これからの時代(Era) をつくりだす存在となるであろう業界注目の若手経営者にフォーカス。そのビジネス観や経営哲学に迫ります。今回は「Robust Intelligence・大柴行人Co-Founder」を取材しました。
「AI=魔法の箱」という誤解
米ハーバード大学に在籍していた2018年頃、世間のAIに対するイメージは万能な「魔法の箱」だった。しかし、AIの脆弱性をテーマに研究を進めていくと、実はさまざまなリスクがあることが分かってきた。「企業がAIのリスクと向き合わなければいけない時代がやってくる」。AIセキュリティ研究の第一人者で、指導教授でもあったヤロン・シンガー氏と議論を重ねるうちに、「技術を突き詰めるだけでなく社会実装しなければ」という思いは強まった。研究職を志していたが、大学卒業直前に一転、シンガー氏と共に起業へ進んだ。
盲点だった内部リスク
事業の転換点となったのは、初期顧客からの「外部内部を監視する仕組みが欲しい」という要望だった。外部リスクからAIを保護するためのセキュリティにニーズを見出していたが、AIを活用する企業の経営層は、それ以上にエンジニアやデータサイエンティストの過失に不安を抱いていた。そこで開発段階も含めAIモデルのライフサイクル全体をカバーするリスク管理にシフトし、画像処理であれ自然言語処理であれ、ほとんどの一般的なAIモデルに対応するプラットフォームを構築した。これまでになかった画期的な試みは、短期間で世界中の大企業に受け入れられた。
未来から逆算して社会を変革
大学ではじめに専攻していたのは社会哲学だったが、経済学者の成田悠輔・イェール大学助教授と出会い、「社会を変えるために必要なのは理論よりデータ」と考えるようになった。手段は変わったものの「社会を変革したい」という意欲は一貫している。経営者として常に意識しているのは、米Y Combinator(Yコンビネータ)の創業者、ポール・グレアム氏の「live in the future and build what's missing」という言葉。未来に身を置いてみることで、現代に欠けているものを生み出せる。AIセキュリティ市場のリーダーとして思い描く社会変革を実現するために、未来から逆算して今すべきことを考えている。
プロフィール
大柴行人
1995年生まれ。開成高校を卒業後、2014年にハーバード大学に入学。在学中にAIコンサルティング企業の日本支社の立ち上げに従事。19年に同大学でコンピューターサイエンス・統計学の学位を取得。同年、指導教授と共同でRobust Intelligenceを創業。
会社紹介
米サンフランシスコに拠点を置き、AIを自動でテスト・モニタリングするプラットフォーム「Robust Intelligence」を提供。開発段階から本番稼働時まで全てのプロセスでAIモデルのリスクを管理するのが特徴。調査会社CB Insightsの「世界で最も有望なAIスタートアップ100社」に2年連続で選出されている。