中国のヤングアダルト層は、向学心旺盛で、オリジネーターが多い――。こんな調査結果が、調査会社のサイバーブレインズ(伊藤修一社長)のインターネットアンケート調査で明らかになった。同社では、これまで約2年間、中国における消費者市場の調査網の整備に力を入れており、中国でのモニター会員をすでに40万人集めた。これをベースに、大規模な市場調査を実施した結果、興味深い特性がいくつか表れてきた。(安藤章司)
家電購買の中心は年収7万元以上の層から
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アッパーミドル層に高い消費意欲 サイバーブレインズの調べによれば、個人の年収が7万元(同105万円)を超える「アッパーミドル層」が、顕著な消費意欲を示していることがわかった。上海の1世帯あたりの平均年収は約6万9000元(日本円で約103万円)。アッパーミドル層はこの額を上回る。このような層が、上海では、すでに7.7%に達している。
アッパーミドル層は、主に外資系企業のマネージャークラスか自営業者で、サイバーブレインズでは年収7-15万元(同105-225万円)程度の所得層と位置づける(図1)。

消費意欲の指標として、同社では、家電製品の年間支出を調べた(図2)。この図では、年収7万元を超えるアッパーミドル層以上と、それ以外の層とに分けて分析した。
これによると、年間の家電製品に対する支出で、5000元(約7万5000円)まではそれほど大きな差はないものの、年間支出が5000元を超えたあたりから、年収7万元以上と、それ以外の差が大きく分かれた。
アッパーミドル層は、約32%が年間1万元(約15万円)以上、家電製品を購入していると答えている。 これに対し、それ以外はわずか約7%にとどまる。
■IT技術習得意欲に差 同社の消費者調査は、主にインターネットを使っているため、10代後半から30代が全体の約9割を占める。中国のインターネット人口は約6000万人と、日本とほぼ同水準に達しつつあるものの、30代以下の若年層(ヤングアダルト層)の比重が高いのが特徴。これを受けて、同社では、ヤングアダルト層に焦点を当てた調査も行った。

上海、北京、広東の3つの地域と、日本の首都圏の「スキルアップのために取り組んでいること」に対する実態を調べた。この結果、日本の首都圏のヤングアダルトと比較して、中国3都市の向上心・向学心が非常に高いことが分かった(図3)。
図3で示したように、中国3都市において、「コンピュータ・ITの専門知識を身につけたい」と答えたヤングアダルトが80%を超えたのに対し、日本の首都圏のヤングアダルトは、わずか約34%にとどまった。「英語」についても中国3都市は70%を超えているのに対し、首都圏では約28%に過ぎない。
「日本語」についても上海では30%近くのヤングアダルトが必要だと感じているようだ。首都圏での調査では、この「日本語」の部分を「中国語」に置き換えて調べたところ6%強に過ぎなかった。いずれも複数回答でアンケートを行ったものの、中国のヤングアダルトがスキルアップに意欲的であることが浮き彫りになった。
■流行を引っ張る「オリジネーター」 
「流行先導分類によるセグメンテーション」で分析したところ、中国3都市では「オリジネーター」の比率が首都圏と比べて最大5倍もの開きがあった。「流行先導分類によるセグメンテーション」とは、マーケティング用語で、消費者を次のように分類する。
●流行を起動しそうな層=リードゾーン
・オリジネーター:流行起動の最先端をいくタイプ。メディアや人の意見に流されず、自分の感性で動く。
・イノベーター:センス性、イノベーター性は高いが、個性が若干弱まるタイプ。
・ミーハータイプ:イノベーター性が高いものの、センス性には欠けるタイプ。
・個性派タイプ:センス性、個性が高いタイプ。
・うぬぼれタイプ:センス性、イノベーター性は弱く、個性のみ高いタイプ。
●流行に追随しそうなゾーン=ボリュームゾーン
・ハイセンスタイプ:センス性は高いが、イノベーター性、個性は弱く、流行を追いかけていくタイプ。
・ひっそりタイプ:センス性、イノベーター性、個性ともに弱く、目立たないタイプ
図4では、この分類にもとづき、ヤングアダルト層を分けた。すると、中国3都市では、オリジネーターに属するヤングアダルトが、首都圏に比べて高いことが明らかになった。流行の最先端を行く上海では、オリジネーターが17.8%に達したのに対し、首都圏はわずか3.5%だった。一方、首都圏では、ひっそりタイプが28.2%と最も高く、上海の16.3%を大きく上回った。
中国3都市で、流行を起動しそうなセグメントであるオリジネーターの比率が顕著に高いことについて、サイバーブレインズの鶴岡秀子取締役は、「国民性の違いが数値化できた。今年2月、中国のヤングアダルトの男女10人ずつを集めてグループインタビューをしたときも、ほぼ同じ結果が出た」と話す。
谷本秀一・中国事業部長は、「中国市場は、オリジネーターの比率が高いため、日本と同じような手法で、爆発的ブームを狙うような手法は通用しない可能性がある。そうではなくて、それぞれのセグメントに合ったテイストの商品・サービスづくりに注力したほうが効果的」と指摘する。
これまで未知の部分が多かった中国・巨大消費市場が、インターネットの普及で徐々に明らかになってきた。
【概 要】 これまで中国での大規模な調査活動は、大きな制限があった。だが、「WTO加盟以来、規制緩和の方向にある」(鶴岡秀子取締役)という。同社では、上海の提携先企業とともに、中国の国家統計局から「渉外社会調査許可証」を、1アンケートごとに取得して、調査を実施している。アンケートの内容を同局に開示し、許可を得る必要があり、「1年前までは許可を得るのに10日前後かかっていたが、最近では最短で2-3日で取得できるようになった」(同)と話す。社会的な調査に関する許可は得られにくいものの、消費動向などに関しての調査規制は、大幅に緩和されつつあるという。