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業務ソフト、今年は「売り手市場」 ネット化など“新潮流”が牽引
2003/06/23 15:00
週刊BCN 2003年06月23日vol.995掲載
個人事業主や中堅・中小企業向けの財務・会計ソフトウェア市場は、法改正に対応したカスタマイズやネットワーク版への移行ニーズなどが牽引し、以前までの悲観的な見方を覆し、昨年1年間で全体が底上げされた。財務・会計ソフトは近年、機能的な差別化が難しく、ネットワークやVPN(仮想専用網)といった”新潮流”への対応に加え、法改正にともなうシステム導入後の保守・サービス対策など、付加価値の提供で競争が激化する傾向にある。今年は、昨年以上にプラス要因があるといわれ、2000年問題(Y2K)以来の「売り手市場」になりそうな気配。先を見越した各社の差別化戦略は大詰めを迎えている。(谷畑良胤●取材/文)
上場2社はいずれも増収増益
■「奉行新ERP」が好調なOBC、PCAは「Dream21」を本格投入
ジャスダック上場のオービックビジネスコンサルタント(OBC、和田成史社長)は、既存の業務システムとの融合が容易な「奉行新ERP」を利用したカスタマイズビジネスが業績を牽引。2003年3月期の売上高(非連結)は、新ERPが「中堅・大手企業市場を新規開拓した」(大原泉・取締役営業本部長兼販売推進部長)こともあり、前期比10.4%増の124億4300万円と拡大した。
一方、東証2部上場のピー・シー・エー(PCA、大炊良晴社長)の03年3月期は、3年ぶりに増収増益へ返り咲いた。売上高は前期比7.0%増の50億9500万円(連結ベース)。折登泰樹・常務取締役営業本部長は、「スタンドアローン版からネットワーク版まで幅広い品揃えを用意した」ことが奏功し、10人規模から100人規模の企業まで「広く深くユーザーを獲得できた」という。
PCAは、給与、会計、顧客管理などをカバーする主力製品「PCA2000シリーズ」を全面リニューアルし、今年4月改定の商法施行規則や社会保険法にいち早く対応した「PCA 7シリーズ」を昨年2月から順次発売した。ユーザーの要望が高いネットワーク対応版は、前期比23.4%増の成長を記録する大ヒット。法改正対応の迅速さと合わせ、保守契約会員の加入増という“副産物”も呼び込んだ。
PCAの折登常務取締役は、「業務・会計ソフトのスタンドアローン版市場は『飽和状態』。新規需要は先細りする。今期は、店頭向けの流通卸から、ネットワーク化を意識したフロントオフィス系の一般販社などとの協業に傾注していく必要があるだろう」と、昨年がチャネル展開の転換期だったと振り返る。
OBCの新ERPは99年9月の発売以来、昨年末で累計3000社を超す導入実績を上げる。スタンドアローン版の「奉行21シリーズ」から新ERPへの乗り換えはすでに約8割に達する。一方で、昨年3月にリリースした新ERPのブロードバンド(BB)エディションや「奉行21LANPACK」の需要が急速に高まり、「新ERPは100-200人の企業など、より規模の大きな市場を狙える商品に成長した」と大原取締役は言う。
中堅・中小企業市場を狙うソフト会社は、スタンドアローン版から、複数担当者が扱うP2Pやネットワーク版へ移行したい市場ニーズや法改正による保守・サービス契約増などの新需要に支えられ、前期は堅調に業績を伸ばした。
この成長軌道を背景に、「業務・会計ソフト市場は好転している」として、今期を「起点の年」と位置づけた積極姿勢が目立つ。
PCAは、前期に戦略製品としてERPシステム「PCA Dream21」を本格投入した。今期は「開発費の先行投資を計算に入れると、損益分岐点を超えない」(折登常務取締役)とするが、05年3月期は同製品で大幅な収益増を見込む。PCAは今期を「ERP元年」とする。
OBCは、「IT投資促進税制、BB普及、ウィンドウズサーバー2003の登場、VPN対応、オフコンの入れ替えなど、“追い風”が吹いている」(大原取締役)と、今期を「IT戦略元年」と銘打ち引き締めを図る。
■税制改正とネットワーク化が追い風、市場は「飽和状態」との声も
一方、店頭パッケージ販売による個人事業主や中小・零細企業向け業務・会計ソフト市場は、4月にインテュイットから社名変更した弥生(平松庚三社長)を追う展開となっている。
BCNランキングの業務ソフト部門で、本数、売上シェアともに50%近くを占める弥生は、03年8月期決算も増収増益が確実となった。
「店頭のソフトはここにきて値崩れを余儀なくされ、粗利益が減っている。だが、『弥生シリーズ』はブランド・品質ともに市場から評価を受け、(店頭では)値段の高いソフトでありながら、本数は前期比30%増、売上高も10%程度伸びた」(平松社長)と“完全勝利”を印象づける。
弥生は、中小・零細企業市場での根強い支持を背景に、8月には会計事務所や顧問先向けソリューションとして開発中の「MARCHプロジェクト」を構成するソフト2種類を発売する。会計事務所版「弥生会計AE」と企業版「弥生会計CE」は、固定資産管理や消費税申告作成などの機能をネットワークを介して、事務所と企業でデータ連携や情報共有ができるという。
弥生会計AEは、同社の会計事務所パートナープログラム「弥生PAP」会員約2000人にベータ版を配布し、8月から導入が始まる。「会計事務所の囲い込みで、事務所向けAEと機能が連携しているCEを100人規模の企業向けに拡販ができる」(古賀早・執行役員MARCHプロジェクト推進室長)と、中小・零細市場の完全掌握と新市場の開拓を狙う。
弥生と同一市場で相対するソリマチ(篠崎紘一社長)の03年6月期決算は、「店頭販売で苦戦を強いられた」(木村浩・執行役員営業統轄本部長)ものの、ネットワーク版のリリースに加え、カスタマイズビジネスが伸び、売上高が前期比数%増の見通しだ。
ソリマチも、今年は会計事務所向けソリューショを強化。既存の「王シリーズ」を使い、会計事務所と個人事業所や中小企業とのデータ連携を図るため、税務処理や経理事務で得意分野をもつ企業・団体のシステムと協業する。
「財務・会計ソフトは、機能面での差別化が難しくなった。保守・サポート力が今後の成否を分ける」(木村執行役員)という。
店頭系の財務・会計ソフト市場は、「飽和状態」との見方がある一方、業務ソフト会社以外からの“新顔”が上位に登場し始めている。「税制改正やネットワーク化などの“追い風”は吹いているが、(売り手市場だけに)競合会社も多くなってきた」(木村本部長)という。
中堅企業向けやERPを含め、財務・会計ソフトはソフト単体での粗利益率が低下しているが、保守・サポート、コンサルティング、VPN、サプライ品への対応など、機能以外の付加価値力が収益の雌雄を決することになりそうだ。
個人事業主や中堅・中小企業向けの財務・会計ソフトウェア市場は、法改正に対応したカスタマイズやネットワーク版への移行ニーズなどが牽引し、以前までの悲観的な見方を覆し、昨年1年間で全体が底上げされた。財務・会計ソフトは近年、機能的な差別化が難しく、ネットワークやVPN(仮想専用網)といった”新潮流”への対応に加え、法改正にともなうシステム導入後の保守・サービス対策など、付加価値の提供で競争が激化する傾向にある。今年は、昨年以上にプラス要因があるといわれ、2000年問題(Y2K)以来の「売り手市場」になりそうな気配。先を見越した各社の差別化戦略は大詰めを迎えている。(谷畑良胤●取材/文)
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