Letters from the World

IT腕時計

2003/11/10 15:37

週刊BCN 2003年11月10日vol.1014掲載

 マイクロソフトのSPOT(Smart Personal Objects Technology)を覚えておられるだろうか。これは今年1月、ラスベガスでの展示会で発表された.NET規格の携帯端末である。このときは腕時計型として発表され、ゲイツ氏自らデモを行った。既に提携先のフォッシルからは製品が出荷されているが、現在までのところは、やや期待はずれと言えるだろう。

 腕時計業界は少々特異な市場で、安価なデジタル時計が市場を席巻しても、ロレックスなど高級品のシェアを奪うことはない。しかも若者はカシオのGショックやスォッチなどを好み、旧来の高級ブランドにはあまり興味を示さない。しかし、高級品がまかり通るこの市場をしたたかなIT業界が黙って見過ごすはずもなく、この市場に参入すべく各種のマーケティングが行われている。SPOT製品をリリースしているフォッシルからはパームOSを採用した製品もラインアップされているし、PDA(携帯情報端末)も含めた多くのITメーカーは、一度は腕時計型の試作品を発表している。

 そしてこの分野のリーダーであるカシオ計算機は、多くの付加機能付き製品を用意し、新たな需要の掘り起こしに躍起だ。旧来の高級腕時計メーカーもようやく重い腰を上げ始めた。クリスマス前のギフトシーズンを間近にして、往来ビジネス誌に集中していた広告宣伝活動をIT系のメディアにも掲載するようになってきたのだ。

 彼らの製品やブランドイメージは、IT世代のリッチ層に受け入れられるのか、遅ればせながら手探りを始めたのだろう。製品開発も同様で、各社とも研究開発躍起だが、その中でも軍需関係で高いIT技術を持つTAG・ホイヤーは、特にこの方面に積極的だという。旧来の高級品の基盤は盤石なのか、それともIT分野とともに成長してきた新しいブランドが名を成すのか。携帯電話からPDAに続く次世代の携帯情報端末であるIT腕時計市場の争いは、ようやく始まったばかりである。(ニューヨーク発:フリージャーナリスト 田中秀憲)
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