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<新春特別レポート(上)>IT活用が進む米国の自治体 サイトを通じて住民サービスを提供
2003/01/06 15:00
週刊BCN 2003年01月06日vol.972掲載
米国のインターネット利用者数は1億1900万人。そのうち4分の1ほどが既に高速ブロードバンド加入者である。2002年末のギフト商戦の売り上げのうち、4分の1がオンラインショッピングによるものとされるなど、インターネットの一般化はさらに進みつつある。しかも最近は、これまで懸念されていた低所得者層への普及も急速に進んでおり、行政もインターネットを使った住民サービスの提供に力を入れている。米国の自治体はITを利用してどのような住民サービスを行っているのか。(田中秀憲●取材/文)
■米連邦政府がサイト利用を推進
米国では、まず連邦政府が、「広報や通達事項などはオンラインで」という姿勢を明確にしている。
政府は毎日の広報や議会での決定事項の伝達のみならず、医療(healthfinder.gov)/社会保障(ssa. gov)/環境対策(spa.gov)/住宅対策(hud.gov)/食品(foodsafety.gov)/エネルギー(fueeconomy.gov)/危機管理(fema.gov)など多くの情報を、傘下の多数のサイトで公開している。
さらに無数の関連サイトが各種サービスの情報をそれぞれの特色を生かして発信している。例えば国務省(state.gov)では、省内でのキャリア構築のための各種プログラムや過去の国家問題に対するQ&A、自己の業務の評価方法の紹介や、転職の案内ページまで用意している。
職員の人生設計までもサポートしていると共に、海外勤務の職員の家族が職員とコンタクトできる連絡用のサイトまで設けており、一般へのサービスと共に職員へのサービスにも留意している。
しかし現在では米国の行政のサイトは大きな岐路に立たされている。01年9月11日の同時多発テロ事件以後は、これまでのコスト削減やサービス向上に加え、新たに「セキュリティ」が重要項目として浮上してきた。
政府の機密事項の保護のみならず、米国民のセキュリティ保護に行政がどう関わるかも重要な問題となっており、問題は多岐に渡っている。
また、テロ事件後にはアメリカ連邦捜査局(FBI)が大手インターネットプロバイダ(ISP)であるAOLとアースリンク(Earthlink)に情報提供分野で協力を要請するなど、ネットを介した行政と民間の相互協力も一層進みつつある。
■ワシントン州の合弁事業「E-Gov」
連邦政府と各自治体では、規模も目的も違う場合もあるが、住民や職員、取引企業などのユーザーと、いかに効率的にやりとりをするかという点は共通である。
各自治体としての取り組みは、連邦政府と違い、各地方の特色を出しやすく、それぞれ独自の対応が見られる。しかしながら基本は、(1)役所内の経理処理、記録文書などの電子化、(2)各種文書類の一般へのオンラインでの開放、(3)住民の各種事務手続きのIT化、(4)調達業務や各種入札などのeコマース化――という4つの柱からなっている。
これはどこも変わらない。また多くはそのサイトのなかに専用の調達部門を設置し、コスト削減と作業の迅速化と簡略化を見込んでいる。
米西海岸でカナダと国境を接するワシントン州は当初よりこれらの全てを視野に入れ、積極的にIT化を推進している。
州都シアトルがあるキング群は近隣の10数都市との間で「E-Gov」という合弁事業を始めている。「E-Gov」では、ユーザーが当該のサイトにアクセスするだけで全ての提携都市の市民サービスを受けられる。
例えば、ある企業が複数の都市での営業許可を取得したいとき、これまでは直接各都市の役所まで出向き、それぞれの申請用紙に記入する必要があった。しかし「E-Gov」では、サイトにアクセスして申請用紙に1度記入するだけで、提携都市全ての許可証を受け取ることが可能だ。
また、ワシントン州の公式サイトでは、各証明書の発行や届出、税金申告、保険手続、犯罪情報などを別途提供し、州レベルでの独自のオンラインサービスとしてサイトを運営し、相互補完を図っている。
ユタ州では、提携する民間のサイト「e-Utah」で各種の有料サービスを提供している。このようにいくつかの自治体は、そのサイト内に有料サービスをもつ。車輌登録やナンバープレートの発行などのケースが多いが、これら有料サービスを提供することで、将来のサイトでの収入を期待することができる。
もちろん複雑な事務手続きの簡略化により、人的コストの削減が見込めるのはいうまでもない。行政サービスではコストを度外視するケースも多いが、この有料化の傾向は限定的ではあれ、今後は徐々に増加していくと見られる。
教育分野で特徴的なのは中西部のイリノイ州だ。ここではサイト内で「仮想高校」を提唱しており、インターネットを経由して、州内のあらゆる場所で教育機会の実現を図っている。これらを含めた多方面での努力の結果、98年の時点では全米で49番目にしかIT化が進んでいなかったと酷評されていたイリノイ州は、00年には上位4番目に位置することになった。
■州によって取り組みに違いも
一方、住民も少なく予算も潤沢ではない地域では、人件費削減も含め最低限のIT化で済ませているケースもある。インディアナ州では、税金の申告や自動車の登録、宝くじ当選番号のチェックなど、住民の要求に即した形で最低限のサービスから始めている。
サウスダコタ州では、釣りの許可証や税の申告などのごく平均的な手続きのみで、なんら特別なサービスは提供していない。しかしサウスダコタ州ではサイトの内に州職員専用のリンクを設置し、一部イントラネットとも関連づけられたサーバーの構築を可能とするなど、可能な範囲で最善の策を講じている。
このように自州の規模と実情にあわせた、それぞれ独自の対応が、米国の各自治体のIT化の特色であり、他との横並びを気にしない米国気質は、各自治体の対応を見る限り良い結果をもたらしている。
米国のインターネット利用者数は1億1900万人。そのうち4分の1ほどが既に高速ブロードバンド加入者である。2002年末のギフト商戦の売り上げのうち、4分の1がオンラインショッピングによるものとされるなど、インターネットの一般化はさらに進みつつある。しかも最近は、これまで懸念されていた低所得者層への普及も急速に進んでおり、行政もインターネットを使った住民サービスの提供に力を入れている。米国の自治体はITを利用してどのような住民サービスを行っているのか。(田中秀憲●取材/文)
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