その他
新春特別対談 J2EEと.NET 激突する2大潮流 2004年は“再生”と“飛躍”の年に
2004/01/05 15:00
週刊BCN 2004年01月05日vol.1021掲載
顧客のビジョンを実現する
「J2EE」と「.NET」の2大テクノロジーが、その影響力を巡り火花を散らす。両陣営における最先鋒のシステムインテグレータである日本アイ・ビー・エム(日本IBM)と日本ユニシス。普段は商談最前線で激闘する両社のビジネスリーダーに、J2EEと.NETそれぞれの強さ、弱さを存分に語ってもらった。対談を通じて、2004年の両陣営の動向を探る。(小寺利典(本紙編集長)●聞き手、安藤章司●取材/文、清水丈司●写真)■04年、Javaは生まれ変わる
――今年のJ2EEと、.NETの動向を予測するキーワードをお願いします。
伊藤 今年のキーワードとして、まず「みんなのJava」を挙げます。Javaによるシステム構築で必要な開発ツール群が、より充実し、特別な技術をもった人だけがJavaを使うのではなく、みんなが使えるようになる年だという意味です。
よくJavaのシステムは、ゼロから作りあげる必要があると言われますが、こうした考え方も今年は薄れていくでしょう。アプリケーションサーバーの「ウェブスフィア」のようなミドルウェアを使うことで、Javaの“常識”は大きく変わっていきます。わたしは、これを「ミドルウェア再発見」と呼んでいます。
米持 わたしが挙げるJavaのキーワードは「リ・ボーン(再生)」です。Javaが新しく生まれ変わる年だと考えています。
もともとJavaは、クライアントのソフトウェアとして開発が進んだものの、今ではJavaと言えば「サーバー向けのソフトウェア」との認識が定着しています。Javaは、クライアントから追われてサーバーに移行したという印象がありますが、開発ツールが整ってきた今年は、再びクライアントの領域でのシェアを拡大するでしょう。これにより、すべてのシステムにJavaが深く浸透することになります。
■ミッションクリティカル領域に進出
――.NET陣営側からは、どのようなキーワードが挙げられるでしょうか。
白井 今年は.NETにとって「飛躍」の年になります。昨年、エンタープライズ領域において、.NETは「やっと離陸した!」という状況でした。今年は離陸に続き、大空に舞い上がるという意味を込めて、「飛躍」というキーワードを挙げます。
今年は、特にミッションクリティカル(極めて重要な基幹業務)領域で.NETテクノロジーの積極的な採用が急速に進むでしょう。
この領域は、.NET陣営にとって未開拓の土地だと言えます。日本ユニシスとして、.NETの分野で“イノベーション・リーダーシップ(技術革新の統率力)”を発揮できるよう、この領域の開拓に力を入れていく方針です。 尾島 キーワードは「多様性」です。IT業界の発達にともない、顧客の選択肢はさらに多様化します。.NETは、その多様化した選択肢のなかで最も重要な1つになります。.NETフレームワークそのものもさらに進化を遂げ、その多様化したIT環境を相互に結びつけていく能力を大幅に高めていく年になります。
.NETは、昨年「離陸した年」だと白井が指摘しましたが、エンタープライズ領域において、.NETはここ3年間鳴かず飛ばずの状態で、どうしようかと思ったこともありました。しかし、立ち上がり始めると意外に速かった。離陸した瞬間から一気に飛翔する力が.NETにはあります。
■異種混合をオープンでつなぐ
――.NETの勢力拡大が進んでいるようですが、J2EE陣営としてはどうお考えですか。
伊藤 J2EEは1994年頃からミッションクリティカル領域への適用が始まっており、すでに「ミッションクリティカルは当たり前」の感があります。欧米では早くからミッションクリティカル領域へのJ2EE適用が定着しており、日本もようやく欧米に追いついてきたという状態だと思います。
ただ、J2EEが.NETに先行して独占状態にあるというわけではありません。企業の情報システムは、J2EEや.NETだけでなく、メインフレームがあり、オフコン時代のCOBOLの資産があり、巨大なオラクルデータベースが混在しています。これをようやく“認めた”段階です。
つまり、これまでの「J2EEを使ってください」、あるいは「.NETができました」という考え方ではなく、こうしたヘテロ=異種混合をオープンな環境でつなぐことが必要だという認識が広まりました。今年は、J2EEなり、.NETなり、オープンな環境でヘテロにつなぎ合わせたいという需要がより活発になると思います。
米持 .NETがミッションクリティカル領域に一歩踏み出したとすれば、J2EEは“超ミッションクリティカル”な領域に達していると言えるでしょう。昨年、日本IBMは銀行の勘定業務をJ2EEに置き換える提案を始めました。
銀行の勘定業務は、70年に1度しか故障しないと言われる本物のメインフレームを使っているミッションクリティカルな分野です。
オープンシステムでは、トラブル発生率が3か月に1度しかなくても、「故障が少なくて驚かれる」という次元です。これに比べ、メインフレームの堅牢性はやはり一日の長があると言わざるを得ません。オープンシステムからみれば、銀行の勘定業務システムは“超ミッションクリティカル”だと言えます。ここをJ2EEでやろうというのが、今の動きです。
■.NETの方が安く構築できる
――J2EEは、ミッションクリティカル領域では一歩進んでいるようですが。
白井 日本ユニシスでは、当初から.NETで大規模なミッションクリティカルなシステムを構築することに焦点を絞っています。 ここ数年、ミッションクリティカルな基幹業務システムにオープン系の技術を導入する動きが活発化しています。コストや拡張性を見込んでの動きです。これまでは確かに、顧客企業がオープン系の技術を採用する際、まず考えるのがJ2EEでした。ところが昨年あたりから、オープン系の技術の候補として、J2EEに加えて.NETを選択肢に加える顧客が急増しています。
顧客は、「ウィンドウズでミッションクリティカルな基幹システムが組めるのか?」と、半信半疑ですが、それは、.NETにまだ実績が少ないからです。われわれはまず、.NETで大規模基幹システムを構築し、これまで以上の投資対効果をもたらす“実績”をつくることで、商談最前線における勝率を高めていく考えです。
たとえば、大規模基幹システムの案件で、ある顧客が複数のベンダーに見積もりを求めたとしましょう。当然、並み居る大手メインフレーマが見積もりを出します。そのほとんどがJ2EEを基盤としたものです。そのなかで唯一、日本ユニシスだけが.NETを基盤としたシステムで見積もりを出したとします。
このようなケースでは、まず間違いなくわれわれは2次審査まで通過します。理由は簡単で、J2EEと同じことを実現するのに、.NETを使った方が安くできるからです。
顧客には、「コストが安い候補を最初から選ばない理由はない」という心理が働きます。最終的にJ2EEと.NETのどちらを選ぶかは“実績”の要素が加味されますので、10戦10勝というわけにはいきません。でも、少なくとも1次審査で落とされることが大幅に減少しただけでも、大きな進歩だと言えます。
日本IBMをはじめ、NEC、富士通、日立製作所など大手のメインフレーマのプライオリティ(優先順位)は、最初にJ2EEがあり、その次に.NETという位置づけのように見受けられます。アプリケーションサーバーを1つ構築するのにも、J2EEを基盤としたものと.NETを基盤としたものとでは、力の入れようが違う印象です。
大手がJ2EEを基盤としたアプリケーションサーバーに力を入れれば入れるほど、.NETを担ぐわたしの部隊は競争相手が少なくなり、有利に働きます。逆に言えば、大手メインフレーマのプライオリティが変化するとき、業界の勢力図も大きく変わる可能性があるわけです。
■EAの重要性高まる
――大規模基幹システムを構築する際、EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)という言葉をよく耳にします。
伊藤 個別最適ではなく、全体最適の考え方ですね。顧客との商談で、EAはよく話題にのぼります。米国政府が情報システムを調達する時、EAがしっかりしているかをチェックしますし、国内の大企業も社内の情報システム全体のポリシーを――この方針はJ2EEを基盤としたものであることが多いですが――明確にすることを気にしています。 これまでのIT部門の考え方は、プロジェクト単位での個別最適が中心でした。これからは、会社全体のIT方針を明確にしたうえで、全体に最適なシステムを導入する動きが、特に大規模基幹システムでは主流になるでしょう。5年後、10年後に情報システムをどうしたいのか。これに対する明確な回答がないと、採用してもらえません。
白井 確かにEAは注目されています。EAの基本となる開発標準、運用標準、セキュリティ標準など、大規模基幹システムを実装するためのポリシーなどがますます重視されるでしょう。
J2EEはこの点、かなり明確になりつつあり、言葉を換えれば、J2EEではEAが当たり前になりつつあることを、われわれとしても強く意識しています。
そこで.NETを基盤としたシステムにも、われわれはEAの手法を積極的に採り入れるようにしています。経営者やCIO(最高情報責任者)との話し合いのなかで、EAの手法を採り入れ、この考え方を.NETを基盤としたシステムに落とし込んでいく。この手順を、今後とも重視していく方針です。
――最後に、システムインテグレータが.NET、J2EEのどちらの技術を採用すべきかについて、考えをお聞かせ下さい。
伊藤 顧客の要望ありきの話ですから、システムインテグレータだったら両方の技術をマスターすべきでしょう。しかし、自社でパッケージソフトを開発するのであればJ2EEを選択すべきです。Javaで開発すれば、ウィンドウズだろうが、Linuxだろうが、プラットフォームは選ばないため、大幅にコストを抑えられるからです。
米持 IBMのメインフレームは、30年前に開発したソフトでもきちんと動きます。顧客の資産を守り続けていると言えます。それと同じように、Javaで開発すれば、今後プラットフォームが変化したとしても、顧客の資産を長持ちさせることができます。顧客からの信頼を得るという意味でも重要なことです。
白井 適材適所です。とにかく安いシステムを求める顧客もいれば、EAのような全体最適で10年後、20年後、どうあるべきかを求める顧客もある。顧客は何を求め、何を夢として描いているのか、顧客のビジョンは何かを、しっかり見極めたうえで、製品や技術を提供することが大切でしょう。
尾島 わたしは.NETのエバンジェリストである一方、Javaにも精通していると自負しています。両方の技術がわかった上で、顧客の夢とITとのギャップを埋めるにはどうしたらいいのかを考えています。同じように当社の他の技術者にも、比較検討ができるよう異なる複数の技術を習得するよう指導しています。
つまり、冒頭のキーワードで申し上げた「多様性」を認めることで、初めてヘテロな環境をヘテロなままで全体最適を図るという.NETの心髄に近づけると考えています。
――本日はありがとうございました。
【J2EE(ジャバ・ツー・エンタープライズ・エディション)】
サン・マイクロシステムズが開発したJavaの企業向け業務システムの開発基盤。J2EEを使うとこで、Javaによる業務システムの開発効率が格段に向上した。
【.NET(ドットネット)】
マイクロソフトが開発した.NET構想の基盤となるフレームワーク(骨組み)。アプリケーションの開発効率の向上や、アプリケーション同士の連携が、より容易になる。
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
- 1
