Letters from the World

スマイルカーブ

2003/08/25 15:37

週刊BCN 2003年08月25日vol.1003掲載

 台湾を代表するIT企業、エイサーのスタンシー会長が提唱する「スマイルカーブ」という考え方は台湾企業の間では有名、企業活動あるいは企業戦略を語る上で欠かせない理論体系である。IT産業、とくに製造業において、川上から川下にいたる過程で付加価値をグラフにすると、ちょうどスマイルのような曲線となるわけである。すなわち川上では設計開発やICなど素材産業の付加価値が高い。中間が組み立て加工で低付加価値。川下が販売、サービスで高付加価値という具合。

 ブランドを確立して市場を開拓すると付加価値は高いが、販売管理費や広告費などマーケティングコストが高くなるのは当然である。川上に位置する企業はUMC、VIAなどのチップメーカーや中華映管などのようなデバイスメーカー。川下に位置する企業はアサステックやエイサーなど。台湾には伝統的に中間に位置する企業、いわゆるOEMメーカーやEMSメーカーが数多い。大手ではノートパソコンメーカーのクワンタや、欧米メーカーに対するEMSとして機能するFICやFOXCOMなどは圧倒的なボリュームで他社を圧倒する。

 確かに利益率は高くないが、徹底した生産効率で世界でも数少ない企業といえる。大陸の自社の工場や協力工場の有効利用という点でも際立っている。生産技術、品質管理などでも大陸企業にくらべ一日の長があるばかりでなく、カスタマー重視の企業文化も整っている。最近では在庫、出荷、アフターサービスなどのロジスティックス分野の提供で付加価値を高めようとしている。台湾企業にとって、高いマーケティングコストを払い第2のデルやサムスンを目指すのは、得策とは言えないだろう。得意のスピードと柔軟性で高度なサービスを提供するのが現状ではベストといえる。スマイルカーブの底を脱却して、両端の産業に展観したいという意向は心情的には理解できるが、その道なりは険しい。(台北発:アコードインターナショナル 原 真)
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