曲集」などのピアノ曲のほか多くの作品を発表している。

 また執筆活動も盛んで、著書に「魚座の音楽論」、「世紀末音楽ノオト」(ともに音楽之友社)などがある。

 彼の邦楽処女作品は「雨月譜」。題名からもわかるとおり、お化けが出てくるような、ひんやりとして、でも情念がこもっている…なんていう感じの曲である。これは尺八と17絃の2重奏で、私も何度か演奏した。

 この曲の面白いところは、箏と尺八の楽譜が別々に存在し、各々違った時間がそこに流れている点だろう。彼は20絃奏者の吉村七重氏に多くの曲を提供している。

 数年前、彼のCD出版記念ライブでは、吉村七重氏とのトークコンサートが邦楽専門ライブハウス「和音」で開催された。収録曲の〈すばるの七つ〉は20絃独奏曲である。私はまだその頃20絃を習っていなかったので、早速楽譜とCDを買い、13絃箏で、足りない音は飛ばしながら弾いたことを思い出す。そのCD「夢あわせ・夢たがえ」は素晴らしいのでぜひ聞いてみて欲しい。

 私は2人のかもしだす音楽性に惹かれ、文化庁インターンシップ研修生となった01年に吉村氏の門をたたき、20絃、そして吉松作品を弾く機会を得た。今はお気に入りの音楽から、弾くことがやっかいな音楽になっている。

 その吉松作品を聞ける機会があるので、興味のある方はどうぞ。

 7月31日(木)渋谷クラブasia ヴエノス館(18時オープン)でのライブ。私の出演は18時半から19時まで。全3バンドの出演。チャージ2500円(1ドリンク付)。問い合わせ・予約はサイト(http://cat.zero.ad.jp/~zau01828/)のメールからどうぞ。
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