ERP(統合基幹業務システム)ビジネスが大きく変わろうとしている。これまで省力化・リストラの一環としてERP導入が進んできたが、景況感が好転し始めたのを受けて、顧客企業は再び“増収に向けての貢献”をITに求め出した。一方で、財務会計・人事給与ソフトの一部は価格競争に突入。ベンダー各社はあの手この手を尽くして、収益確保に奔走している。
会計・人事は2極化鮮明に
大塚商会は、今年1月から“スマイル箝口令”を敷いた。スマイルとは、大塚商会の主力ERPシリーズの商品名で、この名を「顧客先で話すべからず」とした。箝口令により、ERPを一歩引っ込め、CTI(コンピュータテレフォニーインテグレーション)やセキュリティなど、顧客の興味がありそうな領域を前面に押し出す。反応があれば即座に「ERPとの連携で一歩進んだIT活用を!」と踏み込むわけだ。ERPは先に出さない。
増収型ソリューションへの誘導と価格主導権を握ろうとの狙いだが、結果は、今年に入り中堅・中小企業向けスマイル関連ビジネスの販売金額は前年に比べ10%以上の伸びを示し、「大きな効果が出ている」(石井ふみ子・マーケティング本部SMILE推進課長)と驚きを隠さない。

日本事務器では、顧客の関心が高いIP電話サービスとERPの組み合わせ提案を今年4月から始めた。「新しい機能をERPにどんどん吸収させる」(高橋敬次・SI事業推進本部ERP販売推進部長)と提案に工夫を凝らす。
商談で優位に立つため、例えば、競合企業がCTIに弱ければCTIから攻め、CITのバックエンドとしてのERP商談に結びつける。さらに、「SFA(営業支援システム)やEC(電子商取引)、マーケティング強化など、増収に直結する要素が加われば、なお優位に立てる」(大塚商会の向川博英・マーケティング本部業種部門業種大手担当部長)と“増収型ソリューション”への移行を推進する。
一方、価格競争が激しい財務会計・人事給与分野では2極化が急速に進む。住商情報システムの岸本成市・エンタープライズ・ソリューション事業部ERPソリューション部長は、「価格の安い財務会計・人事給与を選ぶ流れと、グローバル展開を見据えてお金をかける流れとに分かれる」と指摘する。
SAPやオラクルなど高価なグローバル仕様製品を選ぶパターンがある一方で、敢えてこの部分の投資を抑え、増収型ソリューションへの投資を拡充する2極化の流れが加速しているという。
この波に乗る動きもある。オービックビジネスコンサルタント(OBC)の大原泉・取締役販売促進本部長は、「奉行シリーズを組み込めば価格競争力が格段に高まる」と、他社ERPへの“奉行組み込み作戦”を展開する。食品卸業などの販売管理分野に強いERPを持つ内田洋行は、ERP商談の一部に奉行シリーズを組み込み、戦略的に価格を下げることで、主力の販売管理への投資の増額を引き出す施策を打ち出す。
カスタマイズ不要のERPパッケージで業績の伸ばすワークスアプリケーションズの牧野正幸・代表取締役CEOは、「企業の戦略領域こそIT投資の主役となるべき」と、間接部門を中心とするリストラ・省力型のERP導入はパッケージ製品で安く済ませ、競争力拡大・増収促進型のソリューションにお金を振り向けるのがIT投資の本命だと指摘する。
景況感の好転で、従来のリストラ型ERP投資に加え、増収効果が見込める“増収型ソリューション”への投資意欲が拡大しつつある。こうした市場の動きを見据え、ベンダー各社の提案内容にも大きな変化が生まれている。