その他
「ICカードフェア2002」開催 自治体に「ICカード」導入の機運
2002/10/07 15:00
週刊BCN 2002年10月07日vol.960掲載
ICカードを使った行政サービスの本格普及を目前にして、財団法人ニューメディア開発協会が主催する展示会「ICカードフェア2002」が先月26、27日に、東京都千代田区の科学技術館で開催された。経済産業省が昨年から全国21地域で進めてきたICカードを使った社会実験「IT装備都市研究事業」の成果もまとまり、展示会には行政サービスを中心に実用化段階に入りつつあるアプリケーションがズラリと並んだ。総務省が来年8月のサービス開始をめざしている「住民基本台帳カード(住基カード)」の発行までもう1年をきった。IT社会のなかでICカードをどのように活用していくか。セキュリティ対策も含めて議論が活発化しそうだ。(千葉利宏●取材/文)
住民サービス向上に貢献するか
■全国21地域で70万枚以上配布高まる自治体の意識
東京・北の丸公園の科学技術館は、スーツ姿のビジネスマンたちで賑わっていた。展示ブースのあちらこちらでデモンストレーションに見入る来場者の姿が見られ、同時開催されたセミナーはどれも大盛況。会場全体から、ICカードへの期待感がひしひしと伝わってきた。
磁気カードに代わる新しいカード型メディアとして注目され続けてきたICカードだが、本格普及に向けた起爆剤がなかなか見つからなかった。ようやく昨年11月にJR東日本がICカード「Suica(スイカ)」のサービスをスタートして、その便利さが一般国民も認知。行政サービスでも、国土交通省が昨年11月から開始した公共事業の電子入札で、本人確認を行う認証システムにICカードを採用して、本格的な利用が始まっている。
経済産業省が昨年度に実施したIT装備都市研究事業では、全国21の地域で今年1-2月に希望する住民にICカードが合計で70万枚以上配布された。ちょうど100種類の行政サービスの実験が実施され、地方自治体にも「ICカードは住民サービスの入り口」との意識が高まってきた。
ICカードが普及するかどうかのカギは、まさにアプリケーションと、利用しやすさにかかっている。「Suica」の利用者数がサービス開始わずか半年で400万人を突破したことが、それを雄弁に物語っている。
ICカードや住基カードなどの行政系ICカードを、地方自治体はどのように活用し、行政サービスの向上に役立てようとしているのか。
ICカードフェアで同時開催されたパネルディスカッション「ITを活用した21世紀型自治体経営について」に出席した萩原誠司・岡山市長(岡山県)、土屋侯保・大和市長(神奈川県)、福谷剛蔵・羽曳野市長(大阪府)が、それぞれに興味深い考え方を示した。
岡山市では、IT装備都市研究事業で医療・介護分野に特化して実験を行った。
「岡山市は東京23区より広い面積に63万人が暮らしているが、高齢化が急速に進んできた。IT化によって福祉を守っていこう!多くの福祉を盛り込んでいこう!それが基本的な考え方だ」と、萩原市長は言い切る。
実験では、ICカードに病院診察券や介護タクシーの本人確認・決済などの機能を載せた。また、インターネットで市民の声を幅広く募集するなど直接民主主義的なIT活用も進めており、ICカードは本人確認のツールと位置づけている。
「ICカードを市民に活用してもらうためには、クレジットの金融系機能を搭載できるかがポイントだ」――そんな萩原市長のアイデアは今回の実験では実現できなかったが、行政系ICカードの活用を促進するカギは、やはりマルチアプリケーションだと考えているようだ。
■1枚のカードでなんでもできるやはり課題はセキュリティ
「ICカードの普及率は、全国一」――そう胸を張るのは、大和市の土屋市長。人口21万8000人、世帯数8万8000世帯に対して、IT装備都市研究事業によって8万枚以上のICカードを配布。最終的には9万枚を配布することにしており、普及率は40%を超える。市長が言うように普及率は確かに全国一だろう。
「大和市民カード」と命名されたICカードには、住民票発行、印鑑登録証明書発行などの機能のほかに、地域通貨「LOVES」の機能など民間系サービスも搭載している。
羽曳野市(人口約12万人)では、住民票や印鑑証明などの証明書類を、金融機関のATMのような専用機械で発行できる証明書自動交付機を90年から導入するなど、積極的に自動化に取り組んできた。自動交付機で発行される住民票の枚数は年間6万5000枚に達しており、印鑑証明は6割近く、外国人登録証は3割、納税証明も12%が、自動交付機で利用されている。
自動交付機などを利用するために、羽曳野市では住民票発行のための「はびきのシティカード」や、印鑑証明書カード、図書館カードなども発行しており、「これらを1枚のICカードで管理できるようにしたい」というのが、福谷市長の狙いである。3市長ともに、ICカードにマルチアプリケーションを搭載することで利便性が大幅に向上するという見方では一致する。
パネルディスカッションに同席した経済産業省商務情報政策局情報プロジェクト室の牧内勝哉室長は、いきなり手持ちのキャッシュカードやらクレジットカードなどを10枚以上取り出して「これらのカードをまとめることができるのがICカード」と、そのメリットを視覚に訴えた。
もちろん1枚のカードに複数のアプリケーションを載せれば、ICカードそのもののセキュリティだけでなく、アプリケーション間でのセキュリティも重要になる。いろいろなアプリケーションを載せる段階で、本人が知らないアプリケーションがこっそり載せられる懸念もあるだろう。「ICカードに載せるアプリケーションに対して、所有者本人の選択権とコントロール権を確保することが必要だ」(萩原岡山市長)。
「来年8月には、大和市でも住基カードを発行する予定だが、現在の大和市民カードと住基カード、市民がどちらかを選択できるようにしたい」――そんなアイデアを披露したのは、土屋大和市長だ。
住民票コードが格納された住基カードは、住基ネットのような強制参加ではなく、希望する住民だけに発行されるもの。確かに市民カードとの共存も可能だろう。2つのカードを管理する手間はあるものの、市民に選択する自由を与えることができる。カード間で競争原理が働き、利便性やセキュリティ向上も期待できる。
最後に、市長からこんな指摘があった。「霞ヶ関の省庁間の縄張り争いをなくしてもらいたい」。確かに1枚のICカード上でマルチアプリケーション環境を実現するには、省庁間の協調が最も重要であるかもしれない。
ICカードを使った行政サービスの本格普及を目前にして、財団法人ニューメディア開発協会が主催する展示会「ICカードフェア2002」が先月26、27日に、東京都千代田区の科学技術館で開催された。経済産業省が昨年から全国21地域で進めてきたICカードを使った社会実験「IT装備都市研究事業」の成果もまとまり、展示会には行政サービスを中心に実用化段階に入りつつあるアプリケーションがズラリと並んだ。総務省が来年8月のサービス開始をめざしている「住民基本台帳カード(住基カード)」の発行までもう1年をきった。IT社会のなかでICカードをどのように活用していくか。セキュリティ対策も含めて議論が活発化しそうだ。(千葉利宏●取材/文)
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