これからの時代(Era) をつくりだす存在となるであろう業界注目の若手経営者にフォーカス。そのビジネス観や経営哲学に迫ります。今回は「モーションリブ・溝口貴弘CEO」を取材しました。
運命的な出会い
「このために勉強してきたのか」。そう感じるほど運命的な出会いだった。大学4年のときに出会った「リアルハプティクス」。ロボットに人のような触覚や力加減を与えることができる制御技術だ。
面白さに気づいてからは研究にのめり込み、修士課程、博士課程とリアルハプティクスを学んだ。工学博士号を取得し、研究員になった。
しかし、研究員が自分のやりたい研究を十分できるようになるまでにはかなりの時間がかかる。元々起業の志はなかったが、よい技術を広めたいとの強い思いから起業の道を選んだ。
フラットな視点で
新しいものを見たときに、なるべくありのまま受け入れるようにしている。「面白いものは面白いと思うし、素晴らしい技術に出会ったときには素晴らしいと思う」。
「リアルハプティクスで、できなかったことをできるようにする」という活動の中で、さまざまなアイデアを出すには、何事にも先入観を持たないことが大切だ。
最初からこのやり方ではうまくいかないだろうと思って取り組むと、うまくいっている兆しがあっても、それを見逃してしまうことがある。まずは一度、フラットな視点で考えて、可能性を見逃さないよう心がけている。
自分の進む道を信じる
予測よりもロボットの導入はかなり遅れている。人のような繊細な動きができず、動作や稼働場所に制限が生まれることが一因としてある。会社の事業を通じてリアルハプティクスを広め、ロボットの普及を支えたい。見据える先には、ロボットが人間の生活空間の中で協働できる未来がある。
昔、恩師である研究室の教授から一つの言葉を贈られた。「苦しい時にその場でとどまるのは良い。けれども後ろには下がるな」。後ろに下がることは、ある程度諦めることだと解釈する。だからこそ「自分の道が正しい」と信じて進んでいく。
プロフィール
溝口貴弘
1987年、神奈川県生まれ。2014年に慶應義塾大学大学院理工学研究科で博士号を取得後、神奈川県立産業技術総合研究所でハプティクス技術の実用化開発に従事。16年に現在の会社の前身となる運動設計研究所を設立。17年に社名をモーションリブに変更し、代表取締役CEOに就任。
会社紹介
リアルハプティクスのアルゴリズムを搭載したICチップ「AbcCore」を開発している。そのほか、リアルハプティクスに関するコンサル、開発・導入支援や、周辺機器を提供する。