フレキシブルな組織 アップルカルチャーを継承
――社長就任に際してスカリー会長からどんなことを言われたのですか。 武内 ビジネスをやっているのだから大きくするにこしたことはないのだが、すぐに欧米の規模にまでするということは期待しない。期待しないけれど、何かアップルコンピュータが日本で貢献できることがあれば、それを見つけて、やってほしい─といわれました。
――武内社長自身が描いている新生アップルジャパンの姿というのはどのようなものですか。 武内 アップルジャパンには、やはりアップルの文化というものが継承されているのです。外から新しく入ってきた人は、この文化にかなりのショックを受けている。
というのも、アップルの組織は、非常にフレキシブルなわけです。この雰囲気は今の100人程度の体制なら継承できるのだが、3年後の500人くらいの体制になったとき、実施するのが難しくなってくる。日本のカルチャーを持った人が沢山入ってくるわけですから。しかし、このときに日本のカルチャーとアップルのカルチャーがうまく融合した企業を作りたい。
――具体的には。 武内 日本の企業というのは、500人程度の企業になりますと階層構造のはっきりした企業になります。アップルの場合はこういうカルチャーがあてはまらない。
先日も米国でワールドワイドマネジャーミーティングというのがあり、全世界から240人近くが集まったのですが、こうしたミーティングを開く場合には、スカリーやヨーカムにしても完全に1人のメンバーとして参加している。階層的に俺が上なんだというのがないわけです。非常にフランクになって、裸になって一緒に話し合いながら、何かを作っていこうというのが上手なんですよ。
アップルジャパンでも今は70人ですから、直接いろいろな人と話すことができるけれども、500人になるとなかなかできない。できなくなるけれども、そういう場があったら、上にのっかるのではなく、中に溶け込んでいってしまうようなフレキシブルな文化を保っていきたいと思います。イノベーティブな仕事にはこうしたフレキシブルな体制づくりが必要だと思います。
私は部長だと言わなくても、その人自身がちゃんとしていれば、周りが部長にしてくれますよね(笑)。部長も一員だし、社長も一員。そういうのが今、ここにはあります。固まった組織にはしたくないですね。
それと同時に大企業の場合ですと、個人にもフレキシビリティーがなくて、今まで自分はこう言ってたから、やり続けなければならないという傾向がありますし、周りも言っていたことをひるがえすと、何だあいつは、ということになる。
技術というのは、ある日突然、スポッと遠くのほうまで飛んでいきますから、そうした考えではついていかれなくなりますね。やっていくなかで、それ以上のものが見つかったらそちらの方向に楽に動ける。違う方向に動いても、何だあいつは、でなくて、よく考えてそっちへ行ったな、と見られる雰囲気が大切ですよね。それを維持しなくてはいけない。もしできなくなったら、それは次の人へ渡していかなければならないでしょうね。今、私の周りには直接サポートしてくれる人が何人かいますが、その人たちには私が何か言ったとき"そうだ"といってくれる人はいらないといっています。もちろんよかったら言ってほしいですけどね(笑)。自分が溶け込んでいるつもりでいても、本当は上に乗っかっていたというのではしょうがないですからね(笑)。
まず内部固めを
国内での地盤作りに注力
――現在、アップルコンピュータの正規代理店は17社ですが、今後は代理店数を増加させていくお考えはあるのですか。 武内 代理店の方々には効率的に商品を動かして頂くことが大事だと思っています。ですから積極的に17社の代理店をすぐに50社とか100社に増やそうという展開はしていない。
ただ、マッキントッシュというのは、他社のパソコンと比べてユニークなコンセプトを持った商品ですから、そのユニークな部分を活かして展開していきたいというところには、正規代理店に入っていただくようにしています。
例えば、DTPの関係ですとか教育関係ですとか、マルチメディア関連で新しい展開をすすめたいという場合には、これまでのディストリビューターさんの下についてもらっていいのですが、やはり直接、メーカーとの意見交換というのも必要になってきまずから、そういうケースには正規代理店に入ってもらっています。
――そうしますと将来、正規代理店を何社にまで増やしたいという目標はないのですか。 武内 目標は出していないです。それとアップルジャパンが管理できるサイズというのもあるわけです。今の17社を突然に100社に増やしても管理できなくなりますから、結局、迷惑をかけてしまうことになる。
――今の70人の体制では何社まで管理できますか。 武内 もう精一杯のところにきているでしょうね。現在、毎月10人ずつ採用しておりまして、年内には100人を超える組織になります。こうした内部を固めた上で、代理店を増やしたほうがいいということであれば増やしていきたいと思う。しかし、今は代理店を増やせばいいと思っていません。今のディーラーを通しただけでも相当の数の商品を流すことができるのです。むしろ、代理店を増やすことによって、単に商品が流れっぱなしになってしまうほうがまずいと思います。例えば教育面とか、サービス面がキチッと出来ないとダメだと思うのです。代理店を増やしていくかどうかというのは、アップルジャパンの体制づくりとのバランスの問題です。今は、アップルジャパンの内部を固めて、ある時期がきたら外部固めをする。バランスをよく見ながら大きくしていきたいですね。
――17社の下にぶらさがっているのは何社ですか。 武内 約700社です。直接アップルジャパンとの取り引きはないのですが、正規代理店が新たに取り扱い店を増やされるときは、どういう店なのかということについて話し合いをさせて頂いております。ですから、どこにでも置いて頂くというのではありません。
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