コンピュータはプロ棋士を超えるか

 囲碁と並んで、将棋は長い歴史と幅広いファン層を誇るゲームである。かくいう書評子は、米長邦雄永世棋聖が存命中に食事を共にさせていただいたことがある。もっとも、永世棋聖を前にして、「私も将棋をやっています」とは、恥ずかしくてとても口にすることはできなかったが……。

 その米長氏が将棋連盟の会長の立場でコンピュータ将棋と対戦した事実には驚いた。しかも敗戦を喫したことに大きなショックを受けた。敵の駒を取って味方につけ、さらには歩が金と成って敵の王将を追い詰めるといった複雑なルールで対戦する日本の将棋で、プロ棋士がコンピュータに負けるなど、考えられなかった。将棋ファンなら誰もがそう思っていたはずだ。

 しかし、である。最近、この書評欄で取り上げた『2045年問題』に書かれていたように、コンピュータが人類の能力をはるかに超える日がやってくるのはそう遠くないとみられる。実際、「あから2010」というコンピュータ将棋ソフトが当時の女流王将をやぶって以来、塚田泰明九段、森下卓九段といった最高位にあるプロ棋士がコンピュータと戦って、互角の勝負を展開した。そして2015年、将棋連盟の若手プロ棋士5人が「電王戦FINAL」で熱戦を繰り広げることになった。この本は、その対戦の模様をドキュメント仕立てで紹介したものである。いわゆる心理戦がまったく通用しないコンピュータ相手の対戦における棋士(人間)の心の葛藤などが克明に描写されていて興味深い。(仁多)


『ドキュメント コンピュータ将棋』
天才たちが紡ぐドラマ
松本博文 著
KADOKAWA 刊(800円+税)