人口680万人を抱え、中国側のパールリバー・デルタ地区(PRD)と隣接する香港は、常に劇的な変化を繰り返す都市だ。中国への返還から6年が経過した現在、香港特別行政区は未来に向けてPRD地区をどのようにリードしていくのだろうか。香港を基点とするPRD地区の電子産業は、この10年間で巨額の投資を受け入れ、急速な発展を遂げた。すでに設備や物流が整ったこのエリアにおいて、情報産業の整備と増強は香港にとって不可欠な要素である。そんな香港のe-ガバメント政策とPRD地区全域をリードする黄志光・香港特別行政区資訊科技署署長(Information Technology Service Department、ITSD)に、香港IT市場の未来を聞いた。
IT産業を引っ張るITSD
―― 香港における日本企業の役割とはどんなものですか。 黄 基本的に香港はIT技術に関して輸入者であり、メジャーなサプライヤーは日本や米欧です。また、ITに関する多くの設備に投資しています。
日本は香港のコンシューマ市場で強力なシェアをもっています。ノートパソコンやデジタルカメラ、プリンタなどで、日本は香港市場でナンバーワンであると言えるでしょう。
半面、サービスではあまり活動を見ることができません。例えば、米IBMやヒューレット・パッカード(HP)、香港のGSLなどは、法人教育やITに必要なニーズ分析、IT戦略に関する活動を積極的に行っていますが、日本企業はこのようなサービスをほとんど行っていません。
―― 香港のIT産業の構成とは。 黄 香港におけるIT産業は非常に短い期間で構築されました。私は、その期間はここ10年程度であると考えています。もちろんそれ以前にもメインフレームを使用したシステムを利用してきましたが、これらをIT産業の構成と考えるのは適切でないでしょう。
現在、香港には800-1000社のIT関連企業がありますが、大企業は数%に過ぎません。ほとんどは、SME(Small Middle Enterprise)と呼ばれる中小企業です。
これらのSMEは、コンピュータなどのハードウェアや、マイクロソフト、オラクルなどのソフトウェアを販売するほか、大手企業の下請けとして、より末端に近づいた部分でエンジニアリングとコンサルティングを行っています。
―― 中国とのITの連携については。 黄 最近はIT関連企業の中国展開も増えています。しかしこれまでのところ、大きな成果は得ていません。安価な労働力を得られるので、ここ数年、香港の企業は中国企業と提携して業務を行ってきました。
香港政府としては、これまで環境の整備とこうしたローカルITのバックアップに力を入れてきました。e-ガバメントにはこれまでに少なくとも1億USドルを使っています。こうした活動はトライアンドゴーを重ねてくしかありません。
最近は中国側とも経済・貿易緊密化協定(CEPA=Closer Econo mic Partnership Agreement)が締結される方向になるなどの動きがあります。いずれにしても、IT技術やソフトウェアのようなエンジニアリングは人が資本であり、多くの設備や機械が必要なわけではありません。
―― PRDに対して香港はカスタマー、サプライヤのどちらですか。 黄 第1に、最近までPRDというエリアに私たちは労働賃金のアドバンテージを得るため工場を移してきました。そして、PRDはそこに住む人たちだけでなく、中国全土から人が集まるようになりました。
当初の工場地帯から、現在、PRDは新しいステージを迎えています。環境は整い、法だけでなく管理構造においても変化しました。香港ライクなオペレーションが行われています。
第2は、市場としてのPRDですが、当初は労働力を求め生産した貨物を香港経由で全世界に供給してきました。最初のステージでは、われわれはこのエリアを市場とは見ていませんでした。
しかし現在、このエリアは市場であり、実際に多くのものが香港から、または香港経由で販売されています。日本や米国をはじめ、さまざまな国からもです。
現在のPRDは、サンフランシスコのベイエリアのようないくつかの都市を含む、大きな規模の市場だと考えます。このエリアの人口は3000万人で、香港はその中核となっています。
また、深センとの間では毎日6-7万人の人が往来しています。このことからもPRDはより同化していると言えます。