その他
電子申請制度の技術的見直しへ ウェブサービス、XML採用も
2003/11/10 15:00
週刊BCN 2003年11月10日vol.1014掲載
約1万種類の行政手続きを電子化する政府の電子申請制度で、早くも技術的な見直しが始まっている。各省庁が個別にシステムを構築・運用する現行のGPKI(政府認証基盤)では、利用環境や専用ソフトがバラバラ。利用者は使いづらく、システムの拡張性にも難点があるためだ。見直しでは、米国政府が2004年から本番稼働させる統一認証窓口(ポータルサイト)方式が導入される見通し。技術としてウェブサービスやXML鍵管理を導入する可能性が高い。e-Japan戦略の中で、ウェブサービス規格「WS-Federation」を推進するIBMが存在感を強めている。(坂口正憲●取材/文)
米国の電子政府構想を後追い
■高くつく認証局の運用費、システム拡張性にも難点?
“e-Japan実現”に不可欠な要素の1つが電子申請制度の定着である。政府は「03年度までに約1万種類の行政手続きの電子化」を目標に掲げ、実際、各省庁が着々と整備を進める。例えば、経済産業省のホームページを見ると、「輸出の許可」、「輸入の承認」など、ビジネス活動で日常的に利用する申請手続きで電子申請が可能となっている。
ただ、03年度も残り半分を切った現在、企業や国民が政府の電子申請制度を積極的に利用しているとの話は聞こえてこない。「電子申請は注目こそされているが、利用件数が全然増えない」(電子政府構想に携わる大学研究者)のが実情のようだ。
もちろん制度がスタートしたばかりで認知が進んでいない面もあるが、制度そのものの問題点が指摘され始めている。「省庁ごとに電子申請の仕組みがバラバラで、専用ソフトのインストールなど面倒な作業が多い」(建設会社のIT担当者)と言われる。なぜ、政府の電子申請制度は省庁ごとにバラバラで使いづらいものになってしまったのか。
政府の電子申請制度では、PKI(公開鍵基盤)と呼ばれる認証技術を用いたGPKIが稼働している。各省庁が認証局を構築、それらを相互運用するブリッジ認証局も存在する。“縦割り行政”の弊害で各省庁が個別に認証局を構築・運営するため、省庁ごとに電子申請に必要なシステム環境や専用ソフトが違う。
しかも、産学連携で電子認証技術を研究する電子商取引推進協議会(ECOM)関係者によれば、「GPKIはセキュリティに厳格さを求めるあまり、認証手続きに複雑なプロセスが必要となってしまった」と言う。1つの認証局の運営には年間で億円単位のコストがかかるといわれ、コストパフォーマンスの悪さも指摘される。
「ブリッジ認証局は、1件の検索に30秒近くもかかり、電子申請の利用が本格化してくるとパンクしてしまう」(IT担当者)。
つまり、現在のGPKIの仕組みは、利用者には使いづらく、仮に利用件数が増えたとしても、システム拡張に多大なコストがかかるものなのだ。
その課題は、電子政府プロジェクト関係者も理解しているようだ。同プロジェクトでは、既にGPKIの見直しが始まっている。7月に開催された電子政府戦略会議で、片山虎之助・前総務大臣は「05年度末までに電子申請の申請窓口を統一する」と明言した。
結局のところ、電子申請のポータルサイトを構築し、申請様式や動作環境を統一する考えなのだ。そのポータルサイトと各省庁の認証局の間でデータをやり取りする技術には、「汎用性と拡張性の高いウェブサービスとXML(eXtensible Markup Language)鍵管理が採用される可能性が高い」(大学研究者)と指摘されている。
■米国の電子政府構想の影で、ウェブサービス規格争いも
ここにきて急速にGPKI見直しの動きが現実的になってきたのは、米国の電子政府プロジェクトが影響している。米国はいち早く、ウェブサービスとXML鍵管理を利用する「e-Authenti cation」という統一認証ゲートウェイの構築に取り組んでいる。
連邦政府のポータルサイト「First Gov.gov」で一元的に受け付けた電子申請の認証処理を実施するゲートウェイで、片山前総務大臣が指摘した「申請窓口の統一」そのものである。現在、試験運用の段階にあり、04年に本格稼働する見通しだ。
これまで米国でも、省庁の認証局とそれらを橋渡しする連邦ブリッジ認証局を組み合わせ、電子申請制度を進めてきたが、やはり柔軟性や拡張性に欠けていた。そこでエンタープライズアーキテクチャ(EA)手法を取り入れ、システム全体を見直した結果、統一認証ゲートウェイのe-Authenticationが誕生したのである。
そして、ポータルサイトのバックでは、ウェブサービスとXML鍵管理が技術として採用されている。技術フレームワークとしては、サン・マイクロシステムズやヒューレット・パッカード(HP)などが提唱する「Liberty」、IBMとマイクロソフトらが推進する「WS-Federation」の両規格が検討されている。
米国の電子政府プロジェクトの影では、IT業界を二分するウェブサービスの規格争いが演じられているのだ。何しろ、米国の電子政府は既に実績がある。例えば、失業保険や年金の受給資格などを知ることができる労働省管轄の「GovBenefits.gov」だけで、月間50万件以上のアクセスがあるという。これだけのアクセスを集中処理、認証する大規模なポータルサイトとなれば、両陣営とも鼻息も荒くなる。
さて、縦割り行政で電子政府プロジェクトを進めてきた日本でも、経済産業省を中心にEA推進の働きかけが強まっている。その結果、03年8月に発表された「e-Japan戦略II」では、「システムの共通化及び外部委託化」をテーマに掲げる。電子申請窓口の統一に向けた布石だろう。しかも、そのシステムの運用管理をITベンダーにアウトソーシングする可能性も示唆する。
ここで俄然、勢いづいているITベンダーが日本アイ・ビー・エム(日本IBM)である。「政府は電子政府関連で週1回、各ITベンダーを集めた勉強会を開いているが、日本IBMの積極的な姿勢に、国内ITベンダーもたじろいでいる」(IT業界関係者)。
米国のe-Authenticationでもウェブサービス技術には、IBMが推進するWS-Federationが採用される可能性が高いと言われる。後追いの日本も“同じ仕様”を求める可能性は十分にある。
日本でも、中央官庁向け電子申請を集中処理するポータルサイトとなれば、大規模なものになる。サーバー販売やサービスで大きなビジネスが見込める。さらに、大規模なウェブサービスの運用にはグリッドコンピューティング技術なども必要になる可能性が高い。政府にはLinux採用の動きもあり、今のところ日本IBMの思惑通りに進んでいるかのようだ。
約1万種類の行政手続きを電子化する政府の電子申請制度で、早くも技術的な見直しが始まっている。各省庁が個別にシステムを構築・運用する現行のGPKI(政府認証基盤)では、利用環境や専用ソフトがバラバラ。利用者は使いづらく、システムの拡張性にも難点があるためだ。見直しでは、米国政府が2004年から本番稼働させる統一認証窓口(ポータルサイト)方式が導入される見通し。技術としてウェブサービスやXML鍵管理を導入する可能性が高い。e-Japan戦略の中で、ウェブサービス規格「WS-Federation」を推進するIBMが存在感を強めている。(坂口正憲●取材/文)
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