その他
体制強化打ち出す大手電機メーカー 目立つ「独自技術への回帰」
2003/06/09 15:00
週刊BCN 2003年06月09日vol.993掲載
2003年に入り、大手電機メーカー各社が新たな経営体制の強化策を発表している。99年から00年にかけて行われた経営改革を「第1フェーズ」とすれば、今回の経営改革は「第2フェーズ」にあたる。第1フェーズでは「IT革命」が叫ばれるなか、各社がリストラを実施。その規模に差はあったものの、厳しい経済環境で生き抜くための企業体質改善という点で、共通した部分は大きかった。しかし、第2フェーズでは、「コア事業の拡大」という点では共通するものの、注力する分野・手法などは各企業の個性が色濃く出たものとなり、自社の得意技術を戦略の核に据える。各社が新たな構造改革で目指す企業像とはどんなものなのか。(三浦優子●取材/文)
「第2フェーズ」に突入した経営改革とは
■明確なソニーの経営方針、PSXをホームサーバーの核に
5月28日、ソニーが開催した経営方針説明会は、いつになく分かりやすい内容となった。
06年度に連結営業利益率10%を達成するといった経営面での数字目標が示されたのをはじめ、「デジタルスチルカメラについては、今年度の業界成長が台数ベースで55%であるのに対し、ソニーはそれを上回る80%成長を目指す」(高篠静雄副社長)といった具合に、各製品ごとに今年度の成長目標が示された。
これまで同社の経営方針説明会は、具体的な事業内容の説明は省かれ、企業としての方向性の説明に力点が置かれていたが、今回は明らかに趣の異なるものとなった。
しかし、発表のやり方以上に明確だったのは、主力製品は内製化によって作り上げていくという戦略である。
第1フェーズでは、組織の形態をグローバルスタンダード化の流れに合わせることに主眼が置かれていたが、今回の発表では内製化した部材を中心に、主力製品を作り上げる方向性が明らかになった。
端的に言えば、ソニーがホームサーバーのエンジンとして採用するのは、パソコンではなく、ゲーム専用機「プレイステーション2(PS2)」のアーキテクチャだ。
「従来では考えられなかったゲームとエレクトロニクスを融合した商品。ゲームでも、パソコンでもなく、全てが融合した商品」(久夛良木健副社長)。
久夛良木副社長がこう紹介した次世代機「PSX」は、ゲーム機のエンジンを搭載しながら、ハードディスクレコーダー、DVD±RW、DVD-Rに対応している。
しかも、ホームサーバーの先駆けとして、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)ではなく、ソニー自身が発売する。つまり、パソコン「VAIO(バイオ)」は、ホームサーバーの主役ではないという選択をソニー自身がしたことになる。
パソコンは、インテル、マイクロソフトといった米国のベンダーから提供された部品を組み立てることによって完成するだけに、メーカーの個性を発揮させるのが難しい。
ソニーは、自社で構築したアーキテクチャーをホームサーバーのベースとすることで、自社の特徴を出しやすい道を選択したのだ。
■経営資源集中を掲げる日立、水平統合から垂直統合へ
大手電機メーカーの経営改革の第2フェーズは、いずれも自社の技術をベースにしたコア事業の拡大が1つの主眼になっている。
例えば、日立製作所の中期経営計画「i.e.HITACHIプランII」では、新たな注力事業として、「新時代のライフラインソリューション」と「高度技術グローバル製品への取り組み」に経営資源を集中させるとしている。
実行目標として、資本コストを上回る収益の実現、営業利益率5%以上、ROE(株主資本利益率)8%以上、長期債A格の維持が掲げられている。
そして、これを実現するために、新時代のライフラインを支えるソリューションとして、(1)SAN/NASストレージソリューション事業、(2)バイオ・メディカル事業、(3)都市再生ソリューション事業、(4)戦略アウトソーシング事業、(5)ミューチップ応用ソリューション事業――などが挙げられている。
さらに、高度技術グローバル製品としてハードディスクドライブ事業、自動車機器事業、半導体製造装置事業、電池事業などが並ぶ。
注力事業として挙がっているものの多くが、日立が独自技術をもつ分野である。
ライフラインソリューションなど、1つのサービス製品としてしまうのではなく、独自技術による製品を絡めたことで、日立ならではの特色を発揮できるようにしている。
こうした独自技術をベースに企業強化を図ろうとするのは、松下電器産業、シャープ、東芝といった大手企業でも同じだ。
さらに言えば、ワールドワイドで躍進するサムソン、LG電子といった韓国の電機メーカーも、液晶パネルといった独自技術による部材を持ち、これらが躍進を支えている。
IT業界では、日本型の垂直統合よりも、水平統合を重視する傾向にある。
グローバル化、オープン化、ビジネススピードの変化への対応――といったユーザー側のニーズに即応するために、全てを自社製品でまかなうのではなく、各分野のトップ企業とアライアンスを組んで1つのソリューションを作り上げることが主流となっている。
第1次構造改革時点では、独自技術である半導体部門の赤字が目立ったこともあって、事業そのものや工場を売却し、水平統合ビジネスを指向することが“良し”とされた。
しかし、大手電機メーカーが垂直統合型のビジネスに逆戻りしている状況を見ると、水平統合だけでは、メーカーとしての強さを発揮できないことをうかがわせる。
実際、水平統合型ビジネスを推進している米国のベンダーも、独自技術がある企業だけが、IT不況といわれるなかでも実績を残している。
IBMにしても、マイクロソフトにしても、それぞれの独自技術をベースに水平統合型のビジネスを推し進めているのである。
IBMなど、サービス事業へのシフトを進める方針を示しているものの、決して独自技術を持たずにサービスへシフトしようとしているわけではない。
技術とそれをベースにした製品があってこそ、サービス事業も成長しているのである。
IT業界は従来にも増して、ユーザーからスピードを求められるようになった。
だが、かつてのネットベンチャーを見ても、独自技術、製品を持たない企業は成長も早いが、衰退も早いのは明らかであろう。
2003年に入り、大手電機メーカー各社が新たな経営体制の強化策を発表している。99年から00年にかけて行われた経営改革を「第1フェーズ」とすれば、今回の経営改革は「第2フェーズ」にあたる。第1フェーズでは「IT革命」が叫ばれるなか、各社がリストラを実施。その規模に差はあったものの、厳しい経済環境で生き抜くための企業体質改善という点で、共通した部分は大きかった。しかし、第2フェーズでは、「コア事業の拡大」という点では共通するものの、注力する分野・手法などは各企業の個性が色濃く出たものとなり、自社の得意技術を戦略の核に据える。各社が新たな構造改革で目指す企業像とはどんなものなのか。(三浦優子●取材/文)
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