その他
国際競争力にさらされる国内ソフト産業 中国が「世界のソフトハウス」化
2002/06/24 15:00
週刊BCN 2002年06月24日vol.946掲載
中国企業にソフト開発を委託する日本のITベンダーが増えてきた。単にコストの安い労働力に期待するだけでなく、高い技術力、実力主義による高い生産性に注目している。その背後では、インドを上回る技術者輸出国を目指す中国政府の後押しが目立つ。日系企業からの受注獲得を目指し、現地の技術者は日本語習得にも前向き。労働集約型のプログラム作業のみならず、要件定義など上流工程にも食い込み始める。Javaなど先端技術を使ったソフト開発では、日本の技術者をしのぐ一面があり、国内のソフト産業は今後、真の国際競争力が迫られそうだ。(坂口正憲●取材/文)
コスト・技術で日本企業の脅威に
政府がソフト産業強化を後押し インド並の技術者輸出国へ
「家電製品の組立ラインが国内工場から中国工場にそっくり移管しているように、やがてソフト開発は、コストの安い中国に取られてしまうのではないか」(中堅システム会社幹部)。国内のソフト産業では今、このような「中国脅威論」が沸き起こっている。
実際、日本のITベンダーは中国でのソフト開発を強化している。NECは大連と西安にある2つの現地法人の要員を2003年度までに倍増し、400名にする計画だ。現地法人だけでなく、「中国の独立系ソフトハウスへの発注量も大幅に増やす」(同社関係者)構え。例えば、「中国のシリコンバレー」と言われる北京・中関村の周りには、日系企業からの受注増加で急成長する新興ソフトハウスが数多く存在する。
中国政府は01年春に策定した「第10次5カ年計画」で、ソフト産業の強化を重点項目に掲げる。「世界の工場」として製造加工業で力をもった中国は、早くも知識集積産業へのシフトを狙う。
中国のソフト産業の売上高は00年で71.8億ドル、日本の8分の1、世界市場の1%を占めるに過ぎない(中国科学地理情報産業発展センター調査)。だが、大手ITベンダーの対中投資と国内経済の急発展が相まって、99年以降、ソフト産業は30%を超える成長を遂げる。
もともと、中国人のソフト開発技術者としての資質は決して低くはない。米国のIT産業を技術面で支えるのは、インド系技術者と並んで中国系だという事実は有名だ。「眠れる人的資源を活かせば、インドのような『技術者輸出国』へと発展できる」。中国政府がこう目論むのも当然のことである。
今後、中国現地での委託開発だけでなく、日本に入ってくる中国人技術者が急増する可能性がある。大塚商会、日立製作所、東芝の3社は現地企業と合弁で、日本向け技術者を育成する専門学校を今秋にも開設する計画だ。
こうしたなか、日本と中国の両政府は02年から、それぞれのIT関連資格を相互に認証し合い、資格保持者のビザ発給要件を大幅に緩和する方針を打ち出している。中国が国家資格を他国と認証し合うのはこれが初めてこと。技術者輸出の矛先として、世界第2位のIT市場を誇る日本を意識している。
賃金は一般労働者の10倍、上流工程へ進出する
中国では今、向上心の強い若者の間で、技術者志望が“異常”に高まっている。筆者の知人でもある劉明氏(21歳)もそのような若者の1人だ。大学でコンピュータ技術を学んでおり、「将来は自分の会社を興し、日本企業とも取り引きしたい」と話す。技術者という職種が若者を惹きつけるのは、その賃金水準に魅力があるからだ。
日本のシステム会社、テック・リンクの励儉常務取締役がこう話す。「上海辺りでは、技術者の平均賃金は日本円で10万円にまで高騰している。少しでも高い給与を求めて人がどんどん移動している」。中国全土の中で賃金レートが高い上海でも10万円(約6000元)は飛び抜けている。一般の工場労働者の賃金が1000元前後なので、技術者の社会的価値がいかに高いかがわかる。
さらに技術者となれば、「とくにコネクションがなくても条件の良い仕事が手に入り、昇給も完全な実力主義」(励氏)といわれる。中国は依然、旧態然のコネ社会であり、「社会上層部との関わりがなければ、就学から就職、出世まで不利になる」(劉氏)傾向がある。その点で技術者は、若者に自由市場の息吹を感じさせる職種なのだ。優秀な人材が集まらないはずがない。
これまで日本企業向けソフト開発では、「日本語」や「独自商慣習(業務プロセス)」、「高い品質要求」が壁となって、海外への拠点シフトや海外技術者の受け入れは難しいと見られてきた。中国への開発委託も労働集約的なプログラミング作業が一般的だった。
だが最近では、「日本語を堪能に話せる技術者が増えており、要件定義や詳細設計などソフト開発の上流工程に関わるケースが目立つ」(NEC関係者)という。中国のソフトハウスでは、日系企業からの受注を増やすために、日本語習得を従業員に課すケースが増えている。一般的に、「中国人の日本語習得のスピードは驚くほど早い」(同)と指摘される。日本人技術者にとって、日本語は自身を守る絶対的技能ではなくなりつつある。
さらに、JavaやUML(統一モデリング言語)など最新技術に関しては、日本人技術者を上回るペースでスキルを積み上げている。前出の励氏は、「若い技術者は、枯れた技術よりも最新技術を好み、独自でどんどん習得している」と指摘する。コストだけでなく技術面でも競争力を付けている。
例えば、飲食店向け卸を手がけるオリエント・キャピタルは、自ら上海に設立した開発拠点で、マイクロソフト「.NET」ベースの受発注システムを構築、5月から運用している。.NETベースのシステム開発は、国内ではまだ実績がほとんどない。
中州社長は、「以前は国内企業にシステム開発を委託していたが、コスト、技術の両面から、中国でならば開発を内製化できると判断した」と話す。今後は、オリエントのように中国に開発拠点を設けたり、中国のソフトハウスへ直接発注するユーザー企業は確実に増えるだろう。
もちろん日本企業が要求する高い品質基準を、簡単にクリアできる中国のソフトハウスはまだ少ないようだ。励氏も「開発を委託するには、完全に中国側に任せず、最終的には日本側で品質管理する必要がある」と話す。それでも、「製造業のように日本式の品質管理ノウハウを吸収すれば、中国のソフトハウスは十分に戦力となる」(NEC関係者)可能性は大きい。
日本の製造業は、「世界の工場」の出現によって産業構造が揺れている。それはソフト産業にとっても対岸の火事ではない。国際的な競争に打ち勝つだけの付加価値が求められ始めている。
中国企業にソフト開発を委託する日本のITベンダーが増えてきた。単にコストの安い労働力に期待するだけでなく、高い技術力、実力主義による高い生産性に注目している。その背後では、インドを上回る技術者輸出国を目指す中国政府の後押しが目立つ。日系企業からの受注獲得を目指し、現地の技術者は日本語習得にも前向き。労働集約型のプログラム作業のみならず、要件定義など上流工程にも食い込み始める。Javaなど先端技術を使ったソフト開発では、日本の技術者をしのぐ一面があり、国内のソフト産業は今後、真の国際競争力が迫られそうだ。(坂口正憲●取材/文)
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