これからの時代(Era) をつくりだす存在となるであろう業界注目の若手経営者にフォーカス。そのビジネス観や経営哲学に迫ります。今回は「ミチビク・中村竜典CEO」を取材しました。
最も時代遅れだった取締役会
公認会計士や企業のコーポレート責任者として数多くの取締役会に同席する中で、大量の紙が発生していることに違和感を覚えた。「なぜ会社にとって最も重要な会議が最も時代遅れなのか」。その答えは明白だった。日本の会社法にのっとると、取締役会の要件を満たすには紙に残すことが必須だったからだ。しかし、コロナ禍によってその解釈が変わる。取締役会議事録の電子化が可能になり、改善の余地が生まれた。
「これはビジネスチャンスになる」。21年1月に思いついたアイデアの設計図を書き始め、数人の仲間と日夜作業に没頭した。そして、同年9月に取締役会DXサービス「michibiku」のベータ版をリリースした。
リリース後に判明した隠れた課題
リリース直後はスタートアップ企業を中心に採用が広がったが、徐々に上場企業の導入事例も増えてきた。会社の規模が大きくなれば、取締役会の参加者も多くなり、michibikuによる業務効率化の効果も高くなる。
一方で「時間の使い方」という隠れた課題も見えてきた。取締役会では新しいことをやるための議論をするべきなのに、報告や稟議などのタスクに時間が割かれていた。そこでひらめいたのが、会議中の時間の使い方を可視化・分析する機能だ。取締役会に特化したソリューションで国内に競合はいなかったが、海外には有力ベンダーが存在しており日本市場を狙っていた。「会議の中にさらに踏み込めば強みになる」という思惑もあった。
目標は上場企業の8割に導入
最初のアイデアが生まれてから約2年。スピード感にこだわって、事業を成長させてきた。原点にあるのは、現場作業員から公認会計士を目指すと決意したときに課した「1年半」というリミットだ。勉強に専念するために当面の生活費を貯金して職場を退職。背水の陣で試験にのぞみ、結果は一発合格。覚悟を決めて得た成功体験は「諦めなければなんとかなる」という自信につながった。
michibikuは走り始めたばかりだが、中長期的には「上場企業の8割に導入してもらう」という目標を掲げる。「日本企業の取締役会でPDCAを回すという文化を根付かせ、経営をあるべき姿にしたい」。そんな思いを実現するために、さらに事業の成長を加速させていく。
プロフィール
中村竜典
1988年生まれ。愛知県出身。高校卒業後にトヨタ自動車系企業で現場作業に従事。退職後に1年半の勉強期間を経て、公認会計士試験に合格。2013年にPwCあらた有限責任監査法人に入所。その後、OKANでコーポレート責任者を務め、18年に独立。21年にミチビクを創業。
会社紹介
取締役会DXサービス「michibiku」を提供。取締役会に必須の招集通知・議事録・署名などのワークフローを、法規制を順守しながらデジタル化できるソリューションとして注目を集める。23年1月に取締役会実効性評価を行う機能を実装した。