東芝(岡村正社長)はこのほど、2004年度(05年3月期)から06年度(07年3月期)までの中期経営計画を発表、赤字に転落したパソコン事業が04年度には黒字化できる見通しを明らかにした。昨年から実施しているパソコン事業の抜本的な改革や、今年に入って「PC&ネットワーク社」を設立したことなど、改革が順調に進み、03年度(04年3月期)は1月の時点で265億円と見込んでいたパソコン事業の営業損失幅が縮まる見通しだ。“完全復活”に向けてパソコン、映像機器、電子デバイスのデジタル関連3事業の連携を強め、「“東芝らしさ”を発揮する」(岡村社長)と言い切る。その要になるのが、ようやくトンネルの先に出口の見えたパソコン事業になる。しかし、パソコン市場の見通しは決して明るくはない。(佐相彰彦●取材/文)
06年度までの3か年経営計画を発表
■立て直し進むパソコン事業、東芝流の“差異化モデル”に集中 東芝のパソコン事業について、岡村社長は、「1月に発表した数値(営業損失265億円)に比べて改善している」と、赤字幅が縮小する見通しを示しており、このほど発表した中期経営計画のなかで04年度には黒字転換できると宣言した。
「黒字化を達成する」という強気の姿勢の背景には、昨年から実施しているパソコン事業の立て直し策が着々と進んでいることがある。昨年度には、ワールドワイドで約500人の人員を削減。直販を含め東芝情報機器に国内販売を統合したことなど、国内外における販売体制の効率化といった改革に大ナタをふるった。今年1月には、パソコンとサーバー部門を切り離し分社化。改革のスピードをさらにアップすることで、今年度はパソコン事業で一気に黒字転換を狙うというわけだ。
今年度については、開発効率の改善と商品戦略の立て直しとして、24種類から12種類まで縮小したマザーボード数を今年度末までにさらに9種類まで減らす。現在、30%の生産外部委託比率を今年度中に50%以上まで増やし、ローエンドモデルのコスト競争力を強化する。社内リソースは東芝の技術力を発揮する東芝流の“差異化モデル”に集中させる。
生産体制については、国内の主力拠点の青梅工場(東京都青梅市)を量産試作の拠点とし、海外での量産体制を敷く。調達体制は、「青梅、中国、フィリピン、外部委託先を加えた4拠点が統合した形で部品調達を可能にすることで、コスト削減と製品の競争力を高める」として、海外との一体調達を強化する。
岡村社長は、「パソコンの低価格化やコモディティ化の流れに追随できなかったのが赤字の要因」と、シェアの大きさゆえにパソコン業界の潮流を読めなかったことを認めている。そのため、「現在のシェアを維持しながら、黒字化を確立する」という、徹底したローコスト化による利益増を狙っていく。
製品では、コストパフォーマンスのある機器に加え、「AV(音響・映像)機能を強化したパソコンを今年夏に発売する」と、東芝にとっての戦略的製品を投入することで黒字化に貢献させる考え。夏商戦以降に高付加価値の製品を投入することから、下期以降から黒字化に転換すると試算する。
■映像分野を柱に “東芝らしさ”がカギ 今回、東芝は薄型テレビやDVDレコーダーなどの需要急増に対応して、映像事業を新たにビジネスの柱として成長させることを明確にした。
岡村社長は、「予想以上にデジタル市場が急速に立ち上がったため、映像技術で出遅れている」ことを問題として、電子デバイス事業との連携を強化。製品化に関しては、各事業を横断したプロジェクトチームの発足や、人材の交流強化も進める。しかも、「パソコンの人員を、映像や電子デバイスに配置する」という。映像事業を柱に据えることにより、パソコンと映像、電子デバイスの連携を強化していく方針を示す。「当社の強みは、パソコンと映像、電子デバイスをもっていることだ。この3事業のシナジーを図っていけば、“東芝らしさ”を発揮できる」と、パソコン事業の回復にもつなげたいところだろう。
確かに、デジタル家電の追い風を受け、パソコンとの相乗効果を発揮できれば、回復路線に乗せる可能性も出てくる。しかし、200億円を超える規模の赤字を抱えるパソコン事業の黒字化は、低価格化のなかで容易ではない。
岡村社長は、「パソコン事業が大きな柱であることを変えるつもりはない。撤退は考えたこともない。ユビキタス時代に、パソコンは情報機器として重要な製品」と相変わらずの姿勢。しかし、現実を見れば市場の動きを把握できず、「低価格化やコモディティ化に対応できなかった」のは事実。従来のパソコン戦略が通用しないから、「映像分野との相乗効果を図る」として映像分野にシフトするのは、何も目新しい戦略ではないだろう。
今回発表したパソコン事業における戦略改革は、昨年10月から抜本的な改革の実施で営業損失の赤字幅が縮小したものの、パソコン事業の立て直しは、途半ばを示している。デジタルプロダクツ分野において、もはやパソコンだけでは将来的に利益を増やせないというのは業界全体の共通認識。デジタル家電との相乗効果で、パソコン事業が回復の軌道に乗ってくれれば、というならばあまりにも楽観的過ぎると言えないだろうか。そこは、各社がすでにしのぎを削っている分野なのだ。
 | 東芝の3か年経営計画 | | | 東芝が発表した経営計画は、2006年度に売上高を6兆2000億円(03年度実績見通しは5兆6500億円)、営業利益を2800億円(同1400億円)、D/Eレシオ100%(同180%)、海外事業比率50%(同40%)などを掲げている。06年度までの3年間で設備投資に1兆円、研究開発費に1兆1000億円をかける。 デジタルプロダクツ事業は、パソコン事業が昨年からの抜本的な改革により、「改善の方向」(岡村社長)にあると強調しており、04年度は黒字化を目指す。また、デジタル家電市場が急速に立ち上がっていることから、薄型テレビなど映像事業も新しく収益の柱とする。電子デバイスとのシナジーも追求し、パソコン事業、映像事業、電子デバイス事業で部門横断プロジェクトを |  | 発足することや人材の強化などに積極的に取り組み、戦略商品育成に向けた資金投入にも力を注ぐ。 電子デバイス事業は、「半導体で03年度に過去最高の設備投資を実施した。今後も、設備投資全体の半分は、電子デバイス事業に費やす」としている。社会インフラ事業は、グローバル展開やサービス・メンテナンスの強化、新規ビジネスの立ち上げなどで、安定事業として一層確立させる。 商品開発では、「デジタルプロダクツ事業と電子デバイス事業、社会インフラ事業をもつ相乗効果を出し、マーケットでの優位性を確保することが重要」と、売上増のけん引役となる戦略商品を93アイテム投入することを計画している。 | |