"スパゲティー状態"の解消――。最近、企業や官公庁などのシステムを再構築するITベンダーが、頻繁に使うキーワードだ。1980年代後半から90年代の「バブル景気」に乗り、企業は半ば無計画に情報システムの構築とその運用に莫大な投資をしてきた。ところがきちんと稼動しているかに見える情報システムの多くは、スパゲティーのように絡み合い「不良資産化」している可能性が大きいとの指摘が増えている。（谷畑良胤●取材／文）

　"スパゲティー状態"の解消――。最近、企業や官公庁などのシステムを再構築するITベンダーが、頻繁に使うキーワードだ。1980年代後半から90年代の「バブル景気」に乗り、企業は半ば無計画に情報システムの構築とその運用に莫大な投資をしてきた。ところがきちんと稼動しているかに見える情報システムの多くは、スパゲティーのように絡み合い「不良資産化」している可能性が大きいとの指摘が増えている。　その象徴的な事件が、昨年起きたみずほ銀行のATMトラブル。システム構築をITベンダーに"丸投げ"していた経営陣が、その原因把握に手間取った。この一件で日本にも企業の「ITガバナンス（統治）」の必要性が叫ばれ、IT投資のROI（費用対効果）を厳しくチェックしたいとする経営陣が増えた。しかし、システム構築を"丸抱え"したいITベンダーは多く、"丸投げ"する企業も後を絶たない。

　経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンが昨年、東証1部上場企業約200社から回答を得た調査で、企業のIT投資額の約30％、IT費用の約50％が「不良化している」という衝撃的な数字が浮き彫りになった。企業は顧客ニーズに沿ったビジネスモデルを構築しようにも、IT不良資産の重さに次なるIT戦略（IT投資）が打てない閉塞状態に陥っているという。この調査を実施した同社の森秀明・マネージングコンサルタントは、「"丸抱え"のうまみを知るITベンダー側から、IT不良資産に対する解決策が示されるとは思えない」と、企業の経営陣側がIT投資への監視体制を強めるよう訴える。

　だが、日本アイ・ビー・エム（日本IBM）は、この見解を否定する。同社は今年5月、「IBMアセット管理サービス」を開始。キャッシュフロー経営を志向する企業に対し効率的なIT資産管理を支援しているが、「当社にはこのサービスが浸透し、ROIの見えるシステム構築を実現するモチベーションが高まっている」（岡田香織・サービス事業ITS事業部インフラ&マネージドソリューション主任I／Tスペシャリスト）と指摘する。日本IBMがIT資産管理に乗り出したのは、同社が提唱する「eビジネス・オンデマンド」と無縁ではなさそうだ。最小限のITインフラで最大の経営効率を発揮するシステム構築を行うこの考えは、不必要なIT投資を"否"とする。いわゆる、「オンデマンド型ビジネス」を企業に浸透させる戦略では、無駄なIT資産を「棚卸し」して、IT機器を適切に管理することが不可欠になる。

　最近では、IBMの「オンデマンド」に似たIT基盤構築を謳い文句にした戦略を打ち出す大手ベンダーが増えた。日立製作所が昨年12月に打ち出した「ハーモニアス・コンピューティング」もその1つ。同社は統合システム管理ツール「JP1」を今年7月にバージョンアップし、企業向けのIT資産管理ソリューションを強化。同社の黒須豊・企画本部計画部主任技師は、「不良IT資産を生み出す構図は、ITベンダーに責任の一端はあった。だが、現在は押し付けの時代ではない」と、意識改革を進める。IT投資の中身を精査して資産と費用の無駄を省けば、企業の営業収益は上昇する。大手ITベンダーでは「オンデマンド」の潮流に乗り、この考えが定着しつつある。だが、インフラ投入で儲けを上げてきた中堅ITベンダーが意識を変えるのには、まだ時間がかかりそうだ。