その他
変化するエンタープライズネットワーク 付加価値競争の時代へ
2003/03/03 15:00
週刊BCN 2003年03月03日vol.980掲載
IP-VPNや広域イーサネットに関する動きに、今年は大きな変化が起こりそうだ。これまでは、広帯域性や低コストで導入できる点、高速性、低料金などが注目を集めていた企業向けエンタープライズネットワークが、今年は付加価値による差別化へと移行してくると見られるからだ。VoIPやCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)といった新たなサービスが注目されると同時に、マネジメントサービスやSLA(サービス・レベル・アグリーメント)と呼ばれる運用管理機能、信頼性保証などにも注目が集まっているのもその証だ。だが、言い換えれば、キャリア自身が低料金競争からの脱皮を図ろうとしていることの裏返しといえるのかもしれない。 (大河原克行(ジャーナリスト)●取材/文)
IP-VPN、広域イーサネットの差別化戦略
■高まるネットワークへの信頼性、広域イーサの導入事例も
企業におけるネットワークトラフィック(情報流通量)は、ユーザー企業の予測を上回る形で膨れ上がっている。これは、企業全体で蓄積する情報に加えて、個人情報が急速な勢いで増加、さらに企業情報のインフラがウェブへと移行しつつある中、企業が取り扱う情報量が増大しているからだ。
また、企業のネットワークに対する要求も高度化しており、IP-VPNや広域イーサネットなどのネットワークサービスに対する要求はますます高まりつつある。
昨年までは、網内遅延の問題や、計画停止の回数が多いこと、あるいは不意に回線が切断するといった致命的な問題が発生する可能性があるなど、信頼性や安定運用性について問題を指摘する声もあがっていた。しかし、そうした問題も徐々に解決しつつある。
なかでも、東京三菱銀行がNTTコミュニケーションズとパワードコムの双方の広域イーサネットサービスを導入、ミッションクリティカル分野でも活用できるとの認識が高まった。
この事例では、本来競合するべき2社の広域イーサネットサービスを補完的に活用するという新たな協業の土壌を生むなど、キャリア各社の新たな提案方法として注目を集めている。
だが、IP-VPNと広域イーサネットのどちらを選択するかといった点については、ユーザー企業にとって悩ましい問題の1つだといえるだろう。多くの企業が導入検討の際に、安定性、将来性、コスト、高速性などをはかりに掛けながら、この2つのサービスを比較検討しているのが実態だ。
これは、キャリアにとっても、悩ましい問題の1つとなっている。 光ファイバー事業を推進する電力系のパワードコムの場合は、双方のサービスを用意しているというものの、広域イーサネットサービスが主力なのは明確だ。今年は、広域イーサネットサービス「Powered Ethernet(パワードイーサネット)」で低速メニューの品揃えを強化し、料金の低廉化や拠点間接続までを含めたトータルサービスを提供する体制を整える考えだ。
その一方で、日本テレコムやNTTコミュニケーションズの場合、双方のサービスを横並びで用意。その差別化にも気をつかっている。とくに、NTTコミュニケーションズでは、IP-VPN「Arcstar(アークスター)」と、広域イーサネットサービス「e-VLAN」を取り扱う組織を完全に分割、社内競合の様相が避けられないのも実態である。
キャリア側の一般的な説明としては、IPプロトコルでネットワークを構築したい場合や、優先制御機能やVPN間のフィルタリングといったネットワーク網としての付加サービスを活用したという場合、あるいは、拠点間接続で広帯域のサービスが必要ない場合にはIP-VPNが適切だという。
将来のメガビット級の広帯域への対応を図りたいという場合、製造業などに多く見られるように、拠点間での大容量データ通信を必要する場合、または、取り扱う情報の質的問題からIP系のネットワークサービスにはデータを乗せにくいといった場合には、広域イーサネットを活用するというケースで提案するのが一般的だといえそうだ。
だが、広域イーサネットで、低速化したサービスが用意され始めたほか、コスト面や安定性の問題でも、徐々に差別化は難しくなりつつある。
■低料金競争による疲弊、キャリアは付加価値競争へ
こうしたなか、エンタープライズネットワークサービスは、付加価値競争へと移行しつつある。
1つには、今年普及が期待されるVoIPの利用や、CDSといった新たなサービスに対して、いかに対応していくかが焦点と見られているからだ。
なかでも、今国会で成立する見込みのIT投資促進税制で、IP電話などのネットワーク設備に対する減税措置も含まれていることから、こうした需要はますます高まっていく可能性がある。
ケーブル・アンド・ワイヤレスIDCの場合、昨年末に、CAN(カスタマー・アクセス・ネットワーク)サービスのデモルーム「CAN Cyber Space」を本社(東京都台東区)内に開設。東京・有明のデータセンターと結んだネットワークサービスの具体的なデモンストレーションを行える体制を作った。
ここでは、1つの事例として、IP電話を実際に体験してもらい、問題として指摘されている遅延や音質などに対する理解を深めることも狙っている。さらに、同社では、昨年来注力している東京および横浜地区での高速光ファイバーネットワークサービスのメトロポリタンエリアネットワークや、同社のデータセンターを活用した企業ネットワークシステムの展開も、他社との差別化として前面に打ち出している。
データセンターの活用では、パワードコムやインターネットイニシアティブ(IIJ)なども、付加価値サービスの1つとして訴えている。広帯域ネットワークサービスの低料金化によって、社内にストレージやサーバーを設置するよりも、データセンターを活用した方が低コストで済むという認識が広まってきたのも、こうしたデータセンター活用型の各社の提案が受け入れられ始めた背景の1つだといえよう。
一方、SLAなど、運用保守面といった管理サービスで差別化を図るキャリアが出始めた。むしろ、今年はこの点での差別化を図ろうとしているキャリアが目立つ。その背景には、ユーザー企業の要求が、品質や管理といった点に移行し始めたことが見逃せない。
だが、裏を返せば、足まわり(=ネットワーク)の商売だけでは、価格競争に陥りやすいことから、より収益性の高いビジネスへと移行したいというキャリア側の思惑も見え隠れする。
事実、一部キャリアの間からは、低料金競争による疲弊を口にするケースも出ている。 今年は、いかに、付加価値サービスへと移行できるかどうかが、キャリア各社に共通した課題だといえるだろう。
IP-VPNや広域イーサネットに関する動きに、今年は大きな変化が起こりそうだ。これまでは、広帯域性や低コストで導入できる点、高速性、低料金などが注目を集めていた企業向けエンタープライズネットワークが、今年は付加価値による差別化へと移行してくると見られるからだ。VoIPやCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)といった新たなサービスが注目されると同時に、マネジメントサービスやSLA(サービス・レベル・アグリーメント)と呼ばれる運用管理機能、信頼性保証などにも注目が集まっているのもその証だ。だが、言い換えれば、キャリア自身が低料金競争からの脱皮を図ろうとしていることの裏返しといえるのかもしれない。 (大河原克行(ジャーナリスト)●取材/文)
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