大塚商会(大塚裕司社長)が、中国・上海でのシステム開発体制を強化している。今年9月、同社などが出資する「上海華之桜信息系統」(上海華之桜情報システム、王家誌社長)の傘下にある技術者養成専門学校「華之桜情報技術学校」の第1期生約100人が卒業。このうち約90人が上海華之桜情報システムに入社した。このタイミングに合わせるように、大塚商会は今年10月、中国初の営業拠点「欧智 貿易」(オオツカ貿易、鶴見裕信社長)を上海に開設。ソフト開発とシステム販売の両面で、本格的に中国市場に参入する体制を整えた。(安藤章司)
■専門学校1期生100人が卒業
大塚商会の中国・上海での拠点は2つ。ソフト開発の「上海華之桜情報システム」と、このほど新しく開設した「オオツカ貿易」である。上海華之桜情報システムは、関連する専門学校として1年制の「華之桜情報技術学校」を開設している。
大塚商会は2001年、日立製作所、東芝、オリジナルソフトの4社共同(うち大塚商会の出資比率は約35%で最大)で投資会社「日中テクノパーク」を設立。上海華之桜情報システムは、この投資会社を通じ日本側が3億円を出資する一方、中国大手ソフト開発の「托普集団」(トップグループ)が同額の3億円を出資し、計6億円の資本金で設立された。ソフト開発を行うとともに、教育機関として専門学校、華之桜情報技術学校をもつ。

華之桜情報技術学校は、上海郊外にあるトップグループの技術者養成学校「トップ学院」の卒業生から学生を募った。トップ学院は3年制の情報技術系専門学校で、昨年9月の卒業生約800人のうち希望者約100人が1年制の華之桜情報技術学校に入学した。
華之桜情報技術学校では、日本語が使えるプログラマを育成。今年9月、約100人の第1期生が卒業し、うち約90人が上海華之桜情報システムに入社した。これにより、上海華之桜情報システムの人員は約170人に拡大。来年9月以降も、およそ100人の卒業生を迎え入れる予定で、「毎年100人ずつ人員を増やし、最終的には1000人規模のソフト開発会社にする」(王社長)計画だ。
約170人の技術者を日本語能力で区分すると、(1)普通に日本語で会話できる技術者が7人、(2)書いてある日本語を理解できる技術者が25人、(3)日本語による技術的な仕様書を見ながらプログラムを組める技術者が110人、(4)残りが日本語習得途中にある技術者――という構成になる。
■安いコストでシステム開発
上海華之桜情報システムの最大の強みは、開発コストが安い中国で、日本語によるソフト開発が可能である点にある。宇佐美慎治・大塚商会取締役兼上席執行役員は、「ソフト開発を発注する総コストは、日本国内と比べて約3割ほど安くなる」と話す。
だが、人件費の安さは永久的に続くものではない。藤田美雄・上海華之桜情報システム副社長は、「会社設立当時の01年と比べ、同じ技術水準の社員の給料は約4%上がった」と指摘する。現在、上海華之桜情報システムの人月単価(1か月に1人のプログラマを使う費用)は、熟練プログラマで日本円約40万円、通常のプログラマで同27-35万円まで上昇してきているという。
日本国内の、特に地方のソフト開発会社の人件費が下落傾向にあることから、藤田副社長は、「コスト的な利点だけを“売り”にするのは、ここ5年以内に限界に達する」と予測する。
「今は出資会社など日本国内の企業からの受注が多くを占めるが、今後は日本語によるソフト開発を武器にしつつ、中国に進出している日系企業や、中国企業からのソフト開発受注を増やしていく」(藤田副社長)ことで、継続した発展を目指す考え。
■「オオツカ貿易」スタート
大塚商会として、これまでの対中投資は、ソフト開発が中心だった。だが、上海華之桜情報システムが本格的に立ち上がったタイミングに合わせるように、今年10月、初めての営業拠点となるオオツカ貿易を開設した。
営業開始当初の人員は11人で、CADシステムを中心に販売するという限定的なものだが、今後中国でビジネスを進めていくなかで、事業拡大のチャンスを模索していく方針。オオツカ貿易は、大塚商会の全額出資子会社とすることで、「市場の変化に柔軟に対応できる体制をつくった」(鶴見・オオツカ貿易社長)という。

現在、上海地区には、日本で大塚商会と取り引きがある顧客企業約250社が進出しており、このうち、大手を中心にすでに10社程度からオオツカ貿易と取り引きを始めたいという打診が来るなど、日系企業からの反応は上々だ。

10月28日、上海で開催されたオオツカ貿易の営業開始にともなう式典には、日系企業の幹部を中心に約100人が集まった。式典の席上、大塚商会の大塚社長は「中国で日本と同様の高品質なサービスを提供できる体制をつくった」と胸を張った。
また、NECで中国ビジネスを担当する津田芳明・執行役員常務は式典のなかで、「日本の製造業が中国で生産拠点を拡大するうえで、最新のCADシステムの安定的な運用は必要不可欠。大塚商会はいいところに目をつけた」とメッセージを贈った。
日本語によるプログラム開発を可能にする人材育成を受け持つ「華之桜情報技術学校」。育成した人材でソフト開発ビジネスを手がける「上海華之桜情報システム」。そして、この10月に開設した「オオツカ貿易」の活動開始を受けて、大塚商会は人材育成、ソフト開発、システム販売のITビジネスで欠かせない3つのビジネス基盤を中国・上海に整備した。
今後、この基盤をどう活用し、巨大な中国市場で事業を成長させていくのか。大塚商会の強いサポート力、営業力が中国でも発揮できるのか。周囲の関心は高い。
