未踏の領域に興味そそられ
会社を起こして10年、20年と続けるのであれば、「時代の最先端でワクワクする技術に触れ続けたい」。そんな思いを抱き、深層学習の技術を応用した大規模言語AIを専門とする自社を設立した。
世界に目を向けると、自然言語処理で人間の処理能力を上回る大規模言語AIの開発が進んでいたが、国内IT産業の追随のスピードは遅く、新規参入のチャンスだと踏んだ。日本語での大規模言語AIの開発は未踏の領域であり、技術者としても興味をそそられた。
「新規性」欠け、熱意失う
「ワクワク感」にこだわるのは、初めて起業した際の苦い思い出にある。13年にスマホアプリ用のノーコード開発ツールを手掛ける企業を立ち上げたものの、数年で暗礁に乗り上げた。取り扱う技術が「新規性」に欠け、技術者として事業を続ける熱意を失ってしまったことが最大の要因だった。
その後、大学に戻り、AIを専門とする松尾豊教授のもとで働いたことで、大規模言語AIにおいて日本が世界に大きく後れを取っている事実を知る。松尾教授は数多くのITスタートアップを支援するなど新しい産業育成にも熱心に取り込んでおり、その薫陶を受け、失っていた起業への情熱が再び頭をもたげた。
世界に取り残されないよう尽力
コンタクトセンターで聞き取った内容の自動要約や契約書のリスク評価、テキスト広告原稿の自動制作といった分野で、現在20社ほどの事業会社と実証実験や共同開発を進めている。
大規模言語AIを正しく評価し、適正な投資を行うパートナー企業を厳選することで、起業初年度から黒字経営を継続。最初の起業でつまづいた経験を生かし「経営の健全性と技術的革新性を両立させる」ことに力を注いだ成果だ。
日本企業において、ホワイトカラーの生産性向上が急務と言われるなか、大規模言語AIの研究成果を少しでも多く社会に実装していくことで、「日本経済が世界に取り残されることのないよう尽力したい」。
プロフィール
曽根岡 侑也
1990年、東京都生まれ。2017年、東京大学大学院工学系研究科松尾研究室修士卒。学生時代にIPA未踏プロジェクトに採択され起業を経験。18年にELYZA(イライザ)を設立。20年から松尾研究室の研究成果活用型ベンチャーである松尾研究所の取締役を兼務。
会社紹介
深層学習の技術を応用した大規模言語AIを開発する研究開発型の企業。テキスト文書の読解や要約、作成を自動化することで企業の生産性向上に役立てる。