経済産業省はこのほど、ITが企業経営に与える影響を調査・分析した「情報経済アウトルック」を公表した。それによると、国内企業のIT投資は、情報サービス分野の支出が牽引し、2008年に27.4兆円(02年は22.1兆円)に成長すると予測する。だが、企業におけるITを経営戦略と一体化させて成功している上場企業が2割と少なく、「IT投資をいかに企業の生産性向上に結びつけるか」が問われる結果となった。一方、電子商取引は、BtoB、BtoCともに市場規模が「順調に拡大している」とし、07年には02年に比べ、BtoBが約27%増、BtoCが45.8%増と成長傾向にあるとしている。(谷畑良胤)
電子商取引も拡大傾向
■IT活用成熟度を4段階に分類 同調査は、(1)ITと経営、(2)IT投資、(3)電子商取引――という3つの項目に関して、上場企業などに対して調査を実施。ITの発展・拡大による経済社会の変化などを分析した。
(1)「ITと経営」では、上場企業3683社に対しアンケートを実施し、回答のあった424社とヒアリングを実施した12社の計436社から回答を得て、企業のIT化に関する分析を集約。この調査では、企業のIT活用に関する成熟度を4段階(ステージ)に分類した(図1)。

企業の成熟度では、4段階のうち最も多かった段階がステージ2「情報技術の活用により、部門ごとの効率化を実現している企業群」で66%に達した。
次いで、ステージ3「情報技術を理解する経営者の決断と実行により、企業組織全体におけるプロセスの最適化を行い、高効率経営と顧客価値の増大を実現している企業群」が17%、最もIT化が遅れているステージ1「単に情報技術を導入しただけで、その活用がなされていない企業群」が15%を占めた。
経営とITが一体的に活用されている最上位のステージ4「単一企業組織を超えて、情報技術により、最適なバリューチェーンを構成する共同体全体の最適化を実現している企業群」は、わずか2%と低かった。調査報告は「いまだに全企業の約8割(ステージ1とステージ2)が、経営とITを一体的に扱うには至っていない」と分析している。
一方、ステージ上位に分類された企業のうち、ステージ4の50%、ステージ3の29.2%が、IT化により「企業業績が上向いた」と回答している。報告は「過去に価値を生み出してきた、従来の日本的経営システムは変貌を余儀なくされている」と、警鐘を鳴らす。
■情報サービスへの投資が拡大
(2)IT投資に関する調査は、民間18産業についてハードウェア支出(電子計算機)や情報サービス支出(ソフトウェア、サービスなど)、通信費、人件費に分け、IT支出を推計。95-01年の推計や02-08年の予測のほか、95-01年の推計結果をもとにしたIT支出の日米比較を行っている。
それによると、国内のIT支出は、95年の17.3兆円が01年に24.0兆円まで伸びた。その後はデフレによる景気低迷で02年は大幅に下げたが、それ以降は回復傾向が続き、08年には27.4兆円になると予測する(図2)。

IT支出の増加を牽引しているのは、費目別で見ると情報サービスだ。情報サービス支出は95年が6.1兆円でハードの支出額より少なかったが、今後は順調に増加して08年には13.2兆円と倍増するとの見通しを示す(図3)。
IT支出の日米比較では、95-00年までの米国IT支出の伸びが急激で、この6年間で約2倍に成長した。これに対し、国内のIT支出は約3兆円しか増加せず、00年には日米の差が2.7倍と拡大した。しかし、01年は国内のIT支出が堅調で、米国が景気低迷した影響で、その差は2.0倍までに縮小している。
■BtoB市場規模は125.7兆円に
(3)電子商取引の調査は、02年10月-03年3月の間に実施され、02年における国内のBtoB、BtoCの実態把握や現状の市場規模、将来市場規模予測を行っている。同調査は98年から実施している「電子商取引市場規模・実態調査」の継続調査で、今回は5回目。
02年のBtoB市場規模は約46.3兆円で、電子商取引化(EC化)されている比率が6.99%に拡大した。5年後の07年には約125.7兆円に成長すると予測している(図4)。調査では「一部の従来型EDIがTCP/IPベースへと急速に移行が進んでいる傾向がみられた」という。

BtoCの市場規模については、02年が前年比約80%増の2兆6850億円に成長し、EC化率も1.02%に達した。BtoC市場は今後、携帯電話など「モバイルEC」が進展し、07年には12兆3000億円になると予測している(図5)。