BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『ネット右翼になった父』

2023/02/24 09:00

週刊BCN 2023年02月20日vol.1958掲載

家族といかに向き合うか

 数年前に目にした「定年退職した父が右傾化していた」という記事がなんとなく記憶に残っていた。デジタルリテラシーが低い高齢者がネットの嘘にだまされ、トンデモ話を信じこんでしまう。家族からするとやりきれないだろうな、と苦々しい気持ちになった。

 ところで、この話には後日談があった。情報の発信者である著者は、ネット右翼になってしまった父の死後も悶々とした思いを抱え、家族や親戚、周辺のコミュニティーを3年近く取材し、父の本当の姿を追い求めた。その一部始終をまとめたのが本書だ。

 著者によると、もともとイデオロギーによる家族の分断を掘り下げた内容にする予定だったが、調査の結果があまりにも想定と違い、途中で企画意図が変わったのだという。正直、読んでいて何度も胸が苦しくなった。父親の墓を暴くも同然の行為に著者や家族は傷ついていくし、真実が明らかになっても死者と和解することはできないからだ。それでも、同じ悩みを抱える人にとって著者の後悔と反省は大いに現状を打開するヒントになるはずだ。「家族といかに向き合うか」という、つい避けてしまいがちな普遍的テーマについて改めて考えさせられた。(雀)
 


『ネット右翼になった父』
鈴木大介 著
講談社 刊 990円(税込)
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