その他
新たなIT活用につながるか 「商品トレーサビリティ」
2003/04/07 15:00
週刊BCN 2003年04月07日vol.985掲載
商品を追跡管理する「トレーサビリティ」に大きな注目が集まっている。パソコンなどの情報機器や家電製品に無線でデータを読み書きできるアンテナ付きのICチップ「無線タグ」を埋め込み、盗難防止や違法廃棄防止などに役立てる実証実験が、大手家電メーカー11社が参加してスタート(本紙1月20日号にて既報)。また、e-Japan戦略の見直しに向けIT戦略本部の専門調査会がこのほどまとめた「IT基本戦略II(骨格)(案)」でも、「食品の生産地、流通経路の追跡」が議題の1つとして掲げられるなど、広範囲な分野でトレーサビリティが利用されようとしている。しかし、トレーサビリティを活用していく前提として、規格の標準化や仕様の統一などの課題があり、実現にはまだ問題点も多い。(三浦優子●取材/文)
業界の枠越えた標準化が必要
■「商品の履歴情報」を追う、広範な分野で利用可能
商品のトレーサビリティとは、その商品がいつ、誰によって製造され、どういう過程で流通していくのかといった「商品の履歴情報」を追いかける仕組み。ITを活用することで、生産から物流、流通など、さまざまな過程の記録、追跡が可能となった。
これまでトレーサビリティが全く利用されてこなかったわけではない。一次元バーコードを活用したPOS(販売時点情報管理)システムが、これまでのトレーサビリティの代表的な例として挙げることができる。しかし、一次元バーコードでは利用できる情報量が少なく、追跡できる情報に限りがあった。
そこで、より多くの情報を記録できる二次元バーコード、さらにはICチップに情報を書き込む無線タグなどの新しい技術を利用することで、より利便性の高いトレーサビリティの実現が標榜されている。
経済産業省は2月、「商品トレーサビリティの向上に関する研究会」を発足。商品トレーサビリティのニーズや企業コード、商品コードなど標準化の現状、業種横断的な共通化、標準化すべきコード体系、商品履歴情報の検証、必要な技術とルールの検証などの作業がスタートしている。
商品トレーサビリティが実現することで、どんな利点があるのか。それは、メーカーから、物流業者、小売店、消費者まで「全てにメリットがある」とされている。
パソコンについては、(1)無線タグを機器の中に埋め込み、小売店など流通段階での万引きを防止するシステム、(2)POSデータとして活用したり、その商品が誰に販売したのかを管理することで、不法投棄された商品の持ち主を特定する――などの用途で威力を発揮するのではと業界関係者は期待している。
食品業界については、「IT基本戦略II(骨格)(案)」に「食品の生産地、流通経路の追跡」が取り上げられるなど、先導的なITの利活用として無線タグに注目が集まっている。
これは、狂牛病問題で産地偽装といった“食”を巡る問題に早急に対処するための措置。産地、流通経路の履歴を残すことで、消費者が安心して食品を購入できるしくみをつくることが狙いだ。
食品以外にも、利用範囲は幅広い。盗難の被害に頭を悩ませる書籍業界では、盗難防止システムとしてトレーサビリティに大きな期待を寄せる。自動車業界では、修理、部品交換の履歴を記録、管理することで安全確保につながるとする。
医療分野では、トレーサビリティを患者の取り違えによる誤った投薬がなされないための手段として活用することを検討。高級ブランドでは偽物の防止のために利用し、例えば税関で偽物の輸入を防ぐといった使い方ができるのではないかとされている。
こうして利用が検討されているものを列挙していくと、衣・食・住ほとんど全ての分野で、しかもメーカー、流通といった事業者だけでなく、消費者にもメリットをもたらすものとして、トレーサビリティが利用されようとしている。
■解決すべき課題は多い、実用化への道のりはこれから
しかし、商品トレーサビリティを実現するまでには、まだ越えなければならない壁が多い。
NPO(民間非営利団体)法人の国際公正取引推進協会では、農林水産省が実施するトレーサビリティの実証実験に参加。オレンジ果汁飲料を生産する九州乳業、同社に原材料を納入するサン・ダイコー、長岡香料、三共食材、スーパーマーケット新鮮市場を経営するオーケーなどと共同で、「果汁飲料トレーサビリティコンソーシアム」を設立し、原材料の納入から、生産、物流、小売りを経て、消費者の手元に商品が届くまでの商品トレーサビリティ実証実験を昨年11月に実施した。
この実験は、食の安全性が問われる事件が続出したことで、消費者に食の安全を訴えることが狙い。
「オレンジジュースという単価が安い食品では、パソコンように無線タグを利用するのは馴染まない。そこで、パッケージに12ケタの数字であるトレースコードを印刷し、加工過程、流通過程など、センターデータベースに情報を蓄積する方式にした。消費者は自宅のパソコンなどから、当コンソーシアムのホームページを通して下8ケタの数字を入力し、自分の購入した商品が正規に製造、流通された商品なのかを確認することができる」(国際公正取引推進協会・小笠原直樹氏)
センターの運営を国際公正取引推進協会側で請け負い、「商品とは関係ない第三者がセンターを管理することで、セキュリティ面での信頼度を高めることにつながった。消費者からも、実験に参加した事業者からも評価を得た」と、実証実験自体は成功に終わった。しかし、「これを即、実用化するのは容易ではない」(小笠原氏)という。
数字を食品のパッケージに印刷するのは、バーコードの読み取り機が不要なため。参加する事業者には負担が少ない。しかし、「やはり入力には手間がかかる。参加する事業者にリスク管理などの面でメリットがあることを訴え、参加することを了解してもらう必要がある。また、センターの運営費は誰が負担するのかといった点も、実用化の段階で決定しなければならない。負担が少ないといっても課題は残る」(小笠原氏)という。
さらに、海外製品の扱いをどうするのか、小売店のPOSとの連動にどう対処するのかといった点も課題だ。
経済産業省の「商品トレーサビリティの向上に関する研究会」では、米国では業界を越えた標準化作業が国家規模で進んでいることが報告されている。
日本でも、業界の枠を越えた規格の標準化が必要となってくることは間違いない。
商品を追跡管理する「トレーサビリティ」に大きな注目が集まっている。パソコンなどの情報機器や家電製品に無線でデータを読み書きできるアンテナ付きのICチップ「無線タグ」を埋め込み、盗難防止や違法廃棄防止などに役立てる実証実験が、大手家電メーカー11社が参加してスタート(本紙1月20日号にて既報)。また、e-Japan戦略の見直しに向けIT戦略本部の専門調査会がこのほどまとめた「IT基本戦略II(骨格)(案)」でも、「食品の生産地、流通経路の追跡」が議題の1つとして掲げられるなど、広範囲な分野でトレーサビリティが利用されようとしている。しかし、トレーサビリティを活用していく前提として、規格の標準化や仕様の統一などの課題があり、実現にはまだ問題点も多い。(三浦優子●取材/文)
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