その他
電子自治体商戦に沸く北陸IT産業 空前のデータセンター建設ラッシュ
2003/09/08 15:00
週刊BCN 2003年09月08日vol.1005掲載
北陸3県の電子自治体商戦が活発だ。地元のシステムインテグレータを中心に、自治体からの受注を見込んだデータセンターの建設ラッシュが続いており、富士通やNECといった大手ベンダーも支援に躍起になっている。IT企業にとって売上高に占める公共比率が高い地域だけに、これにより公共依存の比率はさらに高まる見通し。地元企業にとっては、「公共IT投資が民間需要拡大の引き金になる」と期待が膨らむものの、実際に民需創出の起爆剤になるかどうかは不透明だ。(安藤章司●取材/文)
民需創出が今後の課題
■アウトソーシング需要が増加、地元企業は案件獲得に走る
電子自治体を構成する主な要素は、(1)電子申請など住民向けの電子窓口、(2)自治体内部の情報を処理する内部事務システム、(3)自治体を結ぶ広域・高速ネットワーク――などに分かれる。北陸3県では、(1)と(2)をアウトソーシング方式とした電子自治体構築商戦が盛り上がっている。
電子申請については、原則として県や市町村が共同で外部のデータセンターに運用を委託する方向で準備が進んでいる。また、内部事務システムについても、ASPに適した業務から、順次アウトソーシング化する可能性が高い。
このようなASPサービスに欠かせないのがデータセンターの整備だ。市町村にはデータセンターを24時間365日安全に運用できる体制も経験もない。北陸3県では、地元のシステムインテグレータに対象を絞り、データセンターの運用委託業者選定を年内にも行う計画だ。地元企業やバックに控える大手メーカーは、アウトソーシングを行うため、データセンターの増設・新設を一斉に開始。空前のデータセンターの建設ラッシュが始まった。
富山県および県内市町村の大半に基幹システムを納入しているインテックは、今年10月をめどに、自社データセンターの床面積を約830平方メートルから約1220平方メートルに約50%増床する。インテックの竹田勝・常務行政システム事業本部長は、「当社は、これまでも電子県庁および電子自治体の企画・設計、構築、運用に深く関わってきた。今回の電子自治体の共同アウトソーシングや、市町村合併に関わるアウトソーシングでも提案活動を強化している」と、規模拡大によりアウトソーシング受注を強化する考え。
石川県の市町村のうち約7割の基幹システムシェアを持つ石川コンピュータ・センター(ICC)は今年3月、経営が破綻した石川銀行の事務センター(総床面積約1600平方メートル)を約3億円で買収した。石川銀行時代は、このうち約500平方メートルの面積に、NECのメインフレーム「ACOSシリーズ」が銀行業務用として稼働しており、わずかな改修で本格的なデータセンターを開設できるという。
ICCの多田和雄・副社長は、「電子申請や市町村合併に伴う新しいシステムなど、今後需要が見込まれるアウトソーシング案件に対応するためのインフラとして活用する」と話す。
■福井県ではNTT局舎を利用、億単位のビジネスが魅力
石川県の三谷産業も、今年12月に同規模のデータセンターを設置する。同社は、すでに床面積約200平方メートルのデータセンターを保有している。しかし、現有施設で“電子自治体特需”への対応は困難と判断して、床面積約550平方メートルのデータセンターを増設・稼働させる。投資額は、土地・建物含めて13億円。
三谷産業の澤滋・常務は、「電子申請など主要LGWAN-ASPの商談は、年内がヤマ場。受注に向けた提案活動に力を入れる。当社の新設データセンターは富士通のIDCサービス『B-IDC』の適合施設として登録・認定を受け、信頼性も十分」と、万全な施設と自信を示す。
福井県では、富士通の有力パートナーの福井システムズをはじめ、数社が共同で福井市内にデータセンターの開設準備を進めている。市内のNTT局舎内に開設することで調整を図った。NTT局舎は地震など災害に強くセキュリティも万全というのが強みだ。福井市内の局舎は大型のアナログ交換機から小型省スペースのデジタル交換機に置き換わり、およそ330平方メートル分の“空きスペース”がある。データセンター受け入れには十分だ。
福井県が約14億円を投じて今年4月に稼働させた「福井情報スーパーハイウェイ」は、NTTの基幹回線網を使っている。このため、NTT局舎内でのデータセンター開設は、立地条件もいい。同ハイウェイから高速を保ったまま、局舎内のデータセンターに接続できるからだ。局舎を使うとなれば、NTTグループもデータセンター誘致に参画する可能性がある。
福井システムズの白崎俊雄・取締役営業部長は、「今年度中に企業共同体による運営組織を固め、受注に漕ぎ着けたい」と意気込む。富士通北陸支社の西村正支社長は、「順調にデータセンターが立ち上がれば、当社のB-IDCに登録して、支援していきたい」と、パートナーである福井システムズ支援の方針を打ち出す。
福井県情報政策課では、福井県と市町村とが共同で電子申請システムを開発・利用した場合、開発費に約1億5000万円、年間維持費に約1億円かかると試算している。億単位のビジネスで、しかも毎年継続して経費を徴収できるASP方式は受託業者にとって魅力的だ。
そればかりではない。市町村共同利用型の電子申請システムを受注したデータセンターは、LGWANを経由して市町村にASPサービスを提供することもできる。
勢力拡大を狙う富士通陣営に対して、NEC陣営も黙ってはいない。NEC北陸支社の坂井俊夫支社長は、「激しい受注合戦を勝ち抜く準備は整っている」と話す。
電子自治体商戦に沸く北陸IT産業だが、民間企業によるIT投資は景気回復が不透明な今、依然として厳しい状況にある。三谷産業の澤常務は、「民間のIT投資が伸びる唯一の要素があるとすれば、公共IT投資に触発されること」と語る。公共分野で命脈を保ちながら、次の収益モデルの確立を急ぐという作戦だ。
北陸3県の電子自治体商戦が活発だ。地元のシステムインテグレータを中心に、自治体からの受注を見込んだデータセンターの建設ラッシュが続いており、富士通やNECといった大手ベンダーも支援に躍起になっている。IT企業にとって売上高に占める公共比率が高い地域だけに、これにより公共依存の比率はさらに高まる見通し。地元企業にとっては、「公共IT投資が民間需要拡大の引き金になる」と期待が膨らむものの、実際に民需創出の起爆剤になるかどうかは不透明だ。(安藤章司●取材/文)
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