ICカードの実証実験が全国の自治体で行われている。独自開発で知られる神奈川県大和市と並んで、ICカード先進地域にあげられるのが、北海道札幌市だ。政府が推進するe!プロジェクトのICカード事業で、札幌市は総務省、経済産業省、国土交通省の3省のICカード実証実験を同時に推進している。現段階では市内を走る地下鉄への非接触型プリペイドカード利用が主だが、住基ネットカードサービスが開始される2003年には、認証系と決済系に分けたICカードサービスを開始したい考えだ。(谷古宇浩司)

地下鉄の自動改札で利用できる「S.M.A.Pカード」
地下鉄からショッピングまで
●まずは地下鉄で利用 札幌市では、次世代の住民サービスを想定し、非接触型ICカードを利用した実証実験を行っている。
この実証実験は、総務省、経済産業省、国土交通省それぞれの中央省庁が推進する「e!プロジェクト」の開発・実証実験である。つまり、各省庁の実証実験別にICカードがあり、その名称や実験の具体的な目標も違う。アプリケーションの互換性はない。
札幌市では、「ICカードを活用するという共通点があり、将来サービスを開始するための技術的な問題点などを浮き彫りにするうえでは、別々に実証実験を行うことは問題とはならない」(札幌市企画調整局情報化推進部IT推進課・橘信行企画調整担当係長)と言う。
それぞれのICカードは、札幌市内を走る3つの地下鉄で利用できる。あらかじめカード内にお金を貯めておき、専用の改札機を通して電車に乗れるというものだ。イメージとしてはJRで利用できるSUICA(スイカ)と同じである。
総務省のカードは東西線(5月20日から地下鉄全線で利用可)、経済産業省のカードは南北線、国土交通省のカードは東豊線で利用できる。

地下鉄のICカード入金機
現段階のアプリケーションは地下鉄のプリペイドカード利用のみだが、今後はデパートやスーパーでの買い物、札幌市の施設利用など少額決済の電子商取引に対応できるようにする予定だ。
●3種類のICカード 地下鉄の利用という共通点があるものの、本来、それぞれの実証実験の目的は違う。その違いをみていく。
総務省のICカードは「S.M.A.P(Sapporo Multi Access Port)カード」という名称。99年から「都市コミュニティ成果展開事業」の一貫として行われてきた。
総務省の場合、03年から本格的に始動する予定の住民基本台帳ネットワークに絡んだ各自治体での住民サービスを想定して、ICカードの実証実験を展開している。
氏名、住所、性別、生年月日の基本四情報がデータベース化された住民基本台帳カードに、どのようなアプリケーションを搭載するかが最大の焦点になる。
札幌市では、地下鉄のプリペイドカードから開始してICカードの利用実態を探り、住基ネットが稼働する機会に統合が可能かどうかの判断を行うことになる。あるいは住基カードとは別に少額決済専用のICカードを別途作成することも視野に入れている。
経済産業省のカードは「SAPPORO CITY CARD」という名称である。経済産業省の委託を受けた財団法人ニューメディア開発協会が事業支援、工程管理などを行い、札幌市が実証実験場所を提供するというかたちである。
ニューメディア開発協会は「ICカードの普及等によるIT装備都市研究事業」を推進しており、松下電器産業、NTTコミュニケーションズ、NTTデータ、沖電気工業など20社弱の企業による研究コンソーシアムが運営されている。電子商取引の環境におけるICカードの利用動向が主な実験テーマとなっている。
国土交通省のカードが利用できるのは5月半ば以降で、名称は取材段階では未定だった。これはサッカーのワールドカップ開催をにらんだ多機能型ICカード。ほかのICカードとは違い、ワールドカップの公式スポンサーであるマスターカードのクレジット機能が搭載されている。
このカードは韓国でも利用可能。つまり円とウォンの複数通貨を同時に搭載できる電子マネーを利用できる。これは「ワールドカップ多機能ICカードプロジェクト」の一貫として行われている実験であり、ワールドカップの期間中だけ行われる。札幌市内だけではなく、成田空港旅客ターミナル内の売店(6店舗)においても電子マネーが利用できる。
実験モニター数もそれぞれ違う。「S.M.A.Pカード」は約2300枚、「SAPPORO CITY CARD」は7万枚、「ワールドカップ多機能ICカード」は札幌市内で実験開始当初は30枚配布予定(全国約1万5000枚、そのうち日本と韓国で利用できるのは5000枚程度)。
中央省庁の実証実験というだけあり、予算はそのほとんどが国から援助され、「持ち出しは、場所の提供や人件費、電気代などを含め5%程度」(橘係長)という。

経済産業省のカード「SAPPORO CITY CARD」

総務省のICカード「S.M.A.Pカード」
●認証系と決済系に分離 札幌市では、「ICカードは認証系カードと決済系カードは分離した方が得策」との結論に傾きつつある。
認証系カードとは住基カードのような基本四情報を搭載し、おもに市役所などで利用するもの。使う頻度は少ないが、紛失した場合は重大な結果につながる可能性がある。
一方で決済系のカードはプリペイド方式を採用し、上限3万円程度を貯めておくカード型の財布を想定している。紛失した場合でも、それほど大きな痛手は被らない。
確かに1枚のカードに多くのアプリケーションが搭載されていれば便利だが、紛失した場合を考えるとリスクを分散する方が得策だ。
決済系のカードに搭載されるアプリケーションは、自治体が独自に選択するケースが多く、その際は地場のショッピングセンターや企業などとの連携は不可欠になる。今後、実証実験を踏まえ、地場企業との調整を行いながら、札幌市独自のICカードを開発していく。