その他
ソフトバンク、“発表経営”と決別?
2002/12/02 21:12
週刊BCN 2002年12月02日vol.968掲載
ソフトバンクの「ヤフー!BB」事業が快進撃を続けている。最近では1日の契約件数が2万件を超える場合もあり、損益分岐点の会員200万人はあと数か月で実現しそうだ。銀行の接近で、課題だった資金調達にも道が開けてきた。ビー・ビー・テクノロジーがソフトバンク・コマースを吸収し、事業運営上の意思決定が統一される。この結果、量販店やディーラーへの販売支援が強まれば、会員増加のペースはさらに速まる。2003年以降、大手ISP連合がIP電話で追撃を開始するが、ヤフー!BBのアドバンテージは大きそうだ。(坂口正憲●取材/文)
内部固め進むヤフー!BB
新生BBT発足でチャネル支援強まる
■進む内部体制の強化 課題の資金調達にも光明?
「今なら加入後2か月間、料金は無料。このADSLモデムも無料で差し上げます」――。首都圏にいる読者の方なら、お揃いの白いユニフォームに身を包み、声を張り上げるヤフー!BBの販売促進スタッフを目にしたことがあるだろう。2000人を上回るスタッフが駅や繁華街に繰り出し、ADSLサービス「ヤフー!BB」やIP電話サービス「BBフォン」を道行く人に売り込む。
「パラソル隊」と呼ぶこの販促部隊が1日に獲得する契約件数は、多い時で2万件を超える。いくらADSL加入者がうなぎ登りとはいえ、全国で月間純増数は42万人(10月実績)。1日2万件という契約件数は半端な数字ではない。
業界内では、「ADSL加入者市場におけるヤフー!BBのシェアはすでに50%を超えた」と見られている。ソフトバンクは12月以降、余勢を駆って「パラソル隊」の全国展開を始める構え。同社はこのままブロードバンド市場を押さえることができるのか。
11月13日、ヤフー!BB戦略発表会の席上で孫正義・ソフトバンク社長は、「ヤフー!BB事業の損益分岐点は会員200万人。03年度には単月黒字化する」と自信を見せた。その2日後には、ヤフー!BB事業のインフラ整備を担うビー・ビー・テクノロジー(BBT)がソフトバンク・コマースなど子会社4社を吸収する組織再編を発表。ヤフー!BB事業への経営資源集中を強く印象づけた。
業界内では、「またぞろ(発表する事業構想に実態がともなわない)『発表経営』ではないか」(家電量販店首脳)と見る向きがある。だが今回は、内部固めは思いのほか進んでいるようだ。
ソフトバンクが01年夏、ヤフー!BB事業を開始した当初は、システム障害や顧客対応のまずさから社会的に痛烈な非難を浴びた。ところが現在、契約件数が急激に伸びている割に大きなトラブルは聞こえてこない。
ソフトバンクのある内部関係者がその理由をこう話す。「孫社長の信任を受けたベンチャー系システム会社が、BBTの中でネットワーク構築から業務システム開発を一手に仕切っている。結局、自社スタッフの技量を見切り、技術力のある外部企業へ全面的に託したのが良かった」
そのシステム会社からは、1人の幹部がBBT役員として登用されており、技術面での信頼は厚い。第1種通信事業者として最低限の技術体制は整ってきたようだ。
懸念される資金面はどうか。 先にソフトバンクが発表した02年度(03年3月期)の9月中間決算は558億円の連結最終赤字。手持ち株売却で純有利子負債を前年同期末の3393億円から1936億円にまで圧縮したが、多額の資金を要するインフラ事業の継続は厳しいとの見方がある。
会員数が損益分岐点の200万人を突破したとしても、当面は営業キャッシュフローだけで新規の販促費用や追加設備費用をまかなえない。
03年以降は、大手ISPが一斉にIP電話サービスに踏み切る。ヤフー!BBの好調さを支えるBBフォン(10月末で会員数77万人)は差別化要素にならなくなる。ADSL市場の競争は一段と激しくなり、莫大な資金が必要になる(現在でもヤフー!BBは1人の会員獲得に2万円の販促費用がかかる)。
ところが、別の内部関係者は意外にも余裕の表情だ。「一時は完全に我々と距離を置いていた銀行が、ヤフー!BBの会員が急速に伸び始めたのを見て、向こうからすり寄ってきている」。
孫社長は戦略発表会見で、「設備投資や拡販向けの資金調達のメドは立った」と自信を見せていた。また、短期的な傾向ではあるが株価も回復しつつある。中間決算発表直後には800円台まで下がっていた株価は、その後上がり続け、11月25日はストップ高の1328円まで持ち直した。一時ほど資金調達に向けた環境は悪くない。
■もたつくISP連合、一気呵成に出るソフトバンク
BBTへの経営資源集中で営業体制が整う面も大きい。 18社2200店舗の提携量販店でヤフー!BBの申し込みが急増しているとの報道もあるが、ソフトバンク・コマース(SBC)関係者は、「最近は量販店の独自販促より、我々が仕掛けるパラソル隊の方がはるかに多くの契約を取っている」と指摘する。逆に言えば、まだまだチャネルの潜在能力が発揮されていない。
従来、ヤフー!BB事業全体の主導権をもつBBTと、営業を専門に担うSBCの意思統一がうまくいかず、「あらゆる面で判断が遅く、融通が利かない」(関東圏の家電量販店)と、量販店の評価は決して高くなかった。だが、今回の組織再編で、実態としてBBTとSBCの一体化が進めば、機動的なチャネル支援も可能になる。
パラソル隊の成功に刺激を受け、販売意欲が高まっている量販店が本気で動き出せば、会員増加のペースがさらに速まる。
それは法人市場にもあてはまる。BBTとSBC、そして法人向けに光ファイバー通信サービスを手掛けるアイ・ピー・レボルーションの一体化を機に、ソフトバンクは本格的に法人需要の獲得に乗り出す。従来は、「法人顧客向けにヤフー!BBを提案しようにも、インセンティブ体系やサポート体制が決まっておらず、動けなかった」(東京都内のシステム販社)と手つかずの市場だ。
法人市場に向けては、SBCがもつ1700社にも及ぶディーラー網の販売力は決して小さくはない。「ソフトバンクはヤフー!BBとサーバーホスティングを組み合わせた法人向けサービスの開始に備えて、大手ITベンダーから大型データセンターを買い取った」との情報もあり、体制強化が進んでいるようだ。
気がつけば、ソフトバンクはADSLサービスからISP、IP電話、そして新たに始めるCATV(放送事業)、法人向け通信サービスと、ブロードバンドで一気通貫のサービスメニューを揃える。それぞれのレイヤーで相乗効果が働けば、IP通信キャリアとして一歩も二歩も抜きん出る可能性がある。
ソフトバンクの「ヤフー!BB」事業が快進撃を続けている。最近では1日の契約件数が2万件を超える場合もあり、損益分岐点の会員200万人はあと数か月で実現しそうだ。銀行の接近で、課題だった資金調達にも道が開けてきた。ビー・ビー・テクノロジーがソフトバンク・コマースを吸収し、事業運営上の意思決定が統一される。この結果、量販店やディーラーへの販売支援が強まれば、会員増加のペースはさらに速まる。2003年以降、大手ISP連合がIP電話で追撃を開始するが、ヤフー!BBのアドバンテージは大きそうだ。(坂口正憲●取材/文)
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