これからの時代(Era) をつくりだす存在となるであろう業界注目の若手経営者にフォーカス。そのビジネス観や経営哲学に迫ります。今回は「AI CROSS・原田典子CEO」を取材しました。
ベッドの上から社会に参加
小中高とドイツで過ごし、社会人になってからの半分は米国で勤務した。日本と欧米を行き来するなかで地域ごとの生活様式の違いを実感し、とりわけ「コミュニケーションまわりの溝が大きい」と考えるようになった。
決定的だったのは2012年に赴任先の米国で長男を出産したときだった。「産後のベッドの上で普通に仕事のメールを見られたし、役所からの通知も携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)で送られてきた」。今では当たり前かもしれないが、ベッドの上からでも社会に参加できるコミュニケーションのかたちが、10年前から米国では実現していた。
硬直的な働き方にあぜん
数年後に帰国してあぜんとしたのが、苦労して見つけた保育所の送り迎えもままならない日本の硬直的な勤務形態だった。ベビーシッター文化もなく「これはダメだ」と一念発起して起業した。
「日本の通信インフラは非常によく整備されているにも関わらず、それが社会や仕事で十分に生かされていない」と課題意識を持ち、コミュニケーションを変革する事業を軸に据えた。まずはモバイル通信のなかでもっとも基礎的なSMSの活用から始めたところ見事ヒット。19年に東証マザーズ(現グロース)に株式上場するまで急成長した。
時間や場所の制約なくす
就労人口が減っていくなかで、経済を維持するには女性や高齢者の活躍の場を広げ、外国人の協力を取り付ける必要がある。働ける時間や場所に制約があるケースが多く、「これを今あるデジタル技術で何とかしたい」という思いが起業の根底にある。
生活様式や働き方改革に合わせてコミュニケーションの手段も変わっていくべきであり、さらに踏み込んで「単純作業はできる限り自動化、スマート化する」ところにビジネスの伸びしろがある。同時に国内経済を衰退させず、再び成長に転換するヒントも隠されているとみる。
プロフィール
原田典子
福岡県生まれ。1998年、慶應義塾大学経済学部卒業。SAPジャパンを経て2000年、AOSテクノロジーズ入社。米国法人勤務を経て15年、AOSモバイル(現AI CROSS)設立。代表取締役に就任。MBO(経営陣による買収)により独立。
会社紹介
携帯電話のショートメッセージサービス(SMS)を使ったサービス「絶対リーチ!SMS」などを手がける。2022年12月期の連結売上高は前年度比57.2%増の30億円、営業利益は同41.3%増の2億7000万円の見込み。