その他
自治体の情報システムは大丈夫? IT化の取り組みで格差と温度差
2003/01/27 15:00
週刊BCN 2003年01月27日vol.975掲載
電子政府の構築には、全国各自治体のIT化が基盤整備として重要だ。しかし当の自治体では、先進的なところとIT化が遅れている自治体のギャップが大きくなってきているのも事実。電子自治体構築の過程で、既存の情報システムと新たな電子申請・届出システムなどのフロントシステムをどう連係させるかという点で、自治体は大きな壁に突き当たるのは確実だ。(川井直樹(ジャーナリスト)●取材/文)
行政手続きのオンライン化を前に
■申請・手続きがオンラインで、既存システムとの業務連係が不可欠
昨年12月、行政手続オンライン化関係3法が国会で可決して、公布された。この法整備により2003年度までに、国民と国・地方自治体との間の申請・届出手続き約2万1000と、行政機関同士の行政手続き約3万1000の合計約5万2000が、全てオンライン化できることになる。
政府の「e-Japan重点計画」が進められるなかで、自治体は独自のIT化推進計画をまとめ、行政手続のオンライン化や庁内システムの拡充を図っている。
しかし、ここで大きな問題となってきたのが、メインフレームやオフコンで構築した既存の基幹系システムと、電子申請といったこれから導入するシステムをどう連係させるかという点。オープンシステム系に移行したいが、これまで構築してきた膨大なデータを移行させるには、時間も費用もかかるのがネックになっている。
60年代から始まった自治体業務のコンピュータ化は、地域の電子計算センターに委託し、バッチ処理を行う形が普通だった。しかし、コンピュータの導入が容易になったことで、70年代以降、続々と自治体がメインフレームやオフコンを所有するようになった。とはいえ、それぞれの役所では、各業務に対応した専用端末が備わり、それぞれの業務は全く連係せずに済んできた。
だが、ここにきて、電子自治体化により電子申請・届出といった窓口業務を電子的に処理しなければならなくなり、既存システムとの業務連係が不可欠になってきた。
当面は、電子的に受け付けた申請・届出を職員が手作業で入力し直すことで済むだろう。しかし、IT化の目的である自治体業務の効率化やワンストップサービス実現のために、いずれ基幹系システムとフロントシステムを連係させなければならなくなる。そのためにも、オープンシステム化を図ることが必要だ。
■自治体の要員不足は深刻 “政府頼み”の意識が蔓延
こうした問題は、「システムをもってしまった」ことが原因。特に住民情報を格納している基幹系システムに手をつけるのは、自治体としてはできればやりたくない作業。
自治体向けソリューションを提供しているシステムインテグレータの首脳によれば、多くの自治体がオープン化に踏み切れないのは、「職員の危機意識の欠如がある。電子政府構築は否応なしに進んでいくのに、難しいことは避けたい、トラブルの火種はつくりたくないと考えている」ということにも原因がある。
コンサルタント会社のトップも、「いずれ政府が対策を出してくれるだろう、という程度にしか考えていない」と、半ば呆然として語る。
事実、ある自治体の担当者は、「IT化は2番手、3番手でいい。自治体の財政状況が厳しい中で先進的な取り組みを始めればコストがかかるし、技術的にもトラブルの原因になりかねない」と、あくまでもほかの自治体の成功を見てから判断しても遅くない、という立場をとる。
遅れれば遅れたで、政策する側の政府の責任であり、自治体が責任を被る問題ではないという立場がありありと見える。
また、ある県の情報システム担当者は、IT化のロードマップをつくり、保有するメインフレームからオープンシステムへの移行を実行計画に盛り込みながらも、「これだけは早くても5年先、恐らく10年以上先の話」と切り分けている。
市町村レベルになると、さらに問題解決は遠い未来の話のように思えてくる。東京都郊外にある市の情報システム部門の担当者は、「今、情報システム要員は私を含めて3人。これで、新しいアプリケーションを次々に導入されても対応できない。市がシステムエンジニア(SE)を採用するとか、情報システムをアウトソーシングするなどの対策を打たなければならない」と、ITスキルをもった自治体職員の不足を訴える。
総務省が昨年10月にまとめた「地方公共団体における行政情報化の推進状況調査」によれば、市町村のIT担当職員の数は02年度で8867人。1市町村あたり2人強しかいない計算になる。地元の電子計算センターなどの派遣職員を入れても1万1592人で、1市町村あたり4人以下という現状。町村レベルでは、企画課や総務課が兼任している自治体はざらにある。
要員不足を解決し、オープン化を図るのに最も手っ取り早いのが基幹系システムのアウトソーシング。しかし、現有システムを稼動させている自治体にとっては、住民の個人情報を満載したデータを、外部に委託するのは抵抗がある。
全国各地で進められている市町村合併でも、情報システムの綱引きが裏では繰り広げられている。合併こそ、情報システムを一新するチャンスなのだが。
政府は「e-Japan重点計画」のなかで、情報システム関係業務や新技術の活用を効率的・効果的に進めるために、情報システムのアウトソーシングを積極的に進める考えだ。各府省で03年度までに計画的・重点的にアウトソーシングを実施することを決めている。総務省は、自治体の情報システムのアウトソーシングや広域化を推進している。
それでも問題は、庁内にある既存システムを新技術に対応させる、あるいはIDC(インターネット・データセンター)など広域化に対応したデータセンターに移行させることに対し極めて消極的だ。
IT化で遅れた2番手、3番手グループを走る自治体の情報システム担当者にとっては、「電子自治体構築のための政府施策は、自治体の実態を反映していない。それに加えて方針が二転三転している」というのが本音だろう。しかし、この言葉こそ、システムインテグレータの首脳が指摘する、「危機意識の欠如」ということにほかならない。
電子政府の構築には、全国各自治体のIT化が基盤整備として重要だ。しかし当の自治体では、先進的なところとIT化が遅れている自治体のギャップが大きくなってきているのも事実。電子自治体構築の過程で、既存の情報システムと新たな電子申請・届出システムなどのフロントシステムをどう連係させるかという点で、自治体は大きな壁に突き当たるのは確実だ。(川井直樹(ジャーナリスト)●取材/文)
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