無線LANのセキュリティ性を疑問視する声が強まっている。無線LANは、これまで家庭内での利用が中心だったが、ここにきてファストフード店や商店街など、無線LANの用途エリアが急速に拡大。設定の異なる不特定多数のアクセスポイントに無線で接続する必要が出てきたことから、「互換性や個人情報の漏洩、パソコンの乗っ取りなどの問題が噴出するのではないか」との声が高まっている。無線LAN機器ベンダーは、「無線LANは、接続する自由度を高めれば高めるほどセキュリティが弱くなる」と打ち明ける。

　マクドナルドやモスバーガーなどのファストフード店や空港、公共施設などの屋内から、名古屋・大須パソコン街などの野外に至るまで、無線LANは社会インフラとして急速に普及する見通しだ。ソニーマーケティングの池戸亨副社長は、「パソコン販売にとって、明らかに追い風。最初は互換性などで混乱するかも知れないが、腰を据えて取り組むべき」と意気込む。

　だが、これまで家庭内での使用を前提にしてきたため、不特定多数の無線アクセスポイント（AP）に接続するとなると、セキュリティ面で問題が多い。ベンダー関係者は、「無線LANは、APと端末とが同一メーカーであることを強く推奨する。不特定のAPと接続する場合、セキュリティ水準を大幅に下げないと、互換性がなくなる。（ファストフード店内にAPの設置を進めている）NTTコミュニケーションズやソフトバンクから、あらかじめ話しがあったわけではなく、設計当初では、マックやモスで接続することを想定していなかった」と、不安を漏らす。

　ネットワーク専業メーカーも、セキュリティの弱さを指摘する。コレガは、「基本的に無線LANは、閉じたネットで使うことを前提にした規格の1つ。自由度は高いが、セキュリティは利用者自身で守るしかない」と訴える。

　プラネックスコミュニケーションズは、「互換性を保証するWi―Fi（ワイファイ＝国際業界団体WECAが制定）規格では、それほど強度が高くない40ビットの暗号（WEP＝ウエップ方式による暗号化）しかサポートしていない。個人利用では40ビットで十分だが、一方で、現在は128ビット暗号を推奨するしているのも事実だ」と話す。

　メルコは、「マックやモスなどの使用では、互換性やセキュリティ性を保証できない。あくまでも、Wi－Fiの規格内において通信ができるというだけ」としている。大須パソコン街に、メルコが納入した無線LAN接続サービスのAPでは、「暗号化（WEP）はしない。悪意を持った第三者によって盗聴される恐れがある」としている。

　他のベンダーは、「高度なWEP暗号方式や、IDが一致している端末同士しか接続できないESS－ID方式などを設定すれば、セキュリティは高くなるものの、異なるメーカー機器同士の互換性がなくなる」と指摘。

　この点は、無線LANを導入する店舗側が最も神経を尖らせる。マクドナルドの八木康行社長は、「せっかく無線LANを導入しても、つながらないのではイメージが悪くなるだけ。ちゃんとつながるよう孫さん（孫正義・ソフトバンク社長）にお願いしている」と話す。つながらなくて、来店客が店員にサポートを求めるようでは、業務が中断してしまうからだ。

　互換性やセキュリティ上の問題が表面化すれば、利用者に不信感を与える。利便性が下がれば無線LANの普及に水を差す。最低限の仕様しかサポートしていないWi－Fi規格任せにせず、サービス事業者やハードベンダーが早急に一致協力して、安全で快適な無線LANインフラを構築する必要がある。