その他
システム案件は地元に来るか 新規需要に期待寄せる地場の企業
2003/02/10 21:12
週刊BCN 2003年02月10日vol.977掲載
大手ベンダーからみれば、IT先進県の岐阜県ほど特殊なケースはないという。まず、県が基幹系業務システムを2001年にNTTコミュニケーションズにアウトソーシングしたこと。加えて、大半の市町村の基幹系システムは、過去から財団法人の岐阜県市町村行政情報センターが担当してきた。岐阜県内のシステムインテグレータはそうした環境のなかで、自治体のIT化をターゲットにしたビジネスの拡大を模索している。各社に共通するのは、独自性の確立によるビジネスチャンスの獲得だ。自治体のIT化を巡り、地元システムインテグレータはどう動こうとしているのか。(川井直樹(ジャーナリスト)●取材/文)
岐阜県に見る自治体IT化ビジネス事情
■自治体情報担当の人材不足が問題 -十六コンピュータサービス 足立育雄 社長-
岐阜県と愛知県を地盤とする十六銀行。その情報システム部門を担当するのが、十六コンピュータサービス(JCS)。足立育雄社長は、岐阜県が基幹系システムをアウトソーシングしたことで、「自治体情報化のビジネスの80%は、県外の企業に流れるのではないか」と危惧する。
e-Japan計画に乗って、大手のベンダーが公共部門の事業拡大を目指しており、地元企業のビジネスチャンスが奪われるケースも少なくない。
岐阜県のシステムアウトソーシングも、まさにその究極とも言えるが、逆に県では地元企業の活用も要請している。「これまでの経験や実績から見れば、大手ベンダーが有利。地元には、市町村の情報システムでもノウハウが少ない」という。
さらに、それを助長するのが岐阜県の特殊性の1つから、「市町村の情報システム担当の人材不足が深刻」とも漏らす。そのため、セミナー開催やコンサルティングにも力を入れる。
JCSはこのほど、岐阜県からホームページを音声で読み上げる「高齢者ブラウザ」の受注に成功した。日本アイ・ビー・エム(日本IBM)製の「らくらくウェブ散策」を使ったこのシステム。岐阜県が、情報化の一環として重視している「情報格差の解消」にマッチした。県に採用されたことで、各市町村への足がかりとしたいが、市町村の反応は鈍い。それも「人材の不足」が原因だろう。
親会社の十六銀行は県内36自治体の指定金融機関になっており、「金融系や決済にはノウハウがある。マルチペイメントネットワークなどでは、銀行系の当社のノウハウを生かすことができる」と、独自分野の確立で自治体ビジネスの拡大を目指す。
■下請けにとどまらず得意分野を伸ばす -中部コンピューター 辻 博文 社長-
NTTコミュニケーションズへのアウトソーシングにより、地元システムインテグレータの出番が少なくなる懸念は払拭できない。これに対し、中部コンピューターの辻博文社長は、「CALSについてはNECが獲得し、当社も参画する」と、分野によってはビジネスチャンスが広がってくると見る。
「大手のコンピュータベンダーがアウトソーシング先になると、ライバル企業は入り込む余地がなくなるが、NTTコミュニケーションズということで公平に仕事が発生することに期待が持てる」と語る。
CALSについては、市町村レベルで活用するにはシステムが複雑過ぎることから、「中部コンピューターが、市町村版を開発するなど、事業を開拓することができる。さらに、それが他県での需要につながることもあるだろう」。
しかしその一方で、これまで岐阜県のシステム運営について、「ピーク時で20人以上を派遣していた」という中部コンピューターにとって、基幹系システムのアウトソーシングによる影響は大きい。
「要員を派遣することで築いたノウハウを売り込むことも重要だが、CALSのように得意な分野をつくり、岐阜県にとどまらずニーズに応えていく体制を築く」ことをメーンに考えていくという。
その点で岐阜県がIT先進県と認知され、「ソフトピアジャパン」(大垣市)のようなソフト産業の集積地があることは、「それまでなかった情報交換が緊密になり、県内だけでなく、外に向かっても情報発信ができるようになった」というメリットはある。
地元企業を生かす、という方針に沿ったビジネスモデルだけでは生き残れない。辻社長は、「下請けにとどまらない事業プランがカギになる」と強調する。
■後発企業も公共分野に参入のチャンス -タック 高橋繁樹 取締役営業部長-
「自治体ビジネスでは後発」というタックは、米インテルに対しMPUパッケージを供給するイビデンの子会社。親会社が世界的な企業であるだけに、「事業基盤を岐阜県内にだけ求めるわけではない」と、自治体IT化での需要獲得に積極的だ。
後発ではあるが、10年ほど前には大垣市向けに“手作り”の施設予約・管理システムを納入しており、その後、パッケージとして岐阜県以外にも10件を納入している。さらに人間ドックシステムの「TAK総合検診システム」を製品化しており、公立、私立病院約160か所で稼動させている。
「市町村合併が進めば管理する施設も増え、新しい施設予約システムが必要になる」とし、すでに県内市町村にも採用の動きが出ている。
「システムのアウトソーシングや市町村合併など、大きな変化の時代。今までの横一列では認められない」と、特化された分野、得意な領域を持たなければならないと断言する。
他の自治体に比べ、岐阜県は特殊なケース。しかし、IT産業振興のようにマイナスの要素ばかりではない。
「弊害もないわけではないが、新しい取り組みに参画できるというプラスの要素もある。その場を生かすかどうかは、企業の経営方針の問題だ」。こう言い切れる背景には、後発ながら自治体ビジネスを拡大していくという意気込みがうかがえる。
タックの本社は、大垣市のソフトピアジャパンにある。ソフトピアジャパンには県内のシステムインテグレータも事業拠点を置き、大手ベンダー、海外大手も進出。さらに、ITベンチャーも立地している。
「そこで集積された力は、県内だけで生かすわけではない」と高橋繁樹取締役営業部長はエリア拡大も視野に入れる。
大手ベンダーからみれば、IT先進県の岐阜県ほど特殊なケースはないという。まず、県が基幹系業務システムを2001年にNTTコミュニケーションズにアウトソーシングしたこと。加えて、大半の市町村の基幹系システムは、過去から財団法人の岐阜県市町村行政情報センターが担当してきた。岐阜県内のシステムインテグレータはそうした環境のなかで、自治体のIT化をターゲットにしたビジネスの拡大を模索している。各社に共通するのは、独自性の確立によるビジネスチャンスの獲得だ。自治体のIT化を巡り、地元システムインテグレータはどう動こうとしているのか。(川井直樹(ジャーナリスト)●取材/文)
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