BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『ソニー、パナソニックが束になってもかなわない サムスンの最強マネジメント』

2010/09/16 15:27

週刊BCN 2010年09月13日vol.1349掲載

 著者はサムスンの人事部に18年間籍を置き、部長を務めた人物である。李健熙会長の人材育成にかけるすさまじいまでの熱意を間近に見てきた著者が、サムスン急成長の秘密を明かすという筋立てになっている。

 ある日、李会長が突然、サムスングループの幹部に「このビデオには人材づくりの秘訣が込められているので、教訓を学んでみよ」と指示を出した。それは、錦鯉を育てる「鯉師」を題材とした特集番組で、新潟県山古志村が舞台となっているものだった。13匹の錦鯉に500万匹の稚魚を生ませ、第一回目の鑑別作業で50万匹を選び出す。さらに2度目、3度目の鑑別を行い、最終的にはたった5000匹しか残さない。その間、鯉師は錦鯉の養育に全身全霊をささげる。鯉がよく育つ水質はアルカリ性なので、酸性雨が降り注ぐ梅雨時は池の中に入って、口に含んで味を試し、中和剤の石灰を撒いたりする。色合いに影響するため、病気に罹った錦鯉には薬を使えない。そこで塩水で対処する。そうした4~5年にも及ぶ努力を重ねた末に、品評会に出せる鯉はせいぜい4~5匹という。育てることに対する根気と不断の努力、李会長はここに強い共感を覚えたのだ。

 当然ながら、サムスン独自の教育カリキュラムも紹介されている。それをトップ自らが先頭に立って、企画・運営しているところに凄さが感じられる。それにしても、人を大事にするのは日本企業の専売特許ではなかったのか。経営の原点を再確認するのにぴったりの本である。(止水)


『ソニー、パナソニックが束になってもかなわない サムスンの最強マネジメント』
申 元東 著 岩本永三郎 訳/前坂俊之 監修
徳間書店刊(1600円+税)
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