その他
業務システムに携帯を売り込め! 個人から法人にシフトする携帯電話事情
2002/09/09 15:00
週刊BCN 2002年09月09日vol.956掲載
携帯電話の業務端末化が進んでいる。携帯端末向けコンテンツ変換ソフト開発のエブリパス・ジャパンの大谷俊哉社長は、「今年度(02年12月期)に入って新規受注した案件のうち、携帯電話が6割、PDA(携帯情報端末)が3.5割、ノートパソコンが0.5割と携帯電話向けの売り上げが好調。携帯電話向け販売のうち、今年から企業の業務用途が過半数を超える見通し」と、これまで多かった一般消費者向けのコンテンツ変換から、業務端末への移行が急速に進んだと話す。同分野でのライバル企業であるフレックス・ファームの稲垣昭治社長は、「営業支援(SFA)系の需要が拡大しており、ここ3年間は、携帯電話向け変換ソフト事業で収益を出せる」と手応えを感じる。携帯電話向けセキュリティシステム開発のアイディーエスの熊谷卓也社長は、「強固なセキュリティが必要なのは、携帯電話が本格的な業務用途で使われ始めたとき。今が、まさに高度成長期に入るタイミング」と強気だ。携帯電話を端末とした業務システム需要の動向を探った。(安藤章司)
法人向けは600億円市場へ
インターネット対応の携帯電話=ブラウザフォンは、業務端末としての前評判は良かったが、実際の普及は遅れていた。
主な理由は、(1)業務に使えるソフトが充実していなかった、(2)業務端末として法人向けに販売する大型商談を、半年かかってまとめあげたとしても、せいぜい1000台単位の一括納入が精一杯。万単位で売れる個人向けの販売に比べたら、通信事業者にとって魅力に欠ける、(3)企業にとっての投資対効果が明確でない──など。
だが、一般消費者向けの需要が一巡したことから、通信事業者も徐々に法人向け無線データ通信の需要開拓に本腰を入れ始めた。
J-フォンが主催するシステム事業者向けの携帯電話ソリューション開発支援プログラム「J-フォン認定ソリューションプロバイダ(JCSP)」加盟者数は120を超え、NTTドコモの「緩やかなパートナー関係」(NTTドコモ法人営業本部パートナーソリューション担当・高橋秀明チーフマネージャー)では、大手を中心に90社ほどと取り引きがあるという。
大雑把な試算だが、例えば、J-フォンJCSPパートナー120社が、携帯電話関連のシステム開発で年商10億円を売り上げたとすれば、この分野のシステム構築市場は年間1200億円となる。このうち、営業支援システムなど業務用途の受注が半分とすれば、年間600億円の市場に成長なる。
この数値は携帯電話単体および通信料金を含んでおらず、純粋なシステム構築需要だと捉えれば、相当大きな市場である。
立ち上がるSFAやCRM需要
来年度(03年12月期)売り上げ10億円(前年度比25%増)を目指す携帯電話向けコンテンツ変換ミドルウェア開発のフレックス・ファームは、同分野で約50%のシェアを誇る。
同ミドルウェアとは、パソコンのウェブ向けに開発したコンテンツを、J-フォン、NTTドコモ、ez系の3つの通信事業者の端末に適した形態に変換するソフトウェア。
同社では、3事業者の歴代のブラウザフォン計180台を通話可能な状態で保有し、すべての機種を検証できる。また、新機種が出るごとに、変換ミドルウェアがコンテンツを正確に自動変換するかを検証する。
稲垣社長は、「携帯電話を使った業務システムの需要は、立ち上がりが鈍かった。だが、ここへきて営業支援システム(SFA)を中心に引き合いが増えた。あと3年間は、コンテンツ変換ミドルウェアで収益を出せる」と自信を示す。
これまでは、一般消費者向けのパソコン用ウェブサイトのコンテンツを携帯電話向けに変換する需要が中心だった。今後の新しい収益の柱として、企業向けのSFAや顧客情報管理(CRM)に携帯電話を使う案件に注目している。
すでに今年5月末にはSFA・CRM専門ベンダーのセールスフォース・ドットコムと提携し、同社の統合型CRM向けに同ミドルウェアの供給を始めた。
PDAやモバイルも取り込む
同じ分野で、コンテンツ変換ミドルウェアを開発するエブリパス・ジャパンの大谷社長は、「携帯電話向け売り上げのうち、SFAやCRMなど業務用途が半分以上を占めるようになった。昨年までは一般消費者向けのコンテンツ変換需要が過半数を占めていたが、企業向けの需要が底上げしたことで、全体の売り上げ数値も順調に伸びている」と話す。
フレックス・ファームが、すべての携帯電話に重点を置くのに対し、エブリパス・ジャパンは、携帯電話やPDA(携帯情報端末)、ノートパソコン、テレビなど幅広く対応する。
また、トランザクションを重視するのも特徴のひとつ。
例えば、パソコンの大型・高精細の画面を使えば、1つの画面ですべての入力項目を表示できたとする。しかし、携帯電話の画面は小さいため、同じ入力項目を携帯電話で処理しようとすれば、何ページにも分けて表示・入力する必要があり、トランザクションの回数が増える。
同社のミドルウェアは、トランザクションが複数に分かれても、基幹システムに対して、パソコン向けシステムと同様、1回のトランザクションとして入出力する機能をもつ。基幹系システムとの連携、トランザクション管理を重視する。
単純な比較はできないが、フレックス・ファームのシステムがサーバー1CPUあたり198万円の単価であるのに対し、エブリパス・ジャパンでは、案件あたり3000万-1億円の商談が中心。
エブリパス・ジャパンの大谷社長は、「今年度(02年12月期)に入って新規受注した案件のうち、携帯電話向けが6割、PDAが3.5割、ノートパソコンが0.5割と携帯電話向けの売り上げが過半数を占めるようになった。今年度の納入見込み社数は約40社で、来年度(03年12月期)は100社への納入を目指す」と強気だ。
セキュリティ分野も狙い目
業務用途で使うには、セキュリティも見逃せない。アイディーエスは、携帯電話向けの「ワンタイムパスワード」システムを主軸としたセキュリティシステムの開発に力を入れる。
01年12月には、ソニーマーケティングの2100人分の営業支援システムに、同社のワンタイムパスワードを納入した。また、サイボウズの携帯電話向けグループウェアやIBMの携帯電話ソリューションにOEM供給する。
アイディーエスの熊谷社長は、「最初は、企業のECサイトなど、一般消費者向けのセキュリティとして売り込んだが、計画どおりに売れなかった。なぜなら、携帯電話を使った一般消費者向けサービスで高度なセキュリティ需要は少ないからだ。本当にセキュリティの需要があるのは、企業の業務用途に携帯電話を使うケース。端的に言えば、営業先での在庫確認、納期情報の取得に尽きる」と、SFAを切り口として、携帯電話セキュリティのデファクト(事実上の業界標準)を狙う。
ワンタイムパスワードとは、(1)サーバーに、ID、パスワード、携帯電話のメールアドレスの3つを事前に登録する、(2)サーバー接続時にIDとパスワードを入力すると、あらかじめ登録してあるメールアドレスに1回分の接続に限り有効なURLを送付する、(3)このURLをクリックすると、目的のサーバーに接続できる仕組みだ。
これを使えば、(1)IDとパスワードを盗まれてもサーバーに接続できない、(2)携帯電話を落としてもパスワードが分からないため接続できない、(3)ワンタイムURLが盗まれても、1回接続したら無効になるのでセキュリティを保つてる――という。
開発ベンダーがこぞって携帯電話向けシステムの開発に力を入れることで、業務に耐えうるソフトの不足問題が、急速に解消されつつある。営業支援システムやCRMなど、投資対効果が明確なソリューション体系の整備が進むことで、企業側が投資しやすい環境になりつつある。
通信事業者の姿勢も変わりつつある。「J-フォンなどは、開発支援プログラムを拡充させ、ベンダー支援を鮮明に打ち出す」(システムベンダー幹部)と、通信事業者とシステムベンダーとの連携も進む。
携帯電話の業務端末化が進んでいる。携帯端末向けコンテンツ変換ソフト開発のエブリパス・ジャパンの大谷俊哉社長は、「今年度(02年12月期)に入って新規受注した案件のうち、携帯電話が6割、PDA(携帯情報端末)が3.5割、ノートパソコンが0.5割と携帯電話向けの売り上げが好調。携帯電話向け販売のうち、今年から企業の業務用途が過半数を超える見通し」と、これまで多かった一般消費者向けのコンテンツ変換から、業務端末への移行が急速に進んだと話す。同分野でのライバル企業であるフレックス・ファームの稲垣昭治社長は、「営業支援(SFA)系の需要が拡大しており、ここ3年間は、携帯電話向け変換ソフト事業で収益を出せる」と手応えを感じる。携帯電話向けセキュリティシステム開発のアイディーエスの熊谷卓也社長は、「強固なセキュリティが必要なのは、携帯電話が本格的な業務用途で使われ始めたとき。今が、まさに高度成長期に入るタイミング」と強気だ。携帯電話を端末とした業務システム需要の動向を探った。(安藤章司)
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