BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『アメリカを占拠せよ!』

2012/11/22 15:27

週刊BCN 2012年11月19日vol.1457掲載

 2011年9月17日から、米ニューヨークのウォール街で、約1000人の市民たちが「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」をスローガンに、長期にわたるデモを行った。この抗議活動は全米に飛び火して112都市で6700人を超える逮捕者を出し、また、世界各地で賛同する団体が立ち上がった。直接行動がなりを潜めた今でも、一定の社会勢力としてのパワーを保っている。

 著者は、この「Occupy Wall Street」の精神的支柱の一人で、マサチューセッツ工科大学教授の言語学者。その著者の講演やインタビュー記事を集めたのが本書だ。「Occupy Wall Street」は「We are the 99%」をスローガンに掲げる。1%の者が富と支配権を行使し、99%の大衆が貧困と隷属に甘んじているというのである。著者によれば、1%というのは運動のためにわかりやすくした数字で、事実は0.1%という。残り99.9%の人が停滞もしくは衰退するいびつな社会システムのなかにある格差を是正し、民主主義社会を取り戻そう、と本書は主張する。

 1970年代、アメリカ経済はモノをつくって稼ぐ実体経済から、金融操作によって稼ぐ金融経済に移行した。ここから世界の経済を金融が支配する体制ができ、格差が生まれた。そして金融経済は、その限界に近づいている。

 アメリカはいま、リベラルに振れている。バラク・オバマの再選だけではない。「Occupy Wall Street」の思想的指導者であるハーバード大学のエリザベス・ウォーレン教授も上院議員に当選している。アメリカの大きな流れを知り、われわれはわれわれの選択をしよう。(叢虎)


『アメリカを占拠せよ!』
ノーム・チョムスキー 著 松本 剛史 訳
筑摩書房 刊(820円+税)
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