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ソニー、PSXを12月13日に発売 競合家電メーカーは「機能」で攻撃
2003/12/08 21:12
週刊BCN 2003年12月08日vol.1018掲載
ソニーが12月13日からいよいよ「PSX」の出荷を開始する。今年5月の経営方針説明会で電撃的ともいえる形で発表されたPSXは、10月にはCEATECのソニーブースでの記者会見で詳細な仕様・価格を発表するという、これも異例の発表形態で関係者を驚かせた。話題づくりに事欠かないPSXは、予約段階から好調な動きを見せ、早くも年末商戦の目玉商品の1つとなっている。一方、競合家電メーカーはPSXに対して発売前から対策を打ち始めている。ソニーはPSXによって、出遅れたDVDレコーダー市場での巻き返しを図れるのか。そして、その戦略に死角はないのか。(大河原克行(ジャーナリスト)●取材/文)
激化するDVDレコーダー市場
■家電メーカー各社は狙い撃ち 松下電器「PSXはゲーム機」
松下電器産業は今年11月、DVDレコーダー「DIGA(ディーガ)」のテレビCMを積極的にオンエアした。ディーガは、DVDレコーダー分野で国内ナンバーワンシェアを誇るとともに、DVD-RAMを国内の主流に押し上げた同社の戦略的製品である。
テレビCMで流れるコピーは、「ディーガなら、なんと地上デジタル放送もDVDに残せる」。メッセージの中に「なんと」という言葉を入れた点に、松下電器の思惑が見え隠れする。
ディーガは、CPRMと呼ばれる規格に対応しているため、デジタル放送の主流となるコピーワンス番組の録画にも対応。DVDディスクへも録画できる。中上位のDVDレコーダーなら当然ともいえる機能の1つだ。
だが、ソニーが投入するPSXはCPRM非対応だ。コピーワンス番組のハードディスクへの録画はできても、DVDに録画することはできない。
つまり、この広告メッセージは、明らかにソニーのPSXを意識したものといえる。
松下電器の中村邦夫社長は、2003年度中間連結決算発表の席上、「PSXはゲーム機だと判断している」とコメントした。この言葉には、松下電器が考えるDVDレコーダーの基本機能を持たないPSXは、DVDレコーダーとは認められないという意味があるのだろう。
PSXを意識した対策を開始しているのは松下電器だけではない。DVD-RAMに加え、DVD-RWのマルチドライブ戦略を推進している東芝も、PSXへの対抗色を強める。
同社では、販売店向けに配布した販売促進用資料で、東芝製DVDレコーダーとPSXとを比較して、PSXがDVDレコーダーとして機能的に劣っていることを強く訴える。
同資料では、PSXがCPRMへの非対応であることをはじめ、DVDからハードディスクへのダビングが不可能なこと、DVD-RAMの録画・再生が不可能なこと、WOWOWデコーダーの接続が不可能なこと、チャプターダビングが不可能なこと、編集が15フレーム単位で行うことになるなど、約10項目の課題を指摘している。
このように、DVDレコーダーの競合陣営は、発売前からPSXに対する「攻撃」を開始している。
松下電器の中村社長は、「PSXはゲーム機」だと言い切るが、ソニーは、あくまでもDVDレコーダーとして開発したことを強調する。
その名称からプレイステーション2(PS2)の上位機種だとの誤解を生みやすいが、「当社からは一度もゲーム機だとは発言したことがない」とソニーでは言い切る。それどころか、「開発段階で、コスト削減効果があればゲーム機の機能を排除することまで検討材料にあがった」というほどだ。つまり、ゲーム機能はPSXで実現するビデオ、テレビ、写真、音楽といった機能の1つにすぎないという。
DVDレコーダーであるという証は、流通担当がSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)ではなく、ソニーマーケティングであることからもわかる。
■“DVDレコーダー”にこだわるソニー、複数ブランドで役割を切り分け
ソニーマーケティングの主要販売ルートは家電販売店。そのため、展示販売も家電量販店やカメラディスカウンターのAV(音響・映像)機器売り場になる。ソニーマーケティングでは、「新たな販売ルートの1つ」という位置づけで玩具売り場への展開も行うが、ゲーム機であるPS2の主要販売ルートだった玩具ルートは、今回のPSXについては補完ルートに位置づけていることが明らかだ。
7万円から9万円の価格帯の製品を玩具店で扱うことにも無理があるという判断からも、この流通施策は当然のことだろうが、ここからもPSXがDVDレコーダーとして位置づけられていることが証明される。
だが、DVDレコーダーとして見た場合、松下電器や東芝が指摘するように、機能的にいくつかの課題があるのも事実だ。
その点に関して、ソニーでは「もし立場が逆だったら、同じような資料を作って対抗するだろう」と、競合メーカーの動きはすでに折り込み済みともとれる見方を示す。そして、「PSXは、これまでDVDハイブリッドレコーダーを持っていなかったユーザーが手軽に使えることを想定して開発した製品。そのため、操作が繁雑になるような機能はすべて排除した」と語る。
ソニーの考え方はこうだ。
DVDハイブリッドレコーダーを初めて使うユーザー、簡単に使いたいユーザーにはPSX。一般的なDVDハイブリッドレコーダーとしての機能を求める人は「スゴ録」、ユーザーの利用形態によって進化する機能を求める人は「コクーン」というように切り分ける。そして、パワーユーザーに対しては、今年春から投入しているブルーレイディスクレコーダーを最上位製品として用意している。
各社が1つのブランドシリーズで多くのユーザーをカバーしているの対して、ソニーは複数のブランド製品で幅広い顧客ニーズに対応しようとしている。そのなかで入門的ユーザーを獲得する役割を果たしているのがPSXというわけだ。
だが、発売前までの同社のマーケティング活動を見る限り、こうした認知活動が遅れた感は否めない。逆に、PSXとスゴ録、コクーンとの競合の可能性ばかりが指摘されていたともいえる。
「ゲーム機のノウハウ、技術を使って、どこまでデジタル家電を実現できるかへの挑戦」(ソニー・久夛良木健副社長)というPSXは、むしろ、スゴ録などのAV機器部門との連携を取りながらのマーケティング活動も必要だったのではないだろうか。そのあたりの施策が明確になっていないことが、DVDレコーダー分野におけるソニーの総合力を発揮しにくくしている要因かもしれない。
ソニーが12月13日からいよいよ「PSX」の出荷を開始する。今年5月の経営方針説明会で電撃的ともいえる形で発表されたPSXは、10月にはCEATECのソニーブースでの記者会見で詳細な仕様・価格を発表するという、これも異例の発表形態で関係者を驚かせた。話題づくりに事欠かないPSXは、予約段階から好調な動きを見せ、早くも年末商戦の目玉商品の1つとなっている。一方、競合家電メーカーはPSXに対して発売前から対策を打ち始めている。ソニーはPSXによって、出遅れたDVDレコーダー市場での巻き返しを図れるのか。そして、その戦略に死角はないのか。(大河原克行(ジャーナリスト)●取材/文)
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