BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『日本庭園をめぐる ──デジタル・アーカイヴの可能性』

2023/08/11 09:00

週刊BCN 2023年08月07日vol.1980掲載

庭園は変化し続ける

 先日、東京都庭園美術館の敷地内にある茶室で、初めての「呈茶」を体験した。参加する前は、伝統文化に触れられることよりも、おいしいお茶菓子と本格的なお茶への期待感のほうが勝っていたが、茶室に入ってみると、広間から見える庭園の緑の美しさに圧倒された。美しい日本庭園に囲まれた茶室でいただくお茶の味は、なかなか忘れられそうにない。

 本書では、日本庭園を「舞台の上演」に見立てている。筆者によれば、「日本庭園は植物のほかにも、石、水などさまざまな要素で構成されており、それらは天候や季節によって変化しているため、常に1回きりの趣を見せる」という。

 日本には長い歴史を持つ庭園が現存している。しかし筆者は、「各時代に作られた庭は、当然ながらそのままのかたちを保ってきたわけではない」と語る。絵や写真集といったアーカイブが残っているとしても、当時の姿を完全に知ることはできないのだ。

 筆者は現在、「日本庭園がどう変化し続けるか」をアーカイブ化するため、3Dスキャンや撮影、DNA解析など、現代のテクノロジーを用いた「庭園アーカイヴ・プロジェクト」に取り組んでいる。研究活動はまだ進行中だというが、テクノロジーとともに発展していくのが楽しみだ。(留)
 



『日本庭園をめぐる ──デジタル・アーカイヴの可能性』
原 瑠璃彦 著
早川書房 刊 1056円(税込)
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