電子自治体への先進的な取り組みで知られる横須賀市(神奈川県)は、今年3月から、統合型GIS(地理情報システム)の運用を開始するとともに、ほかの自治体に先駆けて本格的な住民向けサービスを開始した。統合型GISは電子自治体の中核システムとして各自治体でも今年度から導入が本格化するとみられている。検討開始から短期間で市役所内のシステムを構築するとともに、住民向けサービスまで一気にこぎつけた横須賀市の事例は、ほかの自治体にも大いに参考になりそうだ。(千葉利宏)

統合型GISを使ったネットサービス「よこすか わが街ガイド」
住民向けにも本格サービス提供
●航空写真と地図を合体 「航空写真に、住宅地図を重ね合わせることもできますよ」――。横須賀市企画調整部情報政策課・渡部良次主査は、そう言いながら、パソコンのディスプレイ画面に表示された基本図に、異なる地図情報を次々に重ね合わせていく。
なるほど、航空写真だけを見せられてもその場所がどこかはわかりにくいが、住宅地図を重ねてみると一目瞭然である。
「例えば、市民の方から街路樹に関する苦情が寄せられた場合、住所を聞いて航空写真を重ねてみれば、問題の街路樹の見当をつけやすく、電話対応もスムーズにできる」――。そんな使い方も可能だ。
「次は、国土交通省が発表する公示地価の情報を重ねてみましょうか」。新聞などでは、住所と地価が一覧表でズラズラと掲載されるだけだが、住宅地図にプロットしてみると、これも確かにわかりやすい。「市の職員が地域内のデータだけを抜き出して加工した」自前のコンテンツである。
「バス停の位置も表示できます。これは消防署の職員がつくりました」。火災予防活動できめ細かく地域をパトロールしている消防署員であれば、確かに面白いコンテンツを作れそうである。
これまで統合型GISが電子自治体の中核システムと説明を受けても、今ひとつ、その効果が理解できていなかったが、具体的な使い方を見て重要性を改めて実感した。
「実はGISの取り組みに関しては、横浜市などほかの自治体に比べて当初は出遅れていた。そこで一気に統合型GISをめざすことにした」
電子入札システムなどIT関連のプロジェクトをいくつも成功させてきた横須賀市だけに、プロジェクトの進め方の“ツボ”を心得ている。
●4つのコンセプトを基本に 横須賀市が統合型GISの導入を本格的に検討し始めたのは、99年度から。コンサルタント会社も入れて、最初に統合型GISに関するコンセプトとガイドラインを策定した。やはり、プロジェクト成功のカギを握るのは、全体を構築する上での土台をきちんと固めておくことである。
コンセプトは、(1)市役所内の地理情報を一元管理(将来的には住民基本台帳システムとも連携)、(2)さまざまな情報を相互利用できる環境整備(部署ごとで情報を抱え込まない)、(3)費用対効果の高いシステムの実現、(4)使いやすいシステム(使い続けることが可能なシステム)――の4つにまとめた。
ガイドラインに基づいて、共通地図と共通情報の区分、プロジェクトを推進する中心組織の設置、導入システム類型化、の3つの作業からスタートした。
「部署ごとに使っている地図が、水道が1/500、土木が1/250、下水道が1/300、都市計画が1/2500という具合にバラバラだった」(渡部主査)。
最初の関門は、共通地図の設定である。使い慣れた地図の変更に抵抗もあったようだが、費用対効果も考慮して基本の地図は1/2500に、道路や水路、土地などの管理に使う高い精度が要求される地図は1/1000を設定。高低差のある横須賀市の地形を考慮して20メートルごとに高さのポイントデータを設けた。
この基本図の上に、住宅地図(家名、住所)や土地の公図を改良してつくった土地図(筆界、地番、所有者)を重ね合わせて、これらを「共通地図」として「中心組織」の情報政策課が集中メンテナンスできる体制を敷いた。
さらに(2)を実現するために、各部署で共有する「共通情報」と、共有しない「個別情報」との区分を明確化。個別情報は市税などの滞納者情報、各種苦情情報、障害者情報などのプライバシーに関わる情報とした。
システムの類型化では、126課にアンケートを実施し、各課が管理している地図情報を整理。業務に応じて個別に開発する必要があるシステムをタイプ1、地図データを容易に作成できる簡易システムをタイプ2(02年3月稼動)、見るだけでデータを加工できない参照系システムをタイプ3(01年6月)、インターネットを使って市民に情報公開するシステムをタイプ4(02年3月)に分けた。
●コンテンツの充実が課題 類型化によって、システム開発のターゲットが明確になった。「どうしても個別に開発したいというのは都市計画、水道、税務などで、圧倒的に要望が多いのがタイプ2。基本機能をもった汎用的なシステムを一括購入することで投資を抑えた」
参照系のタイプ3は、スピードを重視して基幹LANをメタルから光にアップグレードするとともに、開発型ベンチャー企業ドーンが開発したGIS構築エンジンを採用。
タイプ4は、三浦市、葉山町と共同でサービスを提供するほか、民間とも連携するため、ASP方式を採用し、パスコと契約。「当初計画していた投資額を4割削減した」
今後は、タイプ2と4の本格稼動で、コンテンツ整備がますます重要となってくる。市職員に対する教育・訓練も今年秋までに300人、今年度中には500-600人を予定している。
「コンテンツが面白くなければ、民間のサービス業者に負けてしまう」
住民向けのサービスも、コンテンツの充実に向けていろいろとアイデアを練っており、釣りやタウンウォーキングの観光情報などの追加も検討している。